『これまで設置してきた設備の機能拡張などですね。今回は2回分行えるそうです』
そう言って、私の近くに1つのウィンドウが出現する。そこには防衛拠点の設備である冷蔵庫や先程設置した発電機、保管庫などがリスト化されており、
「うわ、これ凄いね。正しくチートだ」
保管庫を大きくしたり、そもそもとして防衛拠点の部屋を増やしたりなどが行えるようになっていた。
……2回分、かぁ……迷っちゃうなぁ。
だが、それが行えるのは2回のみ。間違えてしまっても取り返しが付かない所か、そもそもとして今後同じような報酬が貰えるかも怪しい所だった。
悩みつつ、出来上がった防衛拠点内で筋トレを行う事、約1時間。
「ふぅー……よし、決めた決めた!」
脇に置いておいたウィンドウを弄り、設備のレベルアップを行っていく。
すると、だ。
「うわ!?」
「わふ!?」
丁度近くにあった、冷蔵庫が急に強烈な光を放ち……収まっていく。
外見には特に変わりは無く、先程までと同じように見えているものの……どう考えてもそれはおかしいだろう。
何故なら2回分のレベルアップの内の1回は、この冷蔵庫に使ったのだから。
「……失敗、かなぁ?」
少しだけ嫌な予感がしつつも、私は冷蔵庫に入る為の扉に手を掛け開く。すると、だ。
「――いやいやいやいや、おかしいおかしい!」
そこには、巨大な空間が広がっていた。
先程まではちょっとした小部屋サイズだったそれが、今では学校の教室程度の広さまで巨大化しており、私の【空間収納】の中に入れてある食糧全てを雑に放り込んだとしても十二分以上に余裕がある程に変化している。
……ちょっと広すぎじゃない!?
【空間収納】から食糧を取り出しつつ、設備のレベルアップという報酬のチートさに驚き続けていた。
元より業務用の冷蔵庫だ。それをレベルアップさせるならば大きさ、広さくらいになるだろうと思って選択したものの……流石にここまで広くなるとは考えてはいなかった。
「あ、待って?!じゃあもう1つの方はどうなってるわけ!?」
と、ここまで混乱しつつも。私はもう1つのレベルアップした設備……水力発電機の方を思い出す。
あちらは更に効率的に発電できるようになってくれ、と願っていたのだが……この分だと、私も思いつかない方向性でレベルアップしている可能性がある。
急ぎ出掛ける準備を整え、水力発電機を置いた場所へと駆けていくと、
「……うっわ、なんかでっかくなってる……」
そこには、先程設置した時よりも2、3回りほど巨大化した水力発電機?が鎮座していた。
……そもそも、あの冷蔵庫が普通に動いてたって事は……その分消費電力も上がってる筈。それなのに動いてたって事は。
少しだけ引きつつも、どういう風に変わったかを目視で確かめていく。
すると、だ。
「あれ?……これ、水流関係なしに回ってない?」
『補足します。現在、柊様が設置した水力発電機は水流による動力により発電、そして発電した電力を使い自動的に水車部を回転させ発電と……つまりは、無限に回転し発電し続けるようにレベルアップしています』
「なにそれぇ……?」
どうやら、人類が欲してやまなかった無限エネルギーがここに実現したらしい。
さっぱり意味が分からない。
「え、回転に使う電力と発電量はどれくらい違うの?っていうかバッテリーは何処?え、馬鹿なの?」
『混乱している所申し訳ありませんが、回答します。回転に使う電力と発電している電力量は1:9の関係にあり、動作自体に問題はありません。また、バッテリーはレベルアップに伴い水力発電機と一体化、その容量も拡張されているようで、限界には程遠いです。また、馬鹿ではありません』
「御親切にどうも!ありがとうね!」
どうやら、私はまだこのA.S.Sというチートシステムを理解し切れていなかったらしい。
そもそもとしてチートなのだから、思ってもよらない人智が及ばないレベルでぶっ飛んだ事が起きても不思議はないのだ。
問題は、こんな力を持っているというのに、未だ転生前の身体能力にも満たない私の方。
……これ、早めに鍛え直さないと大変だ……!
【空間収納】だけでなく、こんなシステムも持っていると誰かに知られてしまったら。
転生前ならば1対1、相手に異能が宿っていなければ何とかなる身体能力を鍛える事で手に入れていた。だが、今はまだ甘い。油断している成人男性程度ならば倒せるかもしれないが、戦い慣れしている相手だとそうもいかない筈だ。
「どうにかしなきゃ……あ、そうだよ。後回しにしてたけど、システムアップデートの内容って?」
『内容を表示します』
問の答えと共に、私の目の前には1枚のウィンドウが出現する。
そこに書かれてあったのは、
「私有地設定機能と……ポイント交換機能!?」
『ポイント交換機能は、これからのタスク達成時にポイントが付与され、そのポイントを使う事で様々な物品や今回の様に設備のレベルアップが行えるという機能となっております』
「え、えぇ……それ使えば備蓄がもっと楽に……いや、そもそもタスクをこなさないといけないからハードルは高めなのかな……もう1つの方は?」
新たに表示されたラインナップを確認し、これからの……終末に向けた動きを頭の中で組み立てていく。
A.S.Sのチートぶりに頭の中を乱されたものの、それなりに準備を進めてきた結果、お金にもまだまだ余裕がある状態を保てている。
ちょっとここらで自分にご褒美を与えても許されるのではないだろうか?
『私有地設定機能は、その名称通りです。指定した範囲の敷地を柊様の領域として設定、その範囲内の設備の動きや物品の総量等を私経由で管理する事が可能となる機能になります』
「おぉー……これまでとは違って、ザ管理って感じの機能だ……じゃあ、防衛拠点からこの水力発電機までの範囲を全部私有地に設定できる?」
『可能です。また、私有地内に何者かが侵入した場合に通知する事も可能ですが』
「じゃあ人間と……後は肉食の野性動物と、草食の大型が入ってきたら通知で」
『了解しました』
そう言うと、よく目を凝らさねば分からない程度に地面が淡く光る。
それと共に、私の周囲に数枚のウィンドウが出現した。
……『領域内管理』……うん、これを見れば何があるのか一発で分かるわけだ。
目の前にある水力発電機の現在の発電量や蓄電量に始まり、防衛拠点内の冷蔵庫の残り容量、保管庫内の物品リスト等、イラスト付きで出現したそれらに目を通しつつ、
「これ農場も作れそうなくらいに敷地あるね……A.S.S、ポイントで動物を交換できる?」
『可能です。それぞれ、牛が100ポイント、豚が75ポイント、鶏が50ポイントです。また、他の動物も交換可能となっているので、欲しい動物を手に入れる事が出来ます』
「成程成程!じゃあ作っちゃおうか、農場と牧場!」
善は急げ。迷ったら作ってしまえば良い。
その考えで、私は【空間収納】内に入れていた農業用の道具や日曜大工等に使える工具などを取り出していく。
幸いにして、材料も道具も、必要な物は揃っているのだ。
これから新鮮な肉などは手に入り辛くなってしまう。それならば、手に入る内にこれからも入手しやすいような状況を作り上げておくのに越した事はないだろう。
「よぉーし、やっていくぞ!」
A.S.Sのチート具合に頭をやられてしまっていたのだろう。
私は防衛拠点近くに簡単な農場を作り始め……完成した時には気が付けば周囲が暗くなってしまっていた。
牧場に関しては、建物を立てねばならない関係上まだ柵程度しか作れていないものの……そちらも、ポイント交換機能を使っていけばある程度は形になるだろう。
こうして、最後に慌ただしくなってしまったものの、私の防衛拠点はある程度の形を完成させた。
この後やるのは当然、1つだ。