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Episode3 - 人を利用してみよう


「いや、びっくりしたよ。突然雛奈ちゃんから連絡が来るなんて」

「あはは……ちょっと色々あって。で、今向かってるのが?」

「あぁ、うん。俺が持ってる山ん中の使ってない山小屋だけど……本当に欲しいの?ずっと使ってないから、多分色んな所にガタ来てるよ?」

「大丈夫です大丈夫です」


 軽トラの助手席に乗り、自身よりも二回りは年上であろう初老の男性の運転で、とある県の山へと向かう。

 伯父であり、何かと私の事を気に掛けてくれていた隆之介伯父さん。彼は趣味が高じて狩猟の免許までとり、今や猟師として活動しているそうで。

 そんな彼が使うだろうと山の中に買ったまま放置していた山小屋を買い取ろうと連絡を取ったのだ。

……ま、流石に気になるよね。普段は親も一緒だったし。

 ちらちらと、気まずそうにこちらへと視線を投げてくる彼に対し、私は少しばかり苦笑しつつ、


「良いんですよ?聞いても」

「あー……いや、大体は察してるんだ。大方、俺の妹が散々迷惑を掛けてたのが限界来たとか……そういうのだろう?」

「まぁ、そんなところです。こんな歳になってからですけど、自由になりたくなっちゃって!」

「でも良いのかい?あそこは電気も繋がってないし、近くの街に行くにはそれなりに大変だよ?」

「良いんです良いんです!少し人から離れて生活したいですし……これでも色々勉強したんですよ?一通りの農業なんかは、農家さんの所で教えてもらったりしたし!」


 軽くガッツポーズしながら笑うと、隆之介伯父さんは苦笑いを返してくれた。

 間違った事は言われていないし、間違った事も言っていない。

 愛想が尽いたのは真実だし、人里から離れていた方が色々とやりやすい事もある。農業に関しては少し嘘をついてはいるが、最悪A.S.Sに聞いたり、それらに関する本でも買ってきて勉強しながらやれば良いだけの事だ。


「よし、着いた。こっから少し歩くよ」

「はーい、了解です」


 山の麓に軽トラを止め、そのままゆっくりと山の中へと入っていく。

 まだ昼間ではあるが、山の天気は変わりやすく季節も季節だ。下手に迷ってしまったら、そのまま遭難してもおかしくはないだろう。


「うっわ、すごい……」

「だろう?……って言っても、これはちょっと俺にも予想外だったかな……どうする?」


 そうして歩く事暫し。

 辿り着いたのはちょっとした広場のように開けた場所であり、その中心には山小屋らしきものが立っていた。

 そう、ようなもの・・・・・だ。

 山小屋らしき面影は一切なく。植物によって小屋全体が覆われており、一見すると巨大な樹のように見えなくもない。


「……大丈夫!これ、ください!」

「本当に良いの?これだと……流石に住むのも一苦労だと思うよ?」

「良いんです。幸い、時間ならたっぷりあるんで!」


 隆之介伯父さんに、元から交渉していた山小屋の金額……凡そ約200万を払う事で権利を買い取り、自身のモノとして。

 セーフティハウス……植物の処理などは必要ではあるものの。滅多な事では人は訪れない、倉庫代わりの居住地を手に入れる事が出来た。


「あ、隆之介伯父さん」

「なんだい?」


 私の興奮した様子を見て、一足先に帰ろうとしていた彼を引き留める。

 このままでは私の母親……彼からしたら妹に連絡はしないだろうものの、父親の方にしかねない。

……ま、家庭環境は知ってるだろうけど……小さい芽でも潰しておかないと。

 この後、家族がどうなろうとどうだって良い。しかしながら、彼らが私のやる事を邪魔しようとするのであれば……私は容赦出来ないし、しないだろう。

 そんな状況に、時間を使うハメになる前に、それに繋がる可能性のある行動は止めておかないといけない。


「私の家族には、私がここに居るってのは伝えないでくださいね」

「……なんでかな?」

「もう顔も見たくないし、話もしたくないんです。要するに関わりたくないって事ですね。知ってるでしょ?」

「はぁー……分かったよ。一応、この山の麓には俺ら猟師が狩猟シーズンの時に使ってる小屋がある。作業してて暗くなってきたらそっち使いなね」

「はーい!」


 彼はそう言って、山の中へと……来た道を戻るようにしてこの場から去っていく。

 思えば、元より家族の中で虐げられていた存在である私を気に掛けてくれていた人だ。

……もう、人は信じられないからね。

 手酷く裏切られた後、再び人を信じる気にはなれない。

 それが幾ら昔から知っている人であろうと、それよりも前……物心ついた時から知っている人間に裏切られたのだ。信じる理由にはならないだろう。


「よっし、リン。出てきて良いよ」

「わふ!」


 持ってきていたペット用のリュックからリンを出し、私は山小屋へと近付いていく。

 近付けば近付くほどに、植物の侵食が酷い事が分かるものの、


「A.S.S、これ出来るかな?」

『容量確認……可能であると判断できます』

「了解。――じゃあやってみよう」


 どうにか植物を掻き分け、素手で山小屋の壁へと触れて……瞬間、目の前から山小屋が消えた。

 それと共に小屋を侵食していた植物達が支えを失い、地面へと落下していくのを見つつも、私は【空間収納】の凄さに……否、この場合はチートさと言った方がそれっぽいだろう。

 チートさに驚いていた。


「すっご……A.S.Sが出来るかもって言ってたからやってみたけど……ホントに出来るんだ」

『タスクを完了し、総量が増加していなければ出来ませんでした。また、今回の収納により、完了したタスクが2件存在します』

「おぉー……じゃあ報酬受け取っておいて。【空間収納】の機能追加系?」

『今回のタスク報酬は、収納した物1つ1つに対して個別にどのように保存しておくかを設定できる機能と、単純な総量増加の2つとなります』


 結構使える、というよりも。

 今しがたやったように、少し前の状態でも山小屋1つ程度ならば収納できる容量はあるのだ。

 それが更に増加、その上収納した物に対する個別設定まで出来るのだから……収納としては十二分に便利だろう。


「よし、じゃあ山小屋取り出すけど……普通に取り出して大丈夫だよね?」

『問題ありません。強いて言えば、元の位置をしっかりと見定めてから取り出す事をお勧めします』

「成程?」


 言われた通り、少し離れた位置から元々山小屋があった位置をしっかりと見て手を翳し、念じる。

 すると、次の瞬間。


「おぉ!凄い凄い!」


 何もない虚空から山小屋が出現し、ちょっとした地響きのような音を周囲に響かせながら着地した。

……もしかしてこれ、結構な質量の物を空中から落としたりもできる……よね?

 A.S.Sの言った注意はこれに私が巻き込まれかねないからだろう。

 とはいえ、だ。


「よし、見た目自体は綺麗になったね」


 そこには、先程まで植物に侵食されていたとは思えない程に綺麗となった山小屋が在った。


「水道とかは……まぁ、後で何とか考えるとして。毛布とかもあるから今日はこのままここで泊まっちゃおう。大丈夫だよね?」

『問題ありません。但し、夜間は夜行性の野生生物が徘徊し始めるので……』

「了解了解。流石にここまで来て熊のエサとかにはなりたくないから、夜は外に出ないですぐに寝る事にするよ。……リンー!コッチおいでー!」

「わん!」


 こうして、備品集め、セーフティハウス確保までは辿り着く事が出来た。

 あとはここを住みやすいように改装しつつ、来る時まで備蓄を増やし続ける事にしよう。


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