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33 姫君ステラ・コリンドの留学 その2_09

   *          *


 週末の今日、ハルコンはミラと共に王宮に訪れると、厳重なセキュリティーチェックを受けた後、ステラ殿下のいらっしゃる庭の離れにある住居に向かった。


「いらっしゃい! お待ちしておりましたわ。ハルコン、ミラ、どうぞ、お上がりになって!」


 玄関先まで出てこられたステラ殿下が、中に招き入れて下さった。


「「失礼いたします」」


 そうこちらが申しながら中に入ると、殿下は少しだけ首をおひねりになられた。

 どうやら、隣国ではこの挨拶はしていないらしい。


「殿下、友人の家に招かれた際、中に入る時に『失礼いたします』とか『お邪魔します』というのが、こちらの流儀なのですよ」


「まぁっ、そうなんですの!?」


「えぇ、そうです」


 廊下の奥の方からやってきたシルファー先輩が、それとなくステラ殿下に教えると、殿下はひとつひとつ納得されたご様子で、笑顔で頷かれていた。


 ハルコンは、お二人の気の置けないやり取りを見て、「おや、なかなかどうして、……結構仲良くやっておられるなぁ」と思った。


 当初ハルコンは、シルファー先輩とステラ殿下がお互いにライバル心を剥き出しにして、競争し合うのではないかと危惧していたのだが、……。


 でも、蓋を開けてみると、お二人はとても仲がよろしいご様子。


 ハルコンは隣りのミラに目をやると、ニッコリと笑顔だ。


 先輩と殿下は、共に賢いお方だ。互いに相手のことをライバルだと思っていても、周囲には仲のいい間柄に見せる方が正しいのなら、躊躇なくそうするのだろうと思われた。


 すると、ミラがさりげなく、こちらにいい感じの朗らかな笑顔を向けてくるので、ひとつ頷き返した。

 なるほど。ミラもその辺り、微妙に感じ取っていたワケか。


 よく日の当たる部屋に通されてソファーに腰かけていると、殿下の側仕えの女性がいいタイミングでお茶と菓子のセットを運んできた。


「私ね、こちらに留学する前、本国ではほとんど甘味に触れることがなかったのですよ。それが、こうして毎日甘いクッキーとかプリンを食べられるんですよ。もう、それだけでここまできた甲斐があったというものです」


「殿下、我が国でも食べられるようになったのは、ここ最近のことなのですよ」


 殿下と先輩は互いにそう仰ってから、笑顔でスプーンを口元にお運びになった。


「これって、麦芽を煮詰めて糖を取り出しているのよね。ハルコンってさ、よくこんなこと思い付くわね。感心しちゃうな、私」


 ミラが甘味に油断したためか、うっかりバラしてしまった。


「ほぉ~ぅ。これもまたハルコン、ですか?」


 ステラ殿下の目が、次第に怪しい光を帯びてきた。

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