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「ステラ殿下、とにかくっ、ハルコンが『神の御使い』様でいらっしゃるということは、絶対口外禁止っ! いいですねっ!!」
シルファー先輩が頭に角を生やしながらそう訴えると、殿下はとても不服そうだったが、無言でひとつ頷かれた。
「でも、……私はホンとのことを話したいだけですのに、……」
俯き加減のその美少女は、少しだけ面を上げた後、ちらりとこちらを見て、未練がましそうに呟いた。
「ダメですよ、殿下。ダメダメ。絶対禁止ですからねぇ!」
何だろう。ミラも笑顔だが、有無を言わさぬ「圧」を殿下にかけている。
おそらく、ここでちゃんとご納得して頂けないと、どこか大事な席でポンと本音を出しかねない危うさがあるからだろう。
ミラはシルファー先輩と一緒に、この一ヶ月、ステラ殿下と行動を共にしてきたからなぁ。
まぁ、先ず間違いなく殿下の危うさを理解した上での、この行動なのだろうね。
「もぉう、もうっ! お放しになって下さいっ、ミラッ!」
「ですから、殿下がハルコンの真の正体を公言でもされたら、大変危険なんです!」
「危険? それは一体どういうことかしら?」
ミラの剣幕に、キョトンとされるステラ殿下。
「だって、ほら、……。ハルコンが『神の御使い』だとバレてしまったら、殿下のようにここファイルド国に、続々とロイヤルファミリーの子女が押し寄せてきてしまうではありませんか?」
「た、確かに、……」
ミラの言葉に、殿下は得心したように頷かれた。
「まぁステラ殿下が、どうしてウチの国にわざわざ留学してきたのか、最初は疑問だったんだけどね。もしハルコン目当てだというのなら、殿下で最後にして頂きたいのよ!」
シルファー先輩が、やれやれといった調子でポツリと呟いた。
「もしかして、お二人はハルコンの婚約者だというのかしら?」
「まだ、正式には決まっていないのだけどね」
先輩の言葉を聞き、殿下がミラを見ると、ミラも当惑したような複雑な笑顔を浮かべている。
「ホンとヤァ~ね! モテる殿方と関わると、こちらの心ばかり乱されてしまって、碌なことになりませんわね?」
「「確かに、……ね」」
ステラ殿下の言葉に、シルファー先輩とミラがやれやれといった調子で、苦笑いをして頷いている。
ハルコンは彼女達の様子を見て、漸く3人の間で話が済んだのかなぁと思った。
女子の間の諍いに巻き込まれるのは甚だ面倒なので、ハルコンは先程より、ステラ殿下の側仕えの女性と共に、テーブルでジグソーパズルを組み立てていた。
テーブルの上に、600ピースのジグソーパズルを完成させると、ハルコンと側仕えの女性の2人で「「イェーイッ!」」とハイタッチ。
その直後、ハルコンは当たり障りのない笑顔を浮かべながら、「話はもう付きましたか?」といって、シルファー先輩達3人の許に歩を進めるのだった。