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「つまり、……ハルコン殿は、何者かが毒物をこの小さな容器に入れて渡り鳥を飛ばし、コリンドでばら撒いたとお考えであるのか?」
「えぇ。ほとんど、それに近いですね」
「それに近い、……とは?」
一級剣士からそう訊ねられると、正直に自身の見解を伝えるべきだと強く思った。
「はい。先ほど容器に入っていた残留物を研究所で解析したところ、その中身は『フラワーインフルエンザ』であることが判明しました!」
ハルコンは、ここで自らの見解を、平易な言葉で正直にメンバー全員に伝えようと思った。
その考えによると、……容器に入った「フラワーインフルエンザ」に空気感染した渡り鳥の体内で、「鳥インフルエンザ」に先ず変異する。
その後で、感染した鳥の本体及び糞などから放出された「鳥インフルエンザ」が、休憩地の湖水エリアなどで同じ鳥同士の間で広く伝播する。
更に感染個体の増えた状態で、次は牛といった家畜などの哺乳類まで感染させる。
最終的に、その突然変異した「鳥インフルエンザ」が、今度はヒトを襲い始める、……という仕組みだ。
しかも、伝播するごとに「毒性」が増してくることも、加えてコメントした。
すると、その見解を聞いたメンバー達は、仕組みの巧妙性に非常に驚いたようだ。
「なるほど、ハルコン殿。渡り鳥ゆえにその移動速度を考えると、季節を跨ぐことになるのだが、……その点はどうお考えであるのか?」
「はい。むしろ、その方が好都合でしょうね。だって、誰がばら撒いたのか、証拠を上げることが非常に困難になりますからね」
「なるほど、……」
「はい。それこそが、生物兵器の極めて悪質な仕組みなんですね!」
その言葉を聞いて、質問した一級剣士だけでなく、女エルフや女占い師も苦い表情を浮かべた。
こんな極めて巧妙で悪質な生物兵器攻撃という発想は、地球でさえ漸く近代に出てきたものなのだから、……。
ここで、「私が質問してもよろしいでしょうか?」といって、大店の商人が手を上げた。
「つまり、ハルコン殿のお考えでは、先ず小さな容器に入った『フラワーインフルエンザ』では、ヒトには感染しないと。その渡り鳥の体内で一度変異させることで、鳥からヒトへと感染させる、……というワケですかな?」
「はい、仰るとおりです」
大店の商人の問いかけに対しこちらが素直に頷くと、他のメンバー達も納得したようにうんうんと頷いた。
すると、先ほどより容器が開閉する仕組みを調べていたドワーフの親方が、開口部をパカパカと開け閉めさせながらコメントを始めた。
「ワシは、この容器が何かのきっかけで開閉するギミックに、関心があるのぅ。まぁ、その中身が『インフルエンザ』というウイルス? それだけで、眩暈がしそうだわい!」
そう言って、親方が怪訝な表情を浮かべると、メンバー達もそれに同調した。
「で、ハルコン坊。これだけ緻密で壮大な仕組みを思いついたヤツが、仮にサスパニアにおるとして、……。これから現地にいってどうするのかのぅ?」
その質問に、メンバー達も同じ考えに至ったのだろう。
この席の誰もが強い関心を示した様子で、……。こちらの見解を聞こうと、じっと見てきた。