『――現在、アフリカ国内で発生した大規模暴動は、今も終息せず――』
『――新種の感染症と思われる病気が――』
『――長崎市内にて、高齢の男性が突如通行人の男性に噛み付くなどの暴行を――』
「……始まっちゃったかぁ」
山小屋内に設置した、災害時用のラジオから流れるニュースを聴きながら筋トレしていれば。ついに世界にウイルスが蔓延し始めたらしい。
転生する前、終末世界で10年過ごしたが故の身体能力が無くなってしまった為、タスクを消化する隙間の時間で筋トレ等をする事で元に戻そうとしているものの……約一ヶ月の期間では流石に厳しいものがある。
……ここまで来たら、もう止められないし止まらない。タイミングとしてはここしかない。
既にある程度の備蓄自体は用意しているものの、まだ足りない。
それこそ、この借りた山小屋を拠点として扱うには防衛性能が足りなさ過ぎるのだ。
ゾンビの行動範囲は広い。理性を失い、食欲に従って動く為か人里離れた山の中にまで入り込んでくる事もある。故に、その時に備えた拠点造りをしなければならなかった。
『新規タスクが発行されました』
「ん、簡単に教えてもらえる?A.S.S」
『今回発行されたタスクは2つ。1つは【防衛拠点を作り上げよ】、もう1つは【備蓄を更に集めよ】になります。詳細を確認しますか?』
「防衛拠点の方はいいとして……備蓄の方をお願いしていい?」
『了解しました』
――――――――――
【備蓄を更に集めよ】
種類:備蓄
進行状況:0/100
報酬:対衝撃防壁×4
説明:終末は緩やかに始まった。だが、未だ備蓄は十分ではない。
拠点を構える為にも、備蓄を更に集めていこう。
――――――――――
「対衝撃防壁ぃ……?」
『説明します。対衝撃防壁とはその名の通り、衝撃に強い性質を持った防壁となります。タスク発行システムによって生成された素材であり、もう1つのタスクである【防衛拠点を作り上げよ】に必要な素材であると推測できます』
「あれ、A.S.Sは全部把握してる訳じゃないの?」
『私はあくまでA.S.S全体のシステムサポートであり、A.S.S全てを掌握している訳ではありませんので。今後、タスク次第では性能等も向上するものと思われます』
「そういうもんなんだ」
とは言え、とりあえずは防衛拠点造りに使えそうなモノとくれば貰っておいて損はない。
自衛隊等に所属している、していた者ならば兎も角として、1回死ぬまで終末世界を経験しただけのただの一般人。拠点を強固にする技術や知恵は持ち合わせていない為、この報酬は有難い。
「ま、元々備蓄はまだ集めようと思ってたし丁度良いや。――えぇーっと、業界でもタチの悪い金貸しは……」
「くぅーん……?」
「あぁ、リン。心配はいらないよ、大丈夫。どうせこの後はお金なんてただの紙屑になるんだから。今のうちに使えるものを貰っておこうってだけ」
私はすぐさま、目星をつけていた高利貸や闇金と呼ばれる金融会社へと連絡を取り始める。
リンに言った通り、今後この世界に於ける貨幣は価値を失う。ゾンビが蔓延り、社会システム自体がマヒする状況で、幾ら資金を持っていたとしても意味がないのだから。
だからこそ今借りれるモノを借り、返す事など考えずに物へと変える。無論、自身の私有財産も全て投げ打って、だ。
「よし、連絡ついた。流石にリンは連れていけないから……色々終わって、買い物が済むまではここに居てね」
「わふん」
「うん、良い子」
リンを一度撫でた後、山小屋を出て人の居る街の方向へと向かって行動を開始した。
……とはいえ、電気とかもあった方が良いよね。流石に火力発電とか風力発電は難しいし……。
街へと向かい、足を進める一方で私は拠点に備えるべきものについて考えていく。山小屋を借りるまでに手に入れた物は水や食糧をメインとした、所謂災害時用の生存を補助する為の物ばかり。
生活をしていく、と考えるのであれば農業や家畜なんかにも手を出せるならば出した方が良いだろうし、ライフラインとして電気や水等をある程度考えずとも使える環境にしておきたいのだ。
「お金についてはまだ200万はあるし……全部すっからかんになるまで買い集めてみよう。――A.S.S」
『何でしょうか』
「とりあえず、今発行されてるタスクの中でクリアできそうなモノを一覧化しておいてくれる?多少危ない道を通っても問題無いから」
『畏まりました』
今回は、今度こそはリンと共に生き延びてやる。
その為に必要であれば、人だって……これまで従ってきた親だって殺してやろう。今、私が手放したくないものは、リンだけなのだから。
―――――
とは言え、私個人でやれる事はたかが知れている。故に、
「いやぁー……昨日の今日で頼られるとはね」
「可愛い姪の頼みですよ?」
「あはは、分かってるからこうして車を回してるのさ」
私の事が心配だったのか、山の麓にあると言っていた猟師小屋に居てくれた隆之介伯父さんに軽トラを出してもらいながら、近くのホームセンターへと向かっていた。
あまり人を頼りたくはないが、それはそれ。
足が無い状態で大量の物資を買い、変に目立ちたくは無かったのだ。
「で、ホームセンターって事はあの山小屋の手入れ用の道具が必要なのかな」
「そんな所です。少し時間が掛かると思うんで、また連絡したら迎えにきてもらっても良いですか?」
「了解したよ。一応聞くけど、男手は?」
「大丈夫です」
街のホームセンターに着き、隆之介伯父さんを見送った後。私は店の中へと入らずに、街中へと向かって歩き出した。
当然、ホームセンターで買う物はある。しかしながら、先に金融などに寄り資金を受け取ってからの方が色々と都合がいいのだ。
様々な金融へと赴き、返すつもりの無い資金を凡そ3000万ほどかき集めた後。
私はホームセンターに戻り、様々な物をに台車に乗せていく。
小型のチェーソーや、個人でも使えるポンプ、スコップなどの以前備蓄を整えていた時に買えていなかった物に始まり、今後使うであろう農耕用の道具類。家電なんかも適当に積み上げて。
「この辺りでいいかな。A.S.S、あと必要なものは?」
『発電系統が足りていません。また、食糧等を収納する為の大型冷蔵庫なども必要でしょう』
「んー……必要?私が要れば十分じゃない?」
『異能が十全に機能しない場合や、空きが欲しい場合に必要と判断しました』
「成程ね。……冷蔵庫は後で家電専門店かなー」
小声でA.S.Sに助言を乞いながら、目に付いたものを台車に乗せていく。
色々な物が揃うホームセンターと言えど、個人用の発電機や大型の家電などは置いていない。その為、後々買い集める必要があるだろう。
「よし、会計しちゃおう」
伯父さんへと連絡しつつ、山の様になってしまった台車をレジへと持っていけば。
流石に多すぎたのか、目立ちたくないと思っていたのにも関わらず、100万に届きそうな勢いで物を買ってしまっていた。
店員には郵送するか否かを聞かれたが、問題ないと断って。
適当に伯父さんを待っている間に、買った物を確かめるフリをしながらさり気なく【空間収納】へと物を仕舞っていけば、
『タスク【備蓄を更に集めよ】が達成されました』
「報酬、そのまま収納に入れられる?」
『可能です――受取完了。同時に、新規タスクが発行されました。今回達成したものと同じ名称ですが、拠点造りに使えると思われる報酬が受け取れるタスクです』
「了解、なら詳細は見ないで適当に備蓄して行けばいいね」
タスクも完了し、対衝撃防壁を手に入れる事が出来た。
流石にここで取り出してみる事はしないが、後々山小屋に戻ったら確認するべきだろう。
「お、伯父さん来た」
「おぉーい雛奈ちゃん!何だいそれ?!」
「買った物ですよー。今日の分です!」
「今日の!?」
と、大体物を半分程度収納した所で、隆之介伯父さんが駐車場へと戻って来てくれた。
だが、この程度で驚いてもらっては困る。
まだまだ終末世界に向けた備蓄は始まったばかりだ。