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時刻は10時25分。選抜された8人による決勝トーナメントまで、あと残り5分。
ハルコンとシルファー先輩、ステラ殿下の3人がギリギリで席に着くと、会場はもう満席状態だ。
今回、3人は特別扱いを避けるため、VIP向けの観覧席には座らない。
指定席とはいえ3人並んで一般向けの席に座っていると、周囲は多くの女子学生達で占められていた。
凄い熱気っ! この大会にかける情熱に、並々ならぬものを感じさせられた。
そして、サークルの顧問を務める老女教師が競技会場の中央の席に立ち上がると、
『それではっ! 決勝の競技っ、始めっ!!』と高らかに宣言。
その言葉と共に、……ついに、最終の闘いの幕が切って落とされた。
8人の競技者達は皆、真剣な表情で作業に深く熱中する。
精神の集中した青白い炎のともる静寂の中、会場全体に緊張感が張り詰め、花バサミを入れる音だけが静かに響き渡る。
ざっと見たところでは、欠伸などする者は皆無。
フラワーアレンジメントは今、王都の女子達の流行の最先端を担っている。
そのトップランナー達が集うこの大会は、見学チケットを取るだけでも至難の業だと、後でハルコンは王立研究院の職員から聞かされた。
観客席の多くの女子学生達は、競技者達の作業を食い入るようにして見守っている。
おそらく、彼女達はこのフラワーアレンジメント大会の参加者達で、予選で惜しくも敗れた者達だろう。
皆、決勝トーナメントに進出した8人の作業を見て、多くを学ぼうと思っているのか、とても真剣な表情をしていた。
これは、マズったよなぁとハルコンは思った。
本気勢(ハルコンは、「ガチ勢」という言い方をかなり嫌っているため、こう表現しています)がこんなにいるところで、先ほどの恋のから騒ぎは大変よろしくなかった。
幸いにも、サリナ姉様が上手く捌いてくれたおかげで私は助かったし、両殿下も救われた。
たとえ権力の中枢、ロイヤルファミリーの一員であっても、民との信頼関係が薄れてしまったら、その先に手酷い目に遭うのが目に見えている。
これは、姉様が機転を利かしてくれたおかげだなぁと、ハルコンは素直に感謝した。
でも、……それにしてもさ。
さっきのサリナ姉様、……両殿下やミラに、一体何を吹き込んだのだろう?
ハルコンは、ここで両隣にお座りになる、お二人の様子を窺った。
すると、お二人とも相変わらず耳先まで顔を真っ赤にし、何やら小声でぶつぶつと呟いていらっしゃるのだ。
何だろう? 私の名前をしきりにお呼びになってお出でだが、……。
まぁ、……若干イヤな予感がしないでもないが、……。
今度、ミラに姉様から何と言われたのか、さりげなく問い質してみよう。
そうハルコンは思った。