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ちらりと置時計を見ると、もう夜の11時を回っていた。
ハルコン達のいる部屋を除いて、学生寮のほとんどの部屋が就寝中で灯りが消されている中、この部屋だけは光魔石の天井灯が煌々と隅々まで照らしていた。
「晴子さん、……私はね、あなたがまだ人でいるウチに、人として最高に幸せな時間を過ごして欲しいと思っています。だって、その資格がおありになるのですから、……」
ハルコンは、背中越しに聞こえてくる女神様の甘く囁くような声に、……。
時折、首筋に触れる女神様の温かい吐息に、……。
頭の隅々にまで、脳内麻薬がジュワァ~っと染み渡るような、そんな多幸感を味わっていた。
あぁ、これが「愛」というものなのだろうか?
この気持ちを味わいたいためだけに、人はかくも「愛」に狂うものなのか!
そして、……それを味わうだけの「資格」とやらを、私は持ち得ているのか?
そんなこちらの気持ちを察せられたのか、女神様はそっと頬にお触れなさった。
「いいんですよ、晴子さん。あなたは賢明にも、この世界でも多くのことを成し遂げて下さったのですから、……」
そんなことを、半覚醒ともぼんやりともワカらない頭脳で伺っていると、女神様は優しくこう仰られたのだ。
そのお言葉に、こちらの今にも溶解しそうな頭脳が、唐突に目を覚ます。
「……、それって、もしかして!? 私はこのファルコニアの世界でも、地球同様に人類にとって大いなる功績を修めた、……ということなのですかっ!?」
ハルコンは女神様の方を振り返って、思わずそう叫んでしまった。
「はいっ。当然じゃないですか!」
すると、女神様はそんな少年っぽい言動に対しニッコリと目を細められ、優しく頭を撫でて下さった。
「もしかして、また私がこの世界で死んだ場合、異世界行きのチケットを頂ける、……ということなのでしょうか?」
思わず、おそるおそる訊ねてみた。それは、こちらにとって、女神様のご採点を伺うのも同じことだったからだ。
「えぇ。百点満点花丸付きですね。ふふっ、前回の地球では異世界行きのチケットを7枚お渡ししましたけど。そうですね、……今回、この世界での貢献度を考慮いたしますと、もしあなたが希望されるのでしたら、チケットを21枚お渡ししようと思っています!」
「えっ、21枚もっ!? ちなみに、そのチケット21枚で私は何ができますか?」
「う~ん、そうですねぇ、……」
女神様は、楽しそうに首を傾げながらお考えになられているご様子。
そのご様子を伺っていたら、何だか気持ちがハラハラしてきた。
私は、女神様のお言葉を一言一句聞き洩らさないよう、改めて正しく座り直した。