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「私ね、本国で弓使いの女エルフと呼ばれる方から、いろいろと教わりましたの。ハルコンが実は『神の御使い』様でいらして、我が国の窮状を憂いてお救いになられたのだと、……」
ステラ殿下はそう仰いながら、笑顔のままこちらに少しずつにじり寄ってこられた。
「いいえっ。私はただの人間ですよ!」
「そんなこと、ございませんっ! 最初、ハルコンの正体について、私の心のウチだけにとどめておくと心に決めておりました。でも、もうこの溢れる思いを抑えることができません!」
殿下はそう熱く語られると、こちらの両手を抱え込むように強く握ってこられた。
「スッ、ステラ殿下っ!?」
間近で殿下のその表情を窺うと、頬を紅潮させて、まるで熱狂的な崇拝者のように、じっとこちらを見つめてこられるのだ。
ハルコンは、先日国王陛下と面談した際に、「女心をワカっていない」と苦言されていた。その時のことが、急に頭の中をよぎったのだが、……まぁ、後の祭りか。
ふと背中から視線というか「圧」を感じ、後方にいるミラとシルファー先輩を見た。
すると、女子2人はお互いに頷き合うと、笑顔だけど目が少しも笑っていない表情で、こちらに歩み寄ってきた。
「ほらほら、ステラさんや、……前言撤回とか、抜け駆けはいけませんぜ!」
そう先輩が張り付いた笑顔で仰ると、ミラと2人がかりで抱き付いたステラ殿下を引き剥がしにかかったのだ。
「お止めになって! お二人とも!」
そう叫びながら必死になって抵抗される殿下だが、数に劣って引き剥がされる。
「えっ!? えっ!?」
思わず、呆気に取られるハルコン。
その場で何とかして、ステラ殿下の言葉を否定しようと思ったのだが、……。
「「いいのよ、ハルコン!」」
笑顔のシルファー先輩とミラ。2人に両脇を抱えられているステラ殿下は、どこかしょんぼりとしている。
「えっ!? えっ!? 一体どういうことですか?」
すると、……シルファー先輩とミラが、口元に手を当ててクスクスと笑い始めたのだ。
「2人とも、どうしてそんな反応っ!?」
「くすくすくす、……あぁ~っ、ご冗談がお上手ですのね、ステラ殿下は!」
シルファー先輩が明朗な笑顔でミラに仰ると、ミラも快活そうにニッコリと相槌して笑った。
そして、ミラはこう優しそうな声で語りかけてきた。
「ハルコン、後は大丈夫。私達で上手くやるから!」
「えっ!? どういうこと?」
ミラの言葉に戸惑いつつ訊ね返すと、シルファー先輩も「いいのよぉ!」と、慈愛に満ちた表情と声で仰った。
何だろう!? 2人の有無を言わさぬ笑顔の迫力に、ハルコンは思わず口を噤まざるを得なかった。