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「うぅ~ん、とりあえず、……そうですねぇ」
ハルコンはそう呟くと、常備薬で胸元に忍ばせている試験管をひとつ取り出した。
「それって?」
サリナ姉が不思議そうに訊ねてくる。
一方でミラは、「あぁ~っ、そっか。なるほど!」と呟き、合点がいったように目を見張った。
「ハルコンB(仙薬エリクサータイプBの商品名)です。私はこれを飲んで、よく徹夜作業をすることもあるんですよ!」
そう言って、得意になって笑顔を向けたところ、姉達2人からは、「「ウゲェ―、ダメだよぉ、ちゃんと睡眠取らなきゃぁ!」」と苦言を呈されてしまった。
ふむ。2人に本筋以外のところで話の腰を折られてしまったが、めげずに話を進めることにしよう、……と、ハルコンは2人の心配そうな目を窺いながら思った。
「ま、まぁいいでしょう。とりあえず、この栄養剤を1000倍に薄めて、今にも枯れそうな花々に吸わせてみるとしますか!」
姉達2人の頭の中には、「栄養剤の原液を希釈して、植物に活力を与える!」という発想が、そもそもなかったようだ。
ハルコンの提案を聞いて得心したのか、2人とも目を見張ってうんうんと頷いている。
「なるほどっ!」
「いいね、やろやろっ!」
サリナ姉もミラも、頗る乗り気のようだ。
ミラと一緒に水汲み場で桶一杯分の水を用意してくると、大体2リットル(地球の単位に言い換えています)の水にハルコンBを数滴垂らした水溶液を作った。
「ハルコン、そんなんでいいの?」
「はい。濃すぎると、かえって枯らしちゃいますからね!」
「なるほど!」
姉サリナはそう返事をすると、ミラと共にうんうんと頷いた。
ハルコンは、さっそく約1000倍に希釈した水溶液を、枯れかかった花が活けられている花器の水と、そっくり入れ替えてみた。
「さて、……どうでしょうかね?」
3人はしばらくの間、その花の様子を観察した。
すると、みるみるうちに茶色く枯れていた花が鮮やかな赤色に変化して、元の勢いを取り戻してしまったのだ。
「「すっ、凄いねっ!?」」
驚きの声を上げつつ、ホッとした表情を浮かべる姉サリナとミラ。
「たぶん、これでOKだと思いますよ!」
ハルコンの言葉に、2人は「「キャーッ!!」」といって、両手を取り合って喜んでいる。
これにて一件落着かな。それにしても、……原因は一体何だったんだろう?
そう言えば、私が晴子だった頃、地球でも植物に同様の症状が現れることがあったよね。
「確か、……フラワーインフルエンザ、……」
ハルコンは、思わず口に出してしまった。
「「えっ!? 何々?」」
不思議そうにこちらをじっと見つめてくる、姉サリナとミラの2人。
「い、いいえ、……何でもありません。こっちの話、……です」
とりあえず、……2人には、まだこの仮説のことは黙っていよう。
だが、もし最悪枯死の原因がフラワーインフルエンザだった場合、……通常なら、必ず焼却処分しないといけないんだけどね、……と、ハルコンは少しだけ不安に思った。