その日の夕飯は、事前に金吾さんが言ってた通り、雨宮家の家族と一緒に食卓を囲んだ
俺の足下にはトラもおり、玄芭さんが用意してくれた角煮と白ご飯の特製丼ぶりを、無心で食べている
「へぇ~柳生さんと宝蔵院さんねぇ」
俺が今日あった事を食事の席で話すと、金吾さんはどうやら二人をと言うより両家を知ってる様だった
「金吾さんは、柳生さんと宝蔵院さんをご存じなのですね?」
「まぁ、こういう生業の家系だからね~柳生さんも宝蔵院さんも、何代も続く家柄のはずだよ、面識が有ると言っても、宮内省の仕事で参加したパーティーで何度か顔を合わせて挨拶した程度だけどね」
宮内省の高官が参加するパーティーに出席してる時点で、柳生さんも宝蔵院さんもかなりの格式の家柄だと容易に想像できる
「で、城二君は、せっかくの先方からのお礼の申し出を断ったの?」
「えぇ...別に僕が怪我をしたとかでは無いですし、偶然その場を通りかかっただけでお礼をされる様な事はしてませんので」
金吾さんと玄芭さんの俺を見つめる眼が何時になく真剣だ
「ねぇ城二君、母親目線で話させてもらうと、お腹を痛めて生んだ掛け替えの無い我が子の命は、何よりも大切で重いの...だからその大切な命を救ってくれた恩人に何かお礼をしたい...そう考えるのは救われた命に対する親のケジメだと思うの」
金吾さんも黙って頷く
「君は年齢の割に、世間と言うのをなまじ知ってる様な印象を受けるね、君ぐらいの年齢の男の子ならお礼と言われたら何かしら要求する物だと思うが、君はそうしなかった」
「君自身は謙虚な気持ちで、申し入れを辞退したのだろうが、相手はきっと恩に報いる事が出来なかった事をずっと悩むんじゃないかな?」
「つまり、素直にお礼を受けるべきだと?」
金吾さんも玄芭さんも微笑みながら、頷く
「君の謙虚な立ち振る舞いは、確かに素晴らしいと思うし今後もその気持ちを忘れないで欲しいが、今回の件では感謝の気持ちに応えるのが、良いんじゃないかな?」
確かに、感謝してる事を相手に伝えたいのに、相手から「そんなの要らない」と拒絶されるのは辛いな...あの時の愛理さんは、この事を俺に伝えたかったのかな?
『また、ゆっくり話をしようよ・・・二人で・・・ジョウジ君』
去り際のあの言葉・・・恐らく今、金吾さん達が俺に伝えてくれた事と同じだったのだろう
「分かりました、今度、柳生さん宝蔵院さんに出会って、同じ様に言われたら何かの形でお受けしてみます」
「それが良い...さぁ冷めない内に頂こう、白虎様はもうすでに食事を終わられお休みになっておられる様だ」
金吾さんの視線の先にはソファーに丸まって寝ているトラの姿が...神様が寝るなよ...
「ん、これ私が作った城二喰え」
「!?真白、パパには!?」
「ん?無い」
「がぁぁぁぁん!」
その日の夕飯は、とても楽しく皆が笑いながら他愛も無い事で盛り上がって夜まで続いた
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「ん、じゃぁ城二また明日、今日はバイトお疲れ」
「あぁ真白、本当に有難うな...それと金吾さんも玄芭さんも本当に良い人だな」
「ん、わかってる、おやすみ」
「あぁおやすみ」
真白は、そっと部屋のドアを閉め自分の部屋へと戻って行った
俺はベッドに仰向けになり、薄暗い天井を眺めながら金吾さんと玄芭さんに言われた言葉を思い出していた
「明日、もしバイト先で柳生さんや宝蔵院さんに出会った時に考えるかぁ~」
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「行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
真白は寝坊助で起きて来てないので金吾さんと玄芭さんに、玄関で見送られ今日もバイト先へと向かう
「なぁトラ...」
『なんじゃ?』
「あぁ言うのが、「家族」って言うんだろうな...」
『似合わんなぁお前が、そんな純朴な童みたいな事を言うとはな』
「そうか?いや俺の両親はさ...俺の事本当に大事にしてくれてよ」
『ん?あぁ南原の方か...珍しいなお前が前世の事を語るなど』
昼間前だが、俺とトラ以外の人影は見当たらないので、少し気も緩んでいたかも知れない
でも、今なんか話聞いてもらいたい気分になっている
「俺の両親は田舎で農家を営んでいるんだけど、俺が奇跡的に東京のトップの大学に合格してさ、両親は大喜びで...だけど田舎の農家が東京の大学に子供を通わせるのなんか並大抵の事じゃないんだ、それでも両親は「心配するな」と送り出してくれた」
『ふむ...』
「でも俺が大学に通っている間にも、両親は学費や俺の東京での生活費をキチンと卒業まで世話してくっれた...それで就職したソフト開発会社で頑張って親孝行をしたかったんだけど」
『だけど?』
「当時、世界規模で発生した流行り病に掛かってしまい、俺は両親を看取る事も出来ず...」
『そうか...だからお前は前世の世界へ固執して無いんじゃな』
「だな...両親をほぼ同時に失った俺を支えてくれた彼女も、俺の行動のせいで、俺の元から離れてしまった」
『成程な、お前の人と成りは何となく理解した、お前の両親と真白の両親を重ねて見ていたのか?』
「そう...だな、子供を想う親の気持ち...真白の両親も、柳生さんや宝蔵院さんも、そして俺の両親も...きっと皆誰よりも我が子を愛し慈しみ育てて来たんだな...」
俺はここ数日で感じた親の愛情というのに、あてられてガラにも無くセンチメンタルな事をトラに話していた
しかし、聞いてもらえて何処かほっとしてる自分が居る事もまた事実、今はトラに話を聞いて貰えてよかったと思ってる
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「山吹さん、3番テーブル特製シフォンケーキ2つオーダー入ります」
「かしこまりぃ~」
「あ、城二君、奥のカウンター席空いたから下げといてぇ」
「道代、次のお客様何名?」
「えぇ~と...2名ね」
「OK、城二君が引いたら道代案内よろしく♪」
本日も「MATATABI」は大盛況だ、昼前だと言うのに待合室に入りきれない程のお客さんが
「やっぱトラちゃんの集客力は破壊的ねぇ~♪」
本日もトラは俺と一緒にご出勤だ...相変わらず抜群の人気を誇るトラは中央の遊具の上で丸まっているだけで、何人もの女性が我先にと周囲に円陣をつくりパシャパシャとシャッターを切ってる
(この図式、No1ホストと、冴えないスタッフみたいだな...)
空いてる席の食器をトレーに乗せ、しっかりと丁寧にテーブルとイスを拭く
「窓際のカウンター席が空いたわ、道代、次のお客さん何人?」
「えぇ~と...5名だね」
(結構な団体客だが丁度さっき空いた窓際のカウンターが5人分だな)
俺はすかさず空いた席の食器を片付け、テーブルとイスを丁寧に消毒した
「音田さん窓際の5,6、7番掃除終わりましたぁ」
「了解、城二君は紗枝の手伝いに入って頂戴♪道代は案内ヨロー♪」
道代さんが待合で待ってる5人組のお客さんを案内しに向かったが...
「あらぁ!」
待合室が騒がしい...俺は様子を見に待合室の方へ向かうと道代さんに続いて、顔なじみの5人が現れた
「ん、城二さっきぶり」
「なっはぁ~城二っちの晴れ姿見に来たよぉ~ん☆」
「あ、あの...城二君お久しぶり...その制服とっても似合ってるね」
「や、やぁ!数日ぶりだね!ボクはこういう所初めてで緊張しちゃうよ」
「フフフ、小百合は素人だな、こういう店に来る時は猫と戯れる事を意識した動き易い服をチョイスしないとな」
・・・・・・・・・皆さん揃いでご来店?