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すると、……王宮周辺の様子が、いつもと違っていた。
「ハルコンッ!?」
「うん!」
ミラがいつになく警戒した調子で声をかけてくるので、ハルコンも周囲の様子を窺いつつ、ひとつ頷いた。
沿道には多くの人々が詰めかけていた。人々によって王宮までの通りが塞がれないよう、大勢の警備の衛兵達が警戒線を張って押し止めているのだ。
「コリンドの美しい姫君がいらっしゃったぞっ!」
「きゃぁーーーっっ!? 愛らしくて、お美しい! とても華奢なお姿だわっ!」
「この世の者とは思えないくらい、かわいらしいぞっ!」
「隣国の姫君は、黒髪でいらっしゃるのだな!?」
王宮までの沿道周辺は、ステラ殿下の入国を歓迎する声でいっぱいだ。
馬車が通過すると、あちこちから女性達の黄色い声が上がり、両国の友好を感極まって訴える男性の声や、最近王都で流行の「万歳三唱」で出迎える人々も大勢いた。
「「「「「「「「「万歳! 万歳!! 万々歳!!!」」」」」」」」」」
一斉に沿道に集まった人々が叫ぶものだから、馬車の客室の席にいらっしゃるステラ殿下は、その細い両肩をびくりと震わせた。
「ステラ殿下、……そうご心配なさらずともよろしいのですよ!」
「はい、ハルコン様。ただ、この迫力に気圧されてしまって、……」
「ハハハッ。まぁお気持ちはワカります」
ニコリとお笑いになられる殿下に、ハルコンとミラもニコリと笑顔で相槌を打つ。
「この度は、お二人が私の護衛をして下さり、誠にありがとうございます」
「いいえ殿下、お気遣いなく。今後王立学校でも、私どもがご一緒させて頂きますので、どうかよろしくお願い申し上げます」
ハルコンの言葉に、薔薇のような笑顔で頬を染められるステラ殿下。
そのあまりの愛らしさに、ハルコンの傍らのミラもつられて笑顔で頷いた。
馬車と警備の一行は、8日間の日程を終えて王宮前に到着。諸手続きを終えると、そのまま王宮内に入ることができた。
王宮内部とはいえ、中年の一級剣士達は警戒を怠らない。剣士が外から合図すると、ハルコンとミラは先に馬車を降りた。
すると、王宮の奥から女官達が数名、……すり足で馬車に近づいてきた。
「長旅お疲れ様でございました、ステラ第三皇女殿下! これから中にご案内をさせて頂きますわ!」
その中のいくぶん年齢の高めの女官が、代表してステラ殿下に声をかけてきた。
殿下は女官達に礼を述べて頷くと、馬車を降りた。
「何とか、無事に済んだね!」
「うん。特に不穏な動きもなかったし、良かったよ!」
ミラの言葉に、ハルコンもホッと一息吐く。
これで、……ひと先ず任務完了だ。