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ここでハルコンは、ポケットから金属製の小さな容器を取り出した。
「女占い師さん、……こちらの容器に、何か見覚えはありませんか?」
「拝見いたしますわ!」
そう言って身を寄せてくると、こちらの右手にある小さな金属の容器を、つまんでじっと見始めた。
「……、何かしら、……これ?」
他のメンバー達も、「どれどれぇ」と興味深そうに、その容器をじっと見た。
「のぅドワーフ殿、我はこういった細工物を見たことがないのであるが、……」
「ふむ、……ワシも、トンと見たことがないのぅ」
一級剣士やドワーフの親方ら他のメンバー達も、半身を乗り出して女占い師から受け取ると、その金属物を見て腕を組む。
でも、……どうやら見当が付かない様子で、それぞれ首を捻っていた。
「この容器には、ごく少量の『何か』を入れておいたのでしょう。だが、一体何が入っていたのやら、……」
「そうでやすね」
どうやら、大店の商人や女盗賊にも、皆目見当が付かないようだ。
「あのぅ、……ハルコン様は、どうお考えですか?」
女エルフが、右手を上げて訊ねてきた。
ハルコンはそんな彼女の表情を見て、何かしらの心当たりがあるのではないかと思った。
「もしかして、……女エルフさんは、この容器をご存じなのですか?」
「えぇ、何度か見覚えがあります。隣国コリンドの宮殿に仕えていた時に、湖水地方の領主数名から宮殿宛に問い合わせがありまして、……」
「ほぅ。湖水地方ですか?」
「はい。湖の渡り鳥が、いっせいに死んでいたとの報告を受けておりまして、……」
ハルコンはそう訊ねながら、サスパニアの若い隊商の証言と極めてよく似ていることに思いを巡らせていた。
そして女エルフの表情には、何か言いたそうな様子が見受けられた。
「女エルフさん。それらの容器は、もしかすると渡り鳥の首にかけてあったのではありませんか?」
ここで、女占い師が話の輪に加わってきた。
「はい。容器を付けたままの渡り鳥が、現状のまま宮殿に届けられたこともありまして、……」
ハルコンは女エルフの話を聞きながら、前世の晴子の頃のとある計画に思いを馳せながら、ひとつの推論を導き出していた。
「女エルフさん。以前コリンドの宮殿にて、皇族の皆様だけでなく、多くの官吏達まで体調不良だったことがありましたよね?」
「えっ!? えぇ、……そうでしたね」
こちらの問いかけに、女エルフは顎に手をやって、その場でホンの少しだけ考え込んだ。
「ハルコン様は、もしかしてその小さな容器の中に、何者かが毒物か何かを仕込んでいたのだとお考えなのですか?」
「えぇ。私は、……そう確信しております!」
すると、その言葉を聞いて、メンバー達はこちらの推論に何ら疑うことなく、……怒りの感情をあらわにした。