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34 王立学校祭 その1_04

   *          *


「うぅ~ん、とりあえず、……そうですねぇ」


 ハルコンはそう呟くと、常備薬で胸元に忍ばせている試験管をひとつ取り出した。


「それって?」


 サリナ姉が不思議そうに訊ねてくる。

 一方でミラは、「あぁ~っ、そっか。なるほど!」と呟き、合点がいったように目を見張った。


「ハルコンB(仙薬エリクサータイプBの商品名)です。私はこれを飲んで、よく徹夜作業をすることもあるんですよ!」


 そう言って、得意になって笑顔を向けたところ、姉達2人からは、「「ウゲェ―、ダメだよぉ、ちゃんと睡眠取らなきゃぁ!」」と苦言を呈されてしまった。


 ふむ。2人に本筋以外のところで話の腰を折られてしまったが、めげずに話を進めることにしよう、……と、ハルコンは2人の心配そうな目を窺いながら思った。


「ま、まぁいいでしょう。とりあえず、この栄養剤を1000倍に薄めて、今にも枯れそうな花々に吸わせてみるとしますか!」


 姉達2人の頭の中には、「栄養剤の原液を希釈して、植物に活力を与える!」という発想が、そもそもなかったようだ。


 ハルコンの提案を聞いて得心したのか、2人とも目を見張ってうんうんと頷いている。


「なるほどっ!」


「いいね、やろやろっ!」


 サリナ姉もミラも、頗る乗り気のようだ。


 ミラと一緒に水汲み場で桶一杯分の水を用意してくると、大体2リットル(地球の単位に言い換えています)の水にハルコンBを数滴垂らした水溶液を作った。


「ハルコン、そんなんでいいの?」


「はい。濃すぎると、かえって枯らしちゃいますからね!」


「なるほど!」


 姉サリナはそう返事をすると、ミラと共にうんうんと頷いた。


 ハルコンは、さっそく約1000倍に希釈した水溶液を、枯れかかった花が活けられている花器の水と、そっくり入れ替えてみた。


「さて、……どうでしょうかね?」


 3人はしばらくの間、その花の様子を観察した。

 すると、みるみるうちに茶色く枯れていた花が鮮やかな赤色に変化して、元の勢いを取り戻してしまったのだ。


「「すっ、凄いねっ!?」」


 驚きの声を上げつつ、ホッとした表情を浮かべる姉サリナとミラ。


「たぶん、これでOKだと思いますよ!」


 ハルコンの言葉に、2人は「「キャーッ!!」」といって、両手を取り合って喜んでいる。


 これにて一件落着かな。それにしても、……原因は一体何だったんだろう?

 そう言えば、私が晴子だった頃、地球でも植物に同様の症状が現れることがあったよね。


「確か、……フラワーインフルエンザ、……」


 ハルコンは、思わず口に出してしまった。


「「えっ!? 何々?」」


 不思議そうにこちらをじっと見つめてくる、姉サリナとミラの2人。


「い、いいえ、……何でもありません。こっちの話、……です」


 とりあえず、……2人には、まだこの仮説のことは黙っていよう。


 だが、もし最悪枯死の原因がフラワーインフルエンザだった場合、……通常なら、必ず焼却処分しないといけないんだけどね、……と、ハルコンは少しだけ不安に思った。

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