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Episode2 - タスクを達成してみよう


 終末までのカウントダウン。

 そんなものが始まっている現状で、仕事なんてしている暇はない。

 引継ぎをどうするだの、突然辞められても困るだのと様々な事を言われたものの、一ヶ月後にはそんな仕事をしている余裕なんてなくなるのだ。辞める事だけを端的に電話で伝え、着信拒否する事で連絡が来ないようにした。

 それに加え、


「人間とか……もう信じられないよね」


 人間関係を断っていく。といっても、行動をほぼ家族に縛られていた私にとって友人と呼べる間柄の相手など片手で数えられる程度しか居ない……と思ってはいるのだが。

……あー……面倒な子が1人居たかな。

 自身の後輩であり、教育も担当した為か私に懐いていた1人の女性社員。無駄に行動力のある彼女ならば、私が辞めたのを知れば……私の元まで訪ねてきてもおかしくはないかもしれない。


「と、なると……A.S.S、タスク表示してもらっていい?」

『了解しました』


 頭の中に直接聞こえてくる声。それによって生じる不可思議な現象。

 これに慣れるのはそこまで時間が掛からなかった。というのも、そもそもがゲームチックであり、その手のゲームは暇な時間に何本か遊んでいた経験もある。

 実際、今後世界に訪れるのはファンタジーのようなゾンビパニック。一足先にそれらしい要素を触らせてもらってもバチは当たらないだろう。そもそも、未来の記憶がある時点でゲームのベータテスターのようなものなのだから。


『現在のタスクは2つ。【セーフティハウスを手に入れろ】、【非常用の食糧を手に入れろ】です』

「ありがと。……セーフティハウスに関しては伝手が無いわけじゃないから……先に食糧かな」


 終末世界救済機構A.S.Sと自らの事を呼んだ謎の声。これが狂ってしまった私の幻聴や幻覚でないとして。これが持つ機能は中々に優秀で便利だった。

 というのもだ。

……タスク機能は本当に便利、っていうか混乱しなくて済むから助かるね。

 これからの事を考え行動しようとして、何から手を付ければいいのか途方に暮れた私に対して道を示してくれる。それに加え、


「えぇーっと……食糧の方の報酬って何?前と同じお金とか?」

『いえ、こちらのタスク報酬は『発現可能なランダム異能』となっています』

「……は?え?異能貰えるの?!」

『タスクの報酬は基本ランダムに決まります。そしてこの報酬は……設定確率が極めて低いものとなっていますね。有り体に言えば、柊様はかなりラッキーかと』

「だろうねぇ……!」


 報酬が貰えるのだ。

 タスクの内容は基本的に、約一ヶ月後に備える為の準備が主となっている為、必要な物を揃えていけば自然とクリア出来ていく。

 それと共に、報酬として現金やリン用のペットフードなど、地味に私が必要としているモノが貰えるのだから……こなさない訳にはいかない。


「詳細見ておこう……って簡単じゃん!太っ腹!」


――――――――――

【非常用の食糧を手に入れろ】

種類:備蓄

進行状況:0/50

報酬:発現可能なランダム異能

説明:終末世界、その初期段階では野菜の栽培などは行えない。

   辛く厳しい初期段階を生き延びる為の、最低限の食糧を確保しておこう。

――――――――――


 この場合、非常食等の食糧をどんな形でも良いから私の所持品にしてしまえば達成できる。

 とは言っても、実際に持っている必要は無く。一度買って部屋の中に置いておくだけでもカウントされるのだから、中々に判定は甘いものだった。


「よっし、じゃあやっていこう!」


 所持金に関しては問題はない。

 要らないモノを売ってしまえば纏まったお金は入ってくるし、元からあまり散財しない方だった為、口座の中には500万程度は入っている。

 まずはコレを使い切る事を念頭に考えていこう。



―――――



 それから、私は様々な店を回り物資を購入していった。


「予想以上に使っちゃったな……残りは470万くらい?色々今後の事を考えると……ちょっと心許ないかなぁ」


 タスクに記されていたのは食糧のみではあるが、私の持つ未来の記憶を鑑みると……正直な話、食糧よりも綺麗な水の方が入手難度的には高い。

 というのも、ウイルスは人間以外の動物には感染せず……それこそ、安全に移動できるならば食糧くらいならば山にでも行けば獲る事が出来たからだ。

 故に、私が購入している物資の比率は水が7割、他3割。他にも持ち運び可能な簡易浄水器など、とにかく水関係の物を買い漁り、何とか自宅へと帰還すると、


『タスク【非常用の食糧を手に入れろ】が達成されました。報酬を受け取りますか?』

「うん、お願い――うわ、なにこれ?!」


 瞬間、私の身体全体が一瞬強く光ると共に……自身の身体に宿った異能の使い方を直感的に理解した。


「これは……うん、便利だ。かなーり便利だ」


 終末世界で見たような、火を出したり水を出したりといった分かりやすい異能ではない。

 しかしながら、今の私にとってはこれ以上なく必要で、便利と言わざるを得ない異能だ。

 試しに丁度買ってきた非常食の1つを手に取って、


「ほいっと」


 軽く念じれば、非常食は初めからそこに無かったかのように消えてしまった。

 それと共に、私の顔の横にはA.S.Sのような半透明の板のようなモノが出現する。


「うん、しっかり使える……これが【空間収納インベントリ】かぁ。かなり便利だね、やっぱり」

『タスクが新たに発生しました』

「お?……おぉ、【空間収納】系のタスクだ。これは……モノを仕舞えばクリア出来るっぽいし放置で良いかな?」


 【空間収納】。その名の通り、ゲーム等によくある謎空間へとモノを仕舞っておくことが可能な異能であり、終末世界でも何度か行商隊と共に行動する使い手を見てきた。

……収納上限は……分からないけど、まだまだ余裕がありそう。そろそろ部屋の中にモノを置く場所が無くなって来てたんだよね。

 非常食に始まり、ホームセンターから買ってきた道具類。元々自身が持っていた服や、リン用のペット用品等、それなりに場所を取ってしまうモノを全て【空間収納】内へと仕舞い続ける。

 それと共に、私の顔の横に出現していた板に仕舞われていったモノの名称と個数が羅列され、何が何個入っているかがパッと見で分かるようになっていく。

 恐らく、これがリストであり、視覚的に何が入っているのかを分かりやすくする為の機能だろう。至れり尽くせりだ。


「うーん……多分現状だとそこまで容量は大きくないかな?多分……この部屋にある分は仕舞えるだろうけど……多分500キロくらいあれば十分かな?」


 そして、その容量自体は具体的な数値ではなくゲージという形でリストに記されていた。

 物を収納すればゲージが増え、取り出せば減っていく。部屋の中にあった物資は凡そ100キロあれば良い方であり、それらを全て収納した段階で5分の1程度しかゲージが溜まっていないのだから……恐らく、容量については合っているはずだ。


『タスク【【空間収納】内にモノを収納しろ】、他2つのタスクが達成されました。報酬を受け取りますか?』

「うん、受け取っておいて」


 と、部屋の中の物を凡そ収納し終えると同時、タスク完了の機械音が聞こえた為に報酬を受け取っていく。

 瞬間、私はその効果に目を見張る。

……うわ、一気に容量増えた!……タスクの影響かコレ!

 タスクの報酬を受け取ると同時、私の身体が再度薄く輝くと共にゲージが一気に減り、現状どれ程溜まっているかが分からなくなってしまう。

 物が無くなったわけではない。逆だ。入れられる容量が増えたが故に、ゲージが一気に減ったかのように見えたのだ。

 見れば、【空間収納】系タスクの報酬にはその全てに容量増加がおまけと言わんばかりに付けられている。つまりは……このままいけば、誇張無しに山なんかも文字通り『収納』出来てしまうだろう。

 【空間収納】とはよく言ったものだ。まさに物のある『空間』ごと収納出来る可能性があるのだから。


「感覚的には……多分、トンとか行けるよね……?それに、他にもオプションが付けられるようになってる……!」


 リストの方へと視線を向け、試しに乾パンの文字を指で触れてみる。

 すると、だ。『鮮度維持』、『時間経過遅延』と書かれた板が新たに2枚出現した。

……これがあれば……もう家に居る必要もないね!

 鮮度維持があれば、魚などの傷みやすい物を。時間経過遅延があれば、少し使い方は違うかもしれないが、温度管理が必要な物を収納しやすくなる。

 となれば、だ。次の段階に進んでも良い頃合いだろう。


「やっとセーフティハウスを探す段階だ……!って言ってもかなり早いけど!」


 自身の物資などを保管しておく事が出来る場所の確保。

 【空間収納】を得た今あまり必要はないかもしれないものの、それでも自身が活動する拠点を持っておくというのは重要だ。

 安全に過ごせる場所は、いつどの時代であっても精神的な安寧をもたらしてくれるのだから。


「お金足りるかな……えぇっと……ま、家の調度品とか売ればいっか」


 既に家族への情は消え去っている。

 以前ならば躊躇っていたか、A.S.Sの事を伝えた上で、家族全員で終末世界へと向けた準備を進めようとしていた事だろう。しかしながら、今の私にそんな考えは微塵も湧かなかった。

 裏切った、と言うよりは……気が付いてしまったのだ。あの家族に、私に対する愛情なんてものが欠片も無いという事に。使えるから家族という括りに入れてくれていただけの、血の繋がった他人のようなものなのだから。


「伝手は……あるっちゃあるね。元気かな、おじさん」


 黒い考えを一旦、奥底へと沈ませて。

 私はセーフティハウス候補を売ってくれそうな人物へと連絡を取るべく、スマートフォンへと手を伸ばした。

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