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「なるほどな、……ハルコン殿。貴殿は我がファイルド国を起点として、近隣諸国にまでその影響力を及ぼそうというワケかね?」
「仰るとおりです、陛下」
最近、ファイルド国王家直々の営業活動もあり、また仙薬エリクサーが良き「見本」となったことで、近隣諸国はこぞってファイルド国にロイヤルファミリーの子弟子女を「留学」という名目で送り込んでいる。
「彼らの大半は、おそらくこう認識しているはずだ。仙薬エリクサーを開発したファイルド国が、現在近隣諸国の中で一番『科学』の発展した優等国だ。今後、学問の中心地となりつつあるファイルド国で、数年の間最新の学問を学び、多くを吸収して、本国に持ち帰るぞ! とな」
「なるほど」
「だが今回、我はコリンド国のステラ第三皇女殿下にとって、『留学』はあくまで口実に過ぎないものと思っておる」
「ならば、殿下の本来の『目的』とは一体何なのでしょう?」
すると、国王陛下は「おや?」と一瞬驚いた表情を浮かべられた。
「ハルコン殿、……貴殿はせっかく『神の御使い』だというのに、……女性の『心』というものに、ちょいとばかし疎いんじゃないのかね?」
半ば呆れた調子でお話になる陛下。
「はぁ、……」
「今後、貴殿を狙う子女がますます増えると申しておる。『神の御使い』殿、その辺り、よぉ~く心してかかられよ!」
「……、気を付けます」
こちらの若干不服な気分のこもった返事に、「それとな、……我が娘についても、よろしく頼みましたぞ!」と付け加えて、ニヤリとお笑いになる陛下。
最近の陛下は、……もう全く真意を隠すつもりがないらしい。
ハルコンは、自身の前世が女性であったのに、陛下から女性の「心」に疎いと指摘され、内心腑に落ちなかったのだが、……。
その会談から数日後、……ハルコンは王族を始めとする関係者達と共に、隣国の姫君ステラ殿下をお迎えした晩餐会に出席していた。
ハルコンは、今や王立研究院の所長を務め、子爵位まで賜っている、いっぱしの貴族だ。
他のファイルド国側の者達と同様、ハルコンもまた注意深くステラ殿下の言動を見守ることにした。
すると、ステラ殿下は馬車の中で接した時と同様に、大変穏やかで落ち着いたご様子に見受けられた。
晩餐の席で、殿下ははきはきと年相応な様子で応対する一方、隣国の情報を軽々しくお話にはならない。
外交デビューで初々しさのある反面、なかなか交渉力のあるお方だとハルコンには思われた。
ラスキン国王陛下もお妃様も、これまで長年の間敵国であった国の姫君が愛らしいのに隙がないのを見て、率直にお褒めなさっている。
一方、シルファー先輩は張り付いた笑顔を全く崩さず、ご両親とステラ殿下とのやり取りをご覧になっていらっしゃる。
おそらく今後王立学校で、シルファー先輩とステラ殿下が「ご学友」になるのは決定事項だろう。
だから、先輩は今のウチからステラ殿下の人とナリをよぉ~く見定めようとお考えなのだろうと、ハルコンは思った。