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ハルコンはゆっくりと振り返って、微笑まれる女神様に渾身の笑顔を向けた。
以前、女神様とお会いしたのが7歳の時だったから、……。
ホンと、お久しぶりの再会だなぁと、ハルコンは懐かしく思った。
「相変わらず、お変わりなく。女神様はお元気でいらっしゃいましたか?」
ハルコンの目と鼻の先にいらっしゃる女神様は、まるで数日前にお会いした時のように、全くお変わりがない。
その永遠の美を体現されたようなお姿に、ハルコンは思わず背筋がゾクリとした。
「ふふっ、私はいっつも元気ですよ。晴子さんは、日々充実してお過ごしのようですね」
ニコリと微笑みつつ、ハルコンの両肩を優しく撫でられる女神様。
そのご様子は、あたかもかわいい孫を慈しむ、祖母のような雰囲気を湛えていた。
「はい、私ももう11歳です。王立研究所の所長を任されまして、……。周りから支えられながらですが、何とか役職を全うしているところです」
ハルコンとしては、自分が今、仕事にも人生にも充実しているところをアピールしたつもりだった。
でも、女神様は笑顔を保ちつつも、どこか悩みを抱えたような表情で、こちらを見てこられたのだ。
「晴子さん、……最近、ちゃんと眠れてますか?」
「えっ!?」
さすがは女神様だ。全てお見通しらしい。
ここ最近、ハルコンは喫緊の仕事を回すことを優先していたため、学生寮に戻って、自室のベッドで眠ることも稀だったのだ。
「目の下に、……クマでもできてましたかね?」
躊躇いがちに、こちらがそう訊ね返したところ、女神様は一瞬きょとんとした表情を浮かべられた。
「いいえぇ。晴子さんは、そんな人に弱みを見せるような真似は、されないのでしょ?」
「まぁ、……そうですね」
「どうせ、晴子さんのことです。ハルコンB(エリクサータイプBのこと。栄養剤としての効能だと、これさえ飲めば、1日48時間闘うことが可能となる万能薬です!)を飲みながら、ルーティンの仕事をこなされていらっしゃるのではありませんか?」
「……、はい」
図星だった。さすがは女神様。全く隠し事ができないなぁとハルコンは思った。
「ねぇ、……。私はね、晴子さんがこのファルコニアの世界にくる時に、こう申しました。何をやっても、よろしいのですよ。だって、あなたの人生なのですから、……とね」
「……、えぇ。そうでした」
「ですが、何もこの世界にきてまで、ハルコン・セイントークになってからも、全く聖徳晴子と変わらない生活をお送りになられるのですね、あなたは?」
「はい、……。面目ないです」
そう言って、こちらとしても申しワケないと思ったため、素直にぺこりと頭を下げた。
「もうっ! いつも見ていてハラハラさせられてしまうんですからねっ!」
ちらりと覗き見ると、女神様は笑顔を浮かべつつも、どこかお怒りの雰囲気も漂わせていらした。
このままだと、女神様から何らかのペナルティ、もしくは行動制限でもされてしまいかねないかも、……と、少々不安な気持ちになるハルコンだった。