目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

Episode5 - 偶然の出会いをしてみよう


 そうして数日間、隆之介伯父さんを呼び出しては荷物を運ぶ事を繰り返すと共に、備蓄系のタスクを達成していった。

 結果としては、食糧系に凡そ300万、家電や設備用の物に約2000万と、金融で借りてきたお金を含めても残りが1000万程度になってしまったが……問題は無いだろう。


「いやぁー……まさかどう確保するか迷ってた発電機系を手に入れられるとはね」

「わふ?」

「リンにはちょっと分からないか。これで発電できるって事だよー。まぁ小型が何個かって感じだから、初めの内はバッテリーに蓄電しないとだけど」


 対衝撃防壁に始まる、防火シャッター等の防壁系。

 食糧やエネルギー系のリソースを、私の異能以外で管理する為の家電系。

 そして、最後の最後……とも言い切れないが、ある程度の備蓄を終えた所でタスク報酬として得る事が出来たのが、発電を行う事が出来る機械類だ。

……複数候補から選べて助かったよ、本当に。

 発電と言えば、火力発電や風力発電、果ては原子力発電等、多岐に渡る方法があるものの。私がタスクの報酬として選んだのは水力発電を行う為の諸素材。

 山の中に居るという点や、他に比べ維持コストなどが安い……と思うのが選んだ理由なのだが、設置するにしても、拠点を移さねばならない。今現在居る山小屋は隆之介伯父さんに知られてしまっているし、そもそもが街に近い。

 ゾンビへの対処法は今現在の誰よりも詳しい自信はあるが、だからこそ人が居る街という不確定要素が多い場所からは離れておきたいのだ。


「ま、これを設置する前に……改めて探さないとだね。A.S.S、本当にこの山の中にあるの?」

『確率としてはほぼ9割です。残りの1割に関しては、時の流れによって崩壊してしまっている為に見つからない、という可能性なのでほぼ無視出来るでしょう』

「ふぅん……まぁ、いいや。リン、今日もお願いね」

「わん!」


 私はある程度の登山用の装備を身に着け、リンと共に山小屋の外へ出た。

 ただ山を登るつもりも、リンの散歩を行う為でもない。

……あると良いなぁ、防空壕。

 この山に在るとされている、防空壕を探す為の探索だ。元より私も、そしてA.S.Sもその存在を知らなかった為に、山小屋を山深くまで移動させ魔改造でもしようかと考えていたのだが……つい先日、隆之介伯父さんとの雑談中に、ある話を聞く事が出来たのだ。


―――――


『雛奈ちゃん知ってるかい?あの山にはね、元々防空壕が在ったらしいんだよ』

『防空壕が、ですか?』

『あぁ。戦時中にこの街の人達が逃げ込む為に作ったらしくてね。ただ、戦争が終わってから手入れもされず、誰もそんな場所に行かないからって事で何処にあるのか分からなくなっちゃったらしいんだ』

『それはまた……ある意味貴重な文化遺産ですね』

『あはは、それはそうかもね。でも気を付けてね?もし見つけたとしても、中には絶対入らない事。戦時中に素人が作ったモノだ。いつ崩れても、もう崩れていてもおかしくはないんだから』


―――――


 伯父さんとの雑談を思い出しつつ、歩いていく。

 幾ら壮絶なサバイバル経験があるとは言え、山の中を歩くのは慣れていない為に体力を消耗するものだ。

 途中、邪魔な木や不安定な巨大な岩等を【空間収納】へと仕舞っていく事暫し。


「ふぅー……ある程度探索したね。お昼にしようか、リン」

「わふ!わふ!」

「うん、リンもお腹空いたかぁー。よしよぉーし」


 適度に開けた場所で巨大な岩を背に、私は一度休憩する事にした。

 リンにはドッグフードを、私は軽く栄養補給が出来れば良いとカロリーバーのみの質素な食事ではあるが、変に山の中で豪華な物を食べて野生の動物達を刺激するよりは良いという判断だ。

 A.S.Sには私とリンが歩いてきたルートを記録させ、遭難防止の為のナビゲーターを任せている。慣れない山、場所だ。ここに来て遭難なんてしてしまったら色々と台無しだろう。


「A.S.S、ここまでのルートは記録済みだよね?」

『問題ありません。以前通ったルートと照合すると、このまま北へと向かって歩き進めていけば、凡そ30分程で山頂へと辿り着く事が可能です』

「了解。まぁ山頂までは向かって行こうかな……っとと?!」


 カロリーバーを齧りつつ、今現在進行中のタスクについて考えようと岩に背を預けようと体重をかけた所……僅かに動き、体勢を崩してしまう。


「くぅーん……?」

「ふふ、大丈夫大丈夫。ちょっとバランス崩しちゃっただけだから。……でもコレなんだろ」


 変に動いてしまった岩をそのままにするのは危ないと思い、【空間収納】に仕舞ってみれば。

 そこには、奥へと……斜め下方向へと続く階段を発見する事が出来た。


「A.S.S」

『確認。階段の材質は石ですが、現代の技術によって成形されたものではありません。また、何処かに空気穴があるのか、空気の流れを感じる事が出来ます』

「そうだね。私も感じるよ。……つまりは、ここがそう……かな?」

『その可能性は高いでしょう。探索を推奨します』

「了解。――よっし、やっと見つけたぁ!リン、それ食べたらすぐ行くよ!」

「わん!」


 神の気まぐれか、悪魔の計らいか。

 どちらにせよ、防空壕の入り口らしき場所を発見する事が出来たのだ。探索せずにはいられないだろう。

 また、ここが無事ならば私の持つ素材を組み合わせる事で強固な防衛拠点に変える事も出来る。

 そうなってくれば、私の目的である終末スローライフへの第一歩を踏み出せるのだ。テンションが上がらない訳がない。


「ん、やっぱり結構埃っぽい……一応防塵マスクを【空間収納】に入れといて正解だったね。リン大丈夫?」

「わふ……」

「駄目そうかな……一応ペット用マスクもあるし着けておこうね」


 ライトを片手に、気を付けて石の階段を下へと降りていくと。

 そこにはそれなりの広さがある空間が広がっていた。大部屋のようになっているそこは、天井の土が落ちてこないよう、廃材等を組み合わせる事で築かれているように見える。

 軍の手は加わっていないのか、そこまで頑丈な造りではないようだが……恐らくは大工などが協力して作り上げたのだろう。簡易的な扉やちょっとした小部屋のようなスペースもある、今でも整備さえすれば使えそうな空間だった。


「これは使えそうだね!A.S.Sどう?」

『問題ありませんね。ここから広げていくというのも出来ますし、現状でも十分な広さがあります。問題は電力供給でしょうが……それに関しても、地上側に貯水池を川に繋がるよう作ればある程度は解決するものと考えられます』

「よっし、じゃあここを魔改造していく事にしようか!」


 A.S.Sの見立ても問題なさそうな為、ここを拠点にする事に決めた私はすぐさま様々なモノを準備し始める。

 まずはこの場を安全に使用する為の支柱や天井の補強。それから現在【空間収納】内に仕舞ってある工具等を使い、この空間を綺麗に……せめて、マスクを外しても問題が無いくらいの綺麗さにしていきたい。

 リンには申し訳ないが、少しだけ我慢をしてもらいつつ作業を進めていく。

 下手に初めから多くの事に手を出す事はせずに、少しずつ、今必要な分だけを進めていけば、


「よぉーし、とりあえずブルーシートの設置終わり!支柱と天井は明日本格的にやるとして……換気もしたし、ある程度はマスク外しても問題無いはず!」


 まだまだ小さく、それでいて始まったばかりの一歩。しかしながら、確実に私の今後に大きく関わるであろう拠点造りの一歩目が今踏み出され

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?