「よぉーし、回収回収!リン、食べたかったら食べていいからね!」
「わぉん!」
現在、私はショッピングモール内の食品売り場に訪れていた。
というのも、まず回収すべきは物品よりも消費期限のある食物系統だろうとA.S.Sに言われたからだ。
確かに【空間収納】内へと突っ込んでしまえば、期限へのタイムリミットを緩やかに出来るのだから、優先順位的にはそちらの方が高いだろう。
「缶詰系はマスト、後は……いや、私の場合は【空間収納】もあるし、拠点に冷蔵庫あるからある程度までなら生モノもいけるのかな。最悪ポイント交換で……いやいや!そうやって沢山交換しちゃったら絶対後で困るから慎重に行かないと……」
ポイント交換に関しては少しばかり使い方を考えねばならないと思っている。
まだしっかりと確認したわけではないが、交換できる品目の数や幅が広すぎるのだ。
……下手に使い過ぎると……多分、ポイントが枯渇するし、頼り切りになったらすぐにおしまいになりそう。あぁーでも、動物交換はしないとだし……色々大変だもう!
ある種、終末世界での収入のような物として考えておいた方が良いだろう。
家賃は無いが、食費や娯楽費を増やしたらその分手元に残るものが少なくなる。無くなってしまえば普通の生活すらも出来なくなるのだから……大体合ってはいる筈だ。
「あぁー!考えてても仕方ない!農場用の種とかはここで手に入るしね!」
とはいえ、ショッピングモールで得られる物資の量を考えると当分は心配しなくとも良い。
この売り場にある物だけで何カ月かは保つだろうし、何なら他にもフードコート等もあるのだ。食べ物だけならば十二分に備蓄を整える事は出来る。
それに、別にショッピングモールはここだけではないのだ。ここの様に物資が大量にあるとは言えないかもしれないが、終末が訪れた後でもそこらのショッピングモールへと赴けば……ある程度は物資を回収出来ると思いたい。
ここでの物資回収を甘くするわけではないが、ある程度はまだまだ世の中に物資が溢れていると考える事で気持ち足取り軽く行動を開始した。
……後は、防衛拠点用の設備とか……娯楽とかも必要かな?生きるだけなら出来るけど、遊びとかゆとりとかも人間必要だって聞くからね。
目に付いたものに片っ端から手を触れ、【空間収納】へと放り込んでいく。
一瞬、買い物の様にカートでも持ってくるべきかと考えたものの。必要のない物を持ってくるよりは動いた方が建設的だと気が付いた。
「物を出す時は触れてなくても出来るのに……こういう所も今後タスクとかで改善されてくのかなぁ……」
慣れてきたからか、それともゾンビを討伐した為に余裕が生まれたのか。少しばかり自身の持つ異能についての現状の不満点なんかも見えてきた。とはいえ、言っていても仕方がない。
普通に買い物をするわけではない為、吟味なんてせず。最初は丁寧に1つ1つに手を触れ収納していった物を、今ではリンの運動がてら手を軽く触れた状態で走り抜けていくと共に無造作に収納していく。
……どうせリストで確認できるし、後でA.S.Sに何がどれくらいあるのかを集計させればいいや。
粗方食料品を収納し終わった後は、私が着る為の服や、ゲームや本などと言った娯楽品。それ以外にも、家電売り場に行って拠点に使えそうな物や内部の部品目当てで物を回収していった。
自身でしっかりと使えるかは置いておいて、今後使えるかもしれないという物は全て回収して良いだろう。
「あ、そういえばゾンビ討伐系のタスクあったよね。報酬受け取ってなかったけど、どんなの?」
『表示します』
――――――――――
【ゾンビを討伐せよ】
種類:討伐
進行状況:1/1
報酬:植物生育促進剤EX
50pt
説明:やぁ、こんにちはゾンビさん!良い天気だね!
じゃあ、さようなら!永遠に!
――――――――――
「しょ、植物生育促進剤ぃ……?」
肥料的な物だろうか?
そう考え、報酬を受け取って出現させてみると、
「これ……んー?なんだコレ」
私の手のひらの上には、3つの緑色をした錠剤が出現した。
名前的に、これを使えば植物が育つ……のだろうが、どう見ても人が飲むような薬にしか見えない為に違和感が強い。また何かしらのチート系アイテムなのだろうと自分の中で結論付けた。
「ま、これは後で拠点で使ってみる事にして。ゾンビ1体倒すだけで50もポイント貰えてるの?凄くない?」
『恐らく、初回限定のモノかと。備蓄と同じ様にゾンビ討伐タスクも永続のものが発行されていますが、そちらでは5ポイントと凡そ10分の1になっていますので』
「あー……まぁ、仕方ないかそれは。寧ろ初回で10倍も貰えてお得、って考えよう!備蓄の方のタスクはずっと達成し続けてるからなぁ」
タスクには現状2種類存在しているのが分かっている。
1つは、これまで私がこなしてきた突発的に発行され、達成すると無くなる形式の物。
そしてもう1つは、今まで達成したタスクの中で繰り返し達成が可能な物が残り続ける永続形式の物だ。
無くなる形式のタスクは、その分良い報酬が入ってくる事がある為に積極的に。永続形式のタスクは、普段から生活していれば達成する事が出来たりする為、意識せずに。
そう考え、手を付けるタスクの優先順位を自分の中で決めるようにした。
……もう6回くらいは達成してるし……あぁ、【空間収納】の方も達成してるから容量大きくなってるや。
気が付いていなかったが、いつの間にか【空間収納】のタスクも達成しており。
総容量だけ見るならば、ショッピングモール内の全てのモノを雑に放り込んだとしてもまだまだ余裕があるくらいには大きくなっている。
下手すれば、このショッピングモール丸ごと収納する事も出来るのではないだろうか?いや、それは流石にやり過ぎか。
「備蓄系も5ポイントだったよね。って事は80ポイントか。中々貯まってきたねぇ」
周囲を見渡す。ゾンビ騒ぎの所為で人気が無くなってしまったショッピングモール。
少し前までは警察がすぐに来るかと思っていたのだが……【空間収納】内から取り出したラジオによれば、各地で似たような事が起きているらしく。警察側がパンク寸前なのだそうだ。
……終末感、出てきたなぁ。
日本でそうなのだから、外国諸国はもっと酷いだろう。
銃社会かそうでないかの違いや、そもそもの普段からの犯罪率等で違いが出てくる。日本はまだ道路などが清潔に保たれている方である為に、一気にウイルスが広がっては居ないが……発展途上国等は酷い事になっている筈だ。
「まぁ……【空間収納】の容量は全然余裕があるし、集められる物は集めてから脱出かな」
そも、私はそこまで急いでいない。
他の人間とは違い、私にはゾンビの知識があるし防衛拠点もある。A.S.Sも付いているし、リンだって居る。
他と違い、この状況に対する準備を約1ヵ月前から進めてきたのだ。
「努力は実る、ってね。とは言え、あんまりゆっくりしすぎて警察が来ちゃっても困るか……」
その後、ショッピングモール内の物資をある程度まで【空間収納】へと仕舞いこんだ後、私はその場から立ち去る事にした。
まだまだ容量自体は問題は無い。しかしながら、全てを詰め込もうとしていると……本当に警察などが来てしまう可能性があるからだ。とはいえ、保存食や飲料などは重点的に回収した為、私だけで消費するとなれば……普通ならば使いきれない量は確保出来てしまっているのだから、異能という物は凄まじい。
手配していたレンタカーがあると良いなと駐車場に向かってみると、残念ながらと言うべきか順当と言うべきか見つける事は出来なかった。その為、適当なキーの刺さっている車を1つ拝借させて頂いて。
「ま、流石に終末世界になったら車の所有者とか泥棒とか関係ないしねー」
誰に言い訳するのでもなく、私はそのまま車を走らせていく。
とはいえ、車で帰るのも山の麓辺りまで。適当な場所で木にぶつけエアバッグを作動させた後、私はリンを連れ自身の私有地へと歩いて戻っていった。
……これが最後の日、なんだなぁ。
私が普通の人間の営みを見る、最後の日。そう考えると少しだけ名残惜しい気もしたが……元より、そんな生活の中に居るのを約一ヶ月前に捨ててきたのもこの私自身だ。
「よっし、切り替え切り替えっと。――待ってろ、終末世界!スローライフを満喫してやるからな!」
これから始まるのは、私が整えた防衛拠点における終末スローライフ。
リンと共に、生き残れる所まで生き残るのが目標のサバイバルだ。
望外の奇跡によって得られた、
―――――
世界は再び終わりを迎えていく。
ある時、パニック映画のように世界に蔓延した人間をゾンビの様に変えてしまうウイルスによって、生物カーストのトップに君臨していた人間の生活の基盤が崩れていったからだ。
と言っても、そんな中で何もしてこなかった人間が居ない訳ではない。
機能停止していく世界を見捨て、防衛拠点を作り上げ。
一度死を体験したからか、異能……ファンタジーで見る様な超能力の様なモノを扱う事で、より強固な拠点を築いていった。
これは、そんな人間の……ただ1人、世界が終わりを迎える事を知っていた女の物語。
女が、最愛のものと共に生きる為に奔走する、そんな物語だ。