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Episode6 - 拠点を作り上げてみよう


 戦時中に使われていた防空壕を見つけてからの私は、防衛拠点を作り上げる事に集中していく事にした。

 というのも、ゾンビウイルスは既に蔓延し始めているものの、日本でのパンデミックはまだまだ少し先。それに加え、早めに拠点を構えておいて損は無いし……タスクも存在しているのだからやらない理由がないのだ。

……さて、とりあえずは貯水池はこんなもんかな。

 現在、私が行っているのはタスク【防衛拠点を作り上げよ】を進め始めてから出現した、新タスクである【貯水池を作り上げよ】。

 と言っても、そこまで巨大なモノではない。


「ま、流石に1から作るのは難しいからね」


 山に流れる川を分岐させ、防空壕近くの土地に池の様な場所を作り出したのだ。

 ここから防空壕内へとポンプか何かを使って繋ぎ、内部でも水を使えるようにするのが目標ではある。しかし、川の水をそのまま引っ張ってきているのだ。流石に私も、幾ら綺麗だったとしても川の水をそのまま飲料水として使おうとは思っていない。


『タスク【貯水池を作り上げよ】を達成しました。報酬を受け取りますか?』

「ん、お願い。新規タスクは?」

『新たに3つ発行されております。その全てが防衛拠点に関連しているものです』

「了解。じゃあ一旦、このまま進めていこうか」


 だが、それを考えるにも内部で水を使うとしても。どちらにせよ電気の供給があった方が自由度が上がるのは間違いない。

 故に、水力発電を行えるようにと貯水池の作成を優先して行っているのだ。


「さぁーって、どれくらい時間が掛かるかなぁ。完成まで」


 水力発電機、及びその周りの施設の設置に関してはそこまで時間が掛かるものではない。

 タスクの報酬として得たものだからか、位置関係やそこら辺の小難しい専門的な事を考える必要はなく。私の持つ異能やA.S.Sのように不思議な力によって通常よりも高効率で発電できる……らしい。

……専門的な話はよく分からないし、発電出来るって考えとけばいいよね。うん。

 考えても分からない事に想いを馳せても仕方ない。

 今は少しずつタスクの達成に向けて手を動かすだけだ。


「【空間収納】のおかげで設置は楽ちんっと……ここで大丈夫だよね、A.S.S」

『問題ありません。設置後一定時間後に発電を開始するので、事前に用意したバッテリー等も共に設置しておくと良いと思われます』

「了解。――じゃあ設置!」


 出来たてほやほやの貯水池と川の分流に接するように、【空間収納】内から水力発電機を設置すれば。

 そこには、何らかの金属で出来た水車と、それを覆うようにして透明な箱の様なものが出現した。見れば、水車の部分にはタービンのようなモノや私には詳細の分からない機械等が取り付けられているのが分かる。

 まだ設置したばかりの為、水車の動きはゆっくりとしたものではあるが、そのままにしておいては勿体ない。すぐさま用意していたバッテリーや、防空壕へと繋がるコードなどを取り付け電気の通り道を作っていけば、


『タスク【防衛拠点に文明を 電気編】が達成されました。報酬を受け取りますか?』

「今回は何だっけ?また防壁系?」

『いえ、今回は……大型の冷蔵庫です』

「?冷蔵庫?まぁいいや。まだ容量余裕あるし受け取って」

『了解しました』


 A.S.Sがそう言った瞬間、私の視界の隅に突如【空間収納】のウィンドウが出現する。

 何かと思い視線をそちらへと向けた瞬間、絶句し私の身体の動きは止まってしまう。

 そこに書かれていたのは……全く予想していなかった――【空間収納】の容量が上限近くになっているというメッセージだった。


「は、はぁ!?え、A.S.S、受け取ったのって1つだけだよね今?!」

『肯定します。受け取ったのは【防衛拠点に文明を 電気編】の報酬である大型冷蔵庫のみです』

「それなのに何で……いや、先に防空壕に戻って取り出してみた方が良いか……!」


 何が何やら、と言った風ではあるものの。とりあえず私は急ぎ防空壕に戻り、未だ物の少ない防空壕の真ん中辺りで大型冷蔵庫を取り出してみる。すると、そこに現れたのは、


「……業務用のアレじゃん……」


 飲食店やコンビニの裏なんかにある、冷蔵庫への入り口の扉が付いた1つの小屋だった。

 通電していない為か、中は冷えていないものの……それなりの量の食糧を冷やす事が出来、尚且つ内部には小型ではあるが冷凍庫まで設置されている。

……うわ、冷蔵庫だけだと思ったら結構お肉やら魚も入ってる。これが原因か……。

 中を見てみれば、冷凍庫の中が一杯になる程の肉や魚、野菜などが収められており、私が集めていた食糧にも勝るとも劣らない量があるのが分かる。


「えぇーっと……いや取り敢えずコレは埋め込みでいけるかな」


 一度【空間収納】へと仕舞い、適当な防空壕の壁へと手を触れ再度取り出せば。壁にめり込んだような形で、扉だけが目の前に出現した。

 防空壕を拠点として作り変えていく時に気が付いた、【空間収納】のちょっと特殊で便利な能力の1つ。

……埋め込み、っていうか。元々物がある位置に出現させると、入れ替えが発生するの便利だよねぇ、本当に。

 地面や壁など、元々何かが存在している空間に対して物を取り出そうとすると、その存在していた何かと入れ替わる形で【空間収納】から物が取り出される機能。

 私はそのまま単純に『入れ替え』と呼んでいるものの、使い方によっては中々に凶悪な使い方も出来るであろう機能の1つだ。


『タスク【防衛拠点を作り上げよ】が達成されました』

「あれ?本当?――あ、本当だ。要件は満たしたって事かな」

 と、ここで【防衛拠点を作り上げよ】が達成される。これのクリア条件は3つあったのだが……中々に大変だった。

 まず前提として外敵から強い防壁を備える事。これに関しては、備蓄系タスクによって手に入れた防壁を元々の土壁と入れ替える事によって何重にも重ね、地下であるのにも関わらずかなりの耐久性のある壁を備える事が出来ている。

 2つ目、3つ目の条件は先程まで作業していた、発電機の設置と用途別の保管庫の拡充だ。


「ふぅー……これで一段落、ではあるかな。結構作業の為に人としての生活を捨ててた気がするよ」


 思えば、この防空壕を見つけてから既に1週間程度は経過している。

 【空間収納】によって物を運んだりと言った作業に時間が取られなかった為に、ある程度は余裕をもって進められたものの……横になって寝たのはもう遠い記憶だ。

 改めて周囲を見渡してみる。


「殺風景なコンクリート打ちっぱなしの部屋……でもコレが元は古い防空壕だっていうんだから驚きだよ」


 コンクリートの様に見える壁と、それぞれの部屋へと繋がるドアが幾つか。地上に繋がる空気穴や、貯水池からポンプを使って引っ張ってきている水。

 食糧の保存用に使える大型の冷蔵庫や、それに入れる為の物を生育できる農園や飼育場。元々は岩で塞がれていた出入口は、報酬で手に入れた3重のドアで塞がれている。

 自給自足が出来るという面でも、ゾンビに対抗するという面でも中々完璧な拠点が作り上げられたのではないだろうか?


「あ、そうだ。A.S.S、さっきのタスクの報酬は?」

『はい、こちらは……私、A.S.Sのシステムアップデートと、設備のレベルアップ権となります』

「システムアップデートは良いとして……設備のレベルアップ?何それ?!」


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