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37 研究所の長い一日_18

   *          *


「なるほど。これがその金属の容器ですか?」


 ハルコンは隊商のメンバーの青年、ハンスから直接受け取ると、その容器をじっと見た。


 見たところ、その容器に何が入っていたのか、皆目見当がつかないのだが、……。

 でも、隊商で経験豊富な彼らなら、こういう道具にも詳しいのではと思った。


「皆さんは、この容器の使用目的とか、……おワカりになりますか?」


「いいや、全く。ハルコンの旦那、私らはこういったものをトンと見たことはありませんぜ!」


 隊商のリーダーがそう答えると、他のメンバー達も、「見たことがねぇ」とか「何に使うんだこれ?」とか言って、首を左右に振っている。


 どうやらこの容器は、商人が使うような道具ではなく、全く別の目的で使用されているのではないかとハルコンは推察した。


「カルソン教授は、何かご存じではありませんか?」


 ちらりとそちらを見上げると、教授はその場に立ったままの姿勢で、顎に手をやって思案した素振りを見せた。


「所長、これは私にもワカりません。あなたなら、何か見当がつくのではありませんか?」


「そうですねぇ、……。私なら、この金属の容器の中に毒物を入れたりしますかね?」


「毒物、……ですか?」


 怪訝そうな表情を浮かべながら、カルソン教授がこちらをじっと見てきた。

 隊商のメンバー達も、同様に不思議そうな顔をしている。


「はい。鳥類の渡りの習性を利用して、毒物を任意の地域に送り込むことができないかと思いまして、……」


「まさかっ!? 渡りの習性を利用して、……ですか? フッ、ククッ、所長、渡り鳥は確かに本能のようなもので移動していると思いますが、……。あくまで季節単位で移動していますから、毒物が届くのは季節を跨いだ後になってしまうと思いますよ!」


「プッ、ワハハハッ、違いねぇ! いくら剣呑なことを仰る立派な所長さんでも、子供らしく純粋な気持ちをお持ちでいらっしゃるんですなっ! ククッ、コイツはおかしぃ~やっ!」


「「「「「「「「「「「ワハハハハッッ!!」」」」」」」」」」」


 そんな具合で、大部屋全体が温かい笑顔で包まれた。


 先ほどまで隔離されていた隊商のメンバー達、数名の王立療養所のスタッフ達が大いに笑っている。カルソン教授とNPCのファルマ看護師も微笑んでいる。


 言った本人のハルコンもまた、笑顔で皆に接していた。

 だが、……内心では、自分の言ったことが嘘偽りのない本音のつもりだよ、と思っていた。


 カルソン教授の言った「毒物が届くのは季節を跨いだあとになってしまう」ことこそ、まさに時限爆弾的な効果を発揮するんだとハルコンは懸念する。


 実際の話、隊商の皆さんがばっちり鳥インフルエンザに感染しちゃってるじゃない。


 それにさ、……私の前世、晴子の頃、アルメリアの悪魔どもは渡り鳥を利用して、冬季節に強毒性の鳥インフルエンザをばら撒く計画を立てていたんだよ。


 だから、……今回の件も、私は1ミリたりとも油断していないんだ、とハルコンは強く思った。

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