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ステラ殿下が王宮にこられて、早くも一ヶ月が経過した。
当初は長旅の疲れや、環境の変化に慣れないご様子で、いくぶんお疲れの色が濃かったのだが、ここ最近は明るく元気になられている。
殿下と側仕えの女性は、そのまま広大な王宮の庭の隅に立つ、こじんまりとした2階建ての離れに居を構えると、連日多くの訪問客と接するようになった。
王立学校には、王宮に到着したその翌週から通うようになった。
殿下のいらっしゃった隣国コリンドには、そもそも学校という教育機関がなかった。
そのため、通学初日を迎える前日の夜は、「とても楽しくて、眠れませんわ!」と興奮しながら仰られて、学校の様子をお伝えにこられたシルファー先輩と、夜通し語り明かしたらしい。
ハルコンは、そのことを後で先輩から直接聞いた。
ステラ殿下が初めて学校にこられた際、元気溌剌でいらしたのに、一方でシルファー先輩は、「もう勘弁して、……」とばかりにお疲れ気味だったのは、何とも不思議だった。
状況を聞いて、「なるほどそういうことだったのか」と、ハルコンは思わず微笑ましい半面、苦笑いせざるを得なかった。
学校でのステラ殿下は、明朗活発、眉目秀麗、隣国のロイヤルなお方と三拍子揃っているため、学生達は歓迎の声で大騒ぎだった。
「ステラ・コリンドと申します。これまでは家庭教師の指導の下、勉学に励んで参りました。ですが、一念発起いたしまして、……ここファイルド国王立学校に留学する決心をし、今に至ります。私の無知のなすことや、はたまた習慣の違いなど、皆様にはご不快なこともするかもワカりませんが、ぜひご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」
そう流ちょうな言葉で殿下が仰ると、講堂に集められた生徒達のハートをしっかりキャッチなされたようだ。
ハルコンはミラ共々、王宮から殿下の学校内での護衛の任務を言い渡されている。
殿下は終戦から10年以上経過したものの、ここ最近まで「敵国人」の扱いだった。
そんな彼女が、持ち前の愛らしさや機転の良さで「学校のアイドル」になるのは、時間の問題だった。
だから、もしものことがないように、年齢が近く武芸にも秀でたハルコンとミラに白羽の矢が立ったのだ。
「「はい、謹んでこの任務お受けいたします」」
ハルコンはともかく、ミラは現在騎士爵の身分だ。ステラ殿下の護衛任務はまさに打って付けで、お役目を果たすために、一生懸命目を光らせている。
「大ぃ~丈夫だって。私も任務を手伝うから、そんなに気を張らなくていいよ!」
ハルコンはそう言って、少々入れ込み過ぎのミラをリラックスさせようとするのだが、……。
「でも、ハルコンは放課後、研究所の所長の任務があるでしょ? 私はその点フリーだからさ、張り切っていきたいと思うんだ!」
「なるほど」
ミラのその言葉に、「尤もな考え方だなぁ」と、ハルコンは思った。