昨日の戦いはやはり多くの生徒が疲弊していたらしく、今日は朝からみんなとてつもなくテンションが低かった。
「はい……おはようございます……それでは……授業を……」
教室に入ってきたレイン先生はいつものハキハキとした様子とは違いノロノロと教壇まで歩いてきてそこで一度つまづいた。
どうやら先生までもが眠そうだ……。
「先生……もう今日はいいんじゃないですか?」
「いや、そうも言っていられません……はいっ!気を取り直して!おはようございますっ!」
周囲の生徒に心配をかけられた先生は、頬を強く叩き強制的にいつもの調子を取り戻した。
「はいっ!おはようございます!」
先生に続くように生徒たちは皆空元気を振りまきながら挨拶する。
「えぇではね、とりあえず、昨晩はお疲れ様でした。大変でしたねぇ……キノコ駆除なんて……」
昨夜のことを思い返してげんなりとした様子で生徒を労う。
「しかし!そんな中でも大きな活躍をした子たちがいます!」
急にテンションを一転させて先生は一呼吸溜める。
「まさか……!」
「チーム・エデンズカフェのみなさん!今回はMVPをいただきましたよ!」
先生が片手を突き上げると、周囲の生徒もそれに続き腕を上げたり拍手をしたりして祝福する。
「おーっ!」
「ま、そりゃあそうか。親玉を倒したようなもんだったもんね」
クローバーが得意げに頷く。
「しかしすごいね!かなりの生徒たちがキノコに支配されていたようでしたがあなたたちの活躍でみんな元に戻りました」
「えへへぇ」
「今回の報酬は期待していいですよ!」
「おぉーっ!」
これでもかというくらい褒めちぎられたので、昨夜の苦労も報われたというものだ。
「さて、それではエトンを確認するのは程々に授業をはじめていくよ」
調子に乗ってエトンの確認をするタイミングを失ったみたいだ……。
お昼休みに食堂で集まった。
「いやぁ~褒められちゃったね~!」
クローバーがだらしなく頬を緩ませていた。
「今回は大きな功績だったと思う。しかしだな、今回の功績はまさしく情報を持っていたからこそだ。つまり、最優秀は紛れもなくリリィ、お前だ」
ダイヤが私の背を押してみんなの前に出す。
「えっ、そんな。私一人だったら絶対だめだったよ」
「謙遜するな。他のチームが為す術なくやられたのは触れたらアウトだという情報を知らずに戦ったからだ」
ダイヤは自分の事のように嬉しそうに笑う。
「多分報酬もリリィがいちばんなんじゃない?」
「あ、そういえばみてなかったかも」
すっかり忘れていた。みんなにもこんなに褒められるくらいだし、期待していいのかな……。
「おーっ!見てみようよ!」
「なんか恥ずかしいな……」
モカちゃんがはやし立てると、一同は私の周りに集まってくる。
「別に見せる必要はないだろ……こういうのは揉め事の元だぞ」
「ごめんなさい……」
モカちゃんはしゅんとしてしまう。
「まぁまぁ、別に悪気はないんでしょ?」
「うん……」
「じゃあダイヤに見えないようにこっそり見ようね」
「わーい!」
モカちゃんはぱっと表情を明るくさせる。
「私が見たくないとかそういう問題じゃないんだがな……まぁいいか」
結局ダイヤ1人だけは少し離れた場所に居たままだった。
「えーっと……えっ!こんなに!?」
なんと1500二ーディも入っていた。
「えっ……」
私のエトンを覗き込んでモカちゃんが意外そうな声を上げる。
「えっ!?」
「ご、ごめん……ただ、モカよりも少なくて……」
「何っ!?」
モカちゃんの言葉を聞いたダイヤが急にこっちに向かってくる。
「えっ!ダイヤ、見ないんじゃなかったの?」
「そう聞いたら気になるだろう。これは……」
エトンを覗いた途端にダイヤが顰め面になる。
「アミィ、出てこい!」
「はいは~い」
ダイヤがアミィを呼ぶとぽんっとアミィが出てきた。
……私の精霊なのに……。
「これはどういうことだ?」
ダイヤは私のエトンに示された数字を示してアミィに問い詰める。
「どうもこうもないでしょ?ボクだって善処したんだけどさぁ。アレがちょっと……費用かかっちゃって」
そう言ってアミィは舌を出す。
「アレ……とは?」
ダイヤは言葉を濁したアミィにすかさず言及する。
「マイコタンの送還と手土産がね、費用が必要だったの。悪い言い方で言えば敵に塩を送るようなものだしね……」
「なるほど……しかし1番の功労者がこれではな……」
なんか納得はしたみたいだけど私の報酬額を見て呆れているようだ。
「えっ、ちょっとちょっと。1500二ーディってすごい大金でしょ?」
だって前回の3倍だし……。
「確かに大金だ。大金だがな、私たちはそれ以上にもらっているんだ。何せ学内MVPだからな」
「うぅん……でもそんなに要らないかなぁ」
「確かに日常生活で困ることはないだろうが、武器やエトンのメンテナンスにかかる費用はその比ではないぞ。戦闘用の道具なんかも割高だ」
「あー、そうだった。来たばっかの時は逆に日常生活にかかる費用の安さに驚いたんだっけ……」
「確かに装備にかかる値段しか知らなかったら驚くだろうな」
よく考えれば魔法を使えるこの世界では日常生活の様々なことは簡略化できる。しかし魔力を込めて作るものはその魔法の源である魔素を使うからこそ値段も上がるのだろう。
「それで、一体どのくらいの差があったの?」
「まぁ……その……なんだ……さっきも言ったが揉め事の元になる。それでもきくか?」
言い淀んでいるが、揉める気もない。ただどれ程のものかは知っておきたかった。
「私は気にしないって言ったよ」
「……4000二ーディだ」
ダイヤの口から出た数値は想像よりずっと大きかった。
「倍以上……!?」
「まあなんだ……お前が少なすぎるかもしれないな」
「そうだなリリィ。この前の戦闘の時、私は1200二ーディだったって言っただろ?300二ーディの差は大きいが迎撃に参加しただけの私が1200で今回学園を救ったお前の功績が1500だとすると割に合わなすぎる」
スパーダも納得いかなそうに首を捻る。
「それは確かに……。でも前より3倍になってるしなぁ」
「リリィあの時救護室に運ばれたから半額になってたんだよ?」
「じゃあ最初の私でも1000もらえてたのか……!」
「医務室送りはかなり痛いからなぁ」
「ま、今回は大半の生徒が医務室送りだったからその分私たちに報酬を回せたんだろう 」
「私は一体いくらもらえてたんだろう……」
「あ、リリィは6000二ーディだったよ」
アミィがあっさりと言う。
「6000!?」
「ボクが功績をしっかりお伝えしたからね。まさにMVP!って感じで!」
アミィは誇らしげに胸を張る。
「そうか。精霊が報告して報酬を決めるんだったな」
「あちゃー、じゃああのペンギンに媚びを売らなきゃならないのかー!」
「こらッ!」
スパーダがぼやくとロメオが飛び出してきた。
「げっ、ロメオ!」
「失礼だぞッ!スパーダッ!」
「あーうるさいうるさい!」
スパーダは聞くまいと耳をぽんぽんする。
「いいのかッ!? そんなこと言ってもッ!?」
「なっ! こいつ……聞いてたのか!」
「げひひッ!」
ロメオは評価を盾にして下卑た笑い声を上げる。
「こいつもう悪役だろ……」
「ま……まぁまぁスパーダも失礼なこと言ったのは確かですし……」
「それは謝るよロメオ……」
「わかればいいッ!」
スパーダの謝罪をきいてからロメオは消えた。
「それで?アミィを使役している限りは今回みたいに二ーディがかなり減っていくのか?」
「いやいや、そんなことはないよ~。ただ今回みたいに裏技みたいなことするとやっぱりかかるよってこと」
「こいつほんとになんなんだ……」
「アミィちゃんだよ!」
周囲の視線を受けながらも気にすることなくぶりっ子ポーズを決める。
「……はぁ。考えるだけムダか」
「でも、かわいいです!」
ハートがアミィの頬をつついた。
「えへへ、ありがと!」
「ま、なんでもいいか」
嬉しそうに笑うアミィは無邪気に見えた。
悪いことなんて何も知らなそうに見えた。
私もそれを信じたい。
頼むよ、アミィ……。