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「それでは、館内をご案内しますね!」
「あぃ。ハルコン殿直々に、……誠に感謝でやす」
そう言って、女盗賊はハルコンに対し恭しく礼を述べ、頭を大げさに下げている。
それからの彼女は、廊下を共に進みながら、ハルコンによる施設の説明を興味深そうに聞いていた。
ハルコンは、女盗賊に今の自分をよく知って貰おうと思いながら、所内各所を回った。
女盗賊のようなワイルドで妖艶な美女が所内を歩いていると、真面目そうな研究員達がまじまじと彼女を見て、顔を赤くさせていたりした。
そうやって、所内のプロジェクトのさわりだけを見学させると、元女盗賊の彼女は眼を輝かせて話を聞いていた。
一方、カルソン教授は途中からやってきたシリア秘書長にいくつか言付けをすると、彼女は先に所長室に戻っていった。
ハルコン所長の週明けのサスパニアへの出張旅行に、優秀で頼もしい護衛を付けることが急遽決まったワケで、……。
秘書長としては、今後もこのご縁を大事にして、継続的に女盗賊に依頼をかけようと思ったのだろう。
さっそく正式な書面をいくつも用意して、契約書を交わす気満々の様子で待ち構えていた。
そうやって予め書類を用意させた後で、ハルコンは女盗賊を所長室に連れてゆく。
段取りどおり、秘書長に急いで手配させた書面で、正式に護衛依頼をかけることにしたのだ。
すると、革製のフカフカとしたソファーに座った女盗賊は、少しだけ苦い表情を浮かべた。
「ハルコン殿とアタイとの仲でやす。別に、……書面なんかいらんでやすのに、……」
「いいえっ! 親しき関係だからこそ、私はこういった手続きを疎かにしたくないのですよ!」
その言葉を聞いた女盗賊は、意外そうに一瞬目をパチクリさせた。
「なっ、なるほど。ハルコン殿がそうば仰るのなら、……」
そう言って、書類の文面に目を落とし始める女盗賊。
まぁ何だかんだで、女盗賊も今ではいっぱしの実業家だ。
実際、新規ビジネスを始めようと、王都までこうして進出してきたワケで、……。
そのひとつとして、建築現場に獣人達を送り込み始めているのだからね。
通常のヒューマンでは、気難しい獣人達を束ねたり、ましてやそのネットワークに関わることなど至難の業だったのだが、……。
でも、女盗賊独特の経歴と人脈により、この難問をクリアしていたんだ。
だから、女盗賊のビジネスは、今後この王都でも大いに発展していくことになると思うよ。