〇猫カフェ「MATATABI」店内、窓側カウンター席
混雑する店内に、見知った顔ぶれが現れる
「ん、城二さっきぶり」
「なっはぁ~城二っちの晴れ姿見に来たよぉ~ん☆」
「あ、あの...城二君お久しぶり...その制服とっても似合ってるね」
「や、やぁ!数日ぶりだね!ボクはこういう所初めてで緊張しちゃうよ」
「フフフ、小百合は素人だな、こういう店に来る時は猫と戯れる事を意識した動き易い服をチョイスしないとな」
このメンツが揃って来店なんて聞いて無いんだが?
「あ、あぁ、いらっしゃいませ...お席にご案内します」
他のお客さんの眼も有るので、きちんと接客する事に徹した
「ほう、中々様になってるじゃないか」
「城二君、その見違えました...あっいえ決して悪い意味では無いです!」
「翠はオドオドしすぎ、おちつけ」
「にゃははは、ここは猫ちゃんが沢山居て天国ぅぅ!」
「ボクも猫と遊んでこようかな」
5人を席に案内し、オーダーを取り、房に居る山吹さんにオーダーのメモを渡す
「天音ちゃんは前に来てくれたから知ってるけど、他の4人も城二君の知り合い?」
山吹さんは、含みのある笑みを浮かべながら、窓際のカウンターに座る5人に視線を向ける
「そうですね、クラスメートと部活の仲間です、皆僕の友人です」
「へぇ~なるほどなるほどぉ~友人かぁ~」
山吹さんは、俺を揶揄うように笑いながら厨房の奥へと消えて行った
オレンジジュースと、メロンソーダ、それにウーロン茶はドリンクサーバーから注ぐので、グラスに氷を入れ俺が注ぎ作る
「お待たせしました、オレンジジュースとメロンソーダと、ウーロン茶になります」
「有難う、城二君」「ん、私メロンソーダ」「本当は緑茶が良かったが...まぁ良い」
天音さんのミルクティーと天草先輩のブレンドコーヒーは山吹さんが用意してくれてる
「ミルクティーとブレンド上がりました、特製シフォンケーキ5もお願いしま~す」
俺と道代さんが一緒にケーキと飲み物を5人の元へ運ぶ
「わぁミッチー久しぶりぃ~♪」「道代おひさ」「道代さんご無沙汰してます」
「池上様も、雨宮様も青木様も、皆様、良く来て下さいました。えっ~と、此方の方々は...」
「ブホッ・・ボク・・アタシは天草 小百合と言います、城二君と同じ魔刑部に所属して副部長をしてます東光高校3年です、道代さんのお噂は常々お聞きしていて、その...神業的家事スキルの持ち主だと!今後とも色々と教えて頂きたいので、よろしくお願いします!」
シフォンケーキを口いっぱいに頬張っていた、天草先輩は急に声をかけられ驚いた様だ
「仲間が失礼しました、私は魔刑部で部長をしております、九鬼 可憐と申します、立花様の卓越した家庭料理の数々、いつも北野君からお聞きしておりました、私も和食には心得がありますので今度是非ご教授頂けると幸いです」
九鬼先輩は、武術指南をお願いする勢いで道代さんに料理指導を依頼して来た
「いえ、皆さんの作る料理私も食べて見たいです!、先日城二様が帰宅された際に、カレーを振舞われてとても美味しかったと仰っていたので」
「「「「!?」」」」
翠さん以外の4人の纏う空気が一瞬だが鋭さを増した
「立花様、差支え無ければ、北野君がどのカレーを一番に推して居たのかお聞かせ頂けないでしょうか?」
唐突に九鬼先輩が、道代さんに詰め寄る様に顔を近づけ真剣な目でそう口にする
「い、いや、先輩!?もうあの対決は決着したのでは!?」
今更むし返さなくても...
「ん、城二私も興味ある」「にゃははぁ~私は望み薄だからあまり聞きたくないかなぁ~」「...ボクも興味有るかも...」
何の事か解らない翠さんは他の4人の顔をキョロキョロ見ながら戸惑っている
俺は翠さんにこっそりと耳打ちし、合宿最終日のカレー対決について説明しておいた
「城二様のお好きな味付けは、中辛より少し辛めです、お肉も筋肉よりバラ肉、お野菜もトロトロになってるよりゴロゴロしてる方が触感がお好きな様です」
4人は道代さんの話しを食い入る様に聞いていた
「だから、雨宮様のカレーが一番好みに近かったと仰ってました」
「クッ和風出汁はダメだったか」「当然」「ゴロゴロ野菜は、ゴロゴロだったにゃ!」「辛口、辛口...」
「あ、でも甘口のカレーも子供の頃を思い出して美味しかったと言われてましたし、出汁のカレーはうどんだと良かったとも」
「なるほど...」「フフフ、甘いのも嫌いじゃ無い...フフフ」「キィィィお陰でお祖母ちゃんとお母さんに毎日料理の手伝いさせられてるんだぞ!」
・・・・・・・・
「はいはい♪盛り上がってる所、悪いけど二人はお仕事ねぇ~」
「御免なさい!」「申し訳ありません!」
満面の笑顔だが明らかに怒ってる音田さんから注意されてしまった
結局その日は、皆俺のバイト終わりまでお店に居座った...まぇ5人で店のケーキの3分の2を食べつくすとは思ってもみなかった、特に小百合さんの甘い物好きには回りもドン引きしていた
〇猫カフェ「MATATABI」前
「急にバイト先に押しかけて、すまなかったな城二」
俺の背後から小さく声をかけて来たのは九鬼先輩だ
「いえ、2日目で少し緊張してたもので、助かりました」
「フフフ、だったら良かったが...なぁ実家の事少し真白から聞いたが...」
どうやら皆俺の事を真白から聞いて心配になり様子を見に来てくれたらしい
「あの家に俺の居場所は最初から有るとは思ってません、何れ出て行くつもりでした、今回それが早まっただけですよ」
俺は不安に思われない様に精一杯元気を出してそう告げる
「まぁ何か困った事が有るなら、いつでも力になる何せお前には命を救ってもらった恩が有るからな」
「へぇ――なるほど...可憐も一応は年相応の女の子って訳だ」
!?
「み、宮下先輩...お久しぶりです」
九鬼先輩は深々と愛理さんへ頭を下げる
「ずいぶんと腕を上げたみたいね...Aランクなんですって?」
「い、いえ...先輩に比べたら未だ未熟者です」
あの九鬼先輩が頭を上げれず震えてる
「フフフ、私は卒業して引退した身、魔刑部大会にも興味は無いわ...だけど、そこの城二君には少し興味あるんだけどね」
「!?愛理さん、何を言って!?」
俺の言葉を手で制し、九鬼先輩の頭を見つめる愛理さんの眼は冷たく氷の様だ
「私の妹はかつて、城二君の婚約者だった...だけど彼の素行の悪さから婚約破棄を望み実行した」
九鬼先輩への視線は何時の間にか俺の方へと...
「だけど、その日を境に城二君の愚行は成を潜め、そればかりか表裏で人助け迄してる」
「...ねぇ城二君、貴方は本当に北野城二なの?私の目の前に居る男は誰?」
愛理さんの言葉に一同の視線が俺へと向いた...