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「よろしい。では、次にサスパニア出張について、お話をしましょうか?」
「は、はいっ、……」
すると、先ほどとは打って変わって、女神様はニッコリと笑顔をお作りになられた。
最初にお会いした時の女神様は、もっとこう、……美しくも威厳のある、まさに女神たらんとした存在感をお持ちだったように思われたのだが、……。
でも、今目の前にいらっしゃる女神様は、ソフィア母上やサリナ姉様のように、どこか家族的な雰囲気なのだ。
「あらっ、晴子さん。うふふっ、ホンとの私はね、こっちが素なんですよ!」
「そうなんですか?」
「はいっ。そうなんです」
こちらが多少面食らっていると、その表情を見ておかしく思われたのか、女神様はクスクスとお笑いになられている。
でも、だからといって、私までくだけた態度をしてしまっては、女神様に失礼に当たるはず。
とりあえず、……一度ニッコリと笑って、サスパニア出張の件で女神様のご要望をお聞きしようとハルコンは思った。
「女神様、……今回のサスパニア出張の件ですが、表向き王宮からは、『ハルコンBの販売促進を目的に、現地でその営業活動をせよ!』とのお達しです」
「なるほど。サスパニアの皆さんも、ハルコンBを輸入したがってますからね。それに、ファイルド国もまた、まだ見ぬサスパニアの商材に大変関心が高いワケですからね」
「そうなんです。その件については、他の近隣諸国と大して違いがないと言えますね」
「でも今回、晴子さん本人にも、現地にきて欲しいワケですよね?」
「はい。これまではキャスパー殿下ら王族の皆様が現地に赴くことで、先方も体面を保つことができていたのですが、……。それが、サスパニアについては、仙薬エリクサーの開発者の私自らが出向くよう打診してきたワケなので、……」
「その点を含めて、王宮から要請されているのですね?」
「はい。昼間頂いた手紙には、そう記してあります。先ずは明日一番に、王宮でその件も含めて話を伺ってこようと思っています」
「それがよろしいですね」
こちらの言葉に、女神様は笑顔で頷かれた。
「ただ、……女神様のお話では、現地には元日本人がいて、その人達が私にどうしても会いたがっていると仰られているように感じました」
「そうですね、……私からは、彼らに晴子さんがファイルド国にいらっしゃることをお伝えしてはいないですね」
「なら、私の行った何かが、彼らの心の琴線に触れた可能性があると見ていいのかなぁ、……」
「晴子さん、……何か、お心当たりでも?」
「数年前、ここの学生寮の裏庭で花火大会を催したんです。もしかすると、それかもしれませんね?」
「ふぅ~ん」
女神様は顎に手をやりながらそう呟かれると、目をいっそう細められた。
おそらく、このファルコニアという異世界で初の花火大会。
その女神様のご様子を見て、……花火の材料である「火薬」の匂いに、彼ら元日本軍人が引き寄せられたのではないかと、ハルコンは直感的に悟った。