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「……というワケでして。王立研究所の所長を務める私自らが、ハルコンBをサスパニアまで送り届けることになったんです!」
「なるほど。それで、女盗賊殿に道中の護衛依頼をかけたというワケでしたか、……」
「はい。正直、こうして彼女に引き受けて貰えて、とてもラッキー(もちろん、ファルコニアでの表現となります)だったなぁと思っています!」
その言葉を聞いて、大店の商人はちらりと女盗賊の方を見た。
「あぃ、……ぬけがけの誹りは覚悟の上だす! だども、こんずまたハルコン殿と一緒さ移動できるとあって、げにまっこと嬉しかでやす!」
そう言って女盗賊が白い歯を見せながら、気さくそうに微笑んだ。
すると、……傍のドワーフの親方や一級剣士達もまた、とても興味深そうにこちらの話を窺っている様子だ。
さて、……どうしようかなぁと、ハルコンはメンバー全員の顔を見て思った。
そもそもサスパニアとは、隣国コリンドの更に西側にある中規模の国だ。
そして近年、コリンドとの和解が進んで国交が樹立された結果、現地を経由して、サスパニアから様々な物資がファイルド国まで届くようになってきた。
例えば、こちらでは珍しい稲作もサスパニアでは行われている。
徐々にではあるけれど、王都でもコメが出回るようになってきているのだ。
「とりあえず、週明けにもハルコンBを一定数確保できたところで、こちらからサスパニアまで、現地視察も兼ねて出張しますよ!」
「それでは、ハルコン殿。その現地視察に、……私も同行することは叶いませんか?」
すると、大店の商人の言葉を皮切りに、メンバー全員の眼の色が一瞬で変わってしまった。
「ならば、ワシも同行できないかの? これまで長く生きてきたつもりだが、まだサスパニアにだけは、いっておらぬのでな!」
「えぇ。私もですわ!」
ドワーフの親方の言葉に、女エルフもうんうんと強く頷いて同調している。
その傍らで、一級剣士が不敵そうな笑みを浮かべながら、女盗賊の盃に酒を注いでいる。
「女盗賊殿。此度は大変ラッキー(もちろん、現地語での表現となります)であらせられたな!」
「あぃ。たまたまでやすよ! ホンにアタイだけ、誠に面目ねぇ話だども、……」
それとは別に、女占い師だけは終始無言で手酌していた。
そして、何やら言いたげな様子で杯を一息に飲み干すと、テーブルにタンッと置いた。
「ハルコン様っ!」
その席のメンバー全員が見守る中、……女占い師はゆらりと立ち上がった。