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「それでハルコン様! ローグの森でキングオーガを倒した時は、どうされたのですか? 首を落として持ち帰ると、ギルドではかなり高額の褒賞金が出るとのことですが、……」
「はははっ、そうですねぇ、……私もミラも殺生はいけないと思いまして。2人がかりで担いで森の奥に入っていったんですよ」
ハルコンは得意になって話すでもなく、あくまで淡々と、ステラ殿下に当時の状況をご説明した。
現在、ハルコンとステラ殿下、それにミラの3人は年齢が近いこともあり、王都の王宮に向けて進む馬車の中で、大いに話が弾んでいた。
すると、いつの間にかハルコンとミラの日常的なフィールドワークに、話が進んでいった。
ハルコンの話に、ステラ殿下は率直に疑問に思われたのだろう。以下のようにお訊ねになられたのだ。
「お二方は、日常的に森に入られたのでしょ? 危険なこととかありませんでしたか?」
ハルコンとミラはお互いに顔を見合ってから頷くと、ミラが、「殿下、実はですね、……」といって、少しだけ身を前に乗り出した。
「へぇぇーっ。聞きたいです! 森で何があったのですか?」
釣られるように、ステラ殿下も身を少しだけ前にお出しになられると、ハルコンとミラの武勇譚の続きを聞きたがって、先を急ぐようにお訊ねになられた。
「キングオーガと鉢合わせしてしまいまして。それで、直ぐに臨戦態勢に入りました!」
「怖くなかったのですか? キングオーガは、身の丈2メートル80センチ(地球のモジュール換算で表記しております)以上の巨体と伺っておりますが、……」
「怖かったですよ。いったん手足を掴まれたら、もうそれでお終いですからね!」
ミラがさも軽い感じで答えると、ステラ殿下は目を見張ってひとつ頷かれた。
「とりあえず、ミラと2人で死角に入り、関節を狙って攻撃したところ、足元のふらついたキングオーガは、岩に頭をぶつけて気絶してしまいました」
「そのまま、……首を刎ねて殺さなかったのですか?」
「しませんよ。血を見るのが嫌ですから」
ぶるると震えながら、率直に答えるミラ。ハルコンも笑顔でひとつ頷いた。
「そもそも、キングオーガの被害届が出ているワケでもありませんし。私達は2人ともお金には困っていませんから、2人で担いで森の奥に運んでいった後、特にギルドに届けたりはしませんでした」
「そんなぁ、……勿体ない。ミラさんは、それで良かったのですか?」
ステラ殿下は執着のないハルコンに呆れたそぶりを見せつつ、笑顔でミラにお訊ねになった。
「えぇ。まぁハルコンなら、そうしますから」
ミラはそう言って、ニッコリと笑う。こちらも同じく執着の「し」の字も見せないため、ステラ殿下は目を皿のようにして驚かれなさった。
「あなた方お二方は、周りから変わっているとか言われたりしませんか?」
「う~ん、そうですねぇ、……。まぁ、それも納得済みですから、私!」
屈託なく笑うミラに、殿下は呆れたように長いため息をお吐きになった。