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Episode2 - 出会ってみよう


「ふぅー……いやぁ、快適快適!今日は何観ようかなぁー」


 数日後。私は終末スローライフと言うべき生活を堪能していた。

 世界は既に人間社会が崩壊したのか、インターネットに繋がる事は無くなり。唯一ここ最近まで繋がっていたラジオも、今では繋がらない。

 では私は何をしているか?答えは単純。


「事前ダウンロードって文化、発明してくれてありがとう昔の人!」


 しっかりと、インターネットが崩壊する前にダウンロードしておいた大量の映画や電子書籍等の娯楽を消費しつつ、【空間収納】の中に入れている菓子類を貪っている。

 未来を知り、尚且つ異能があったからこそ作り出せた環境。それを今、十二分に堪能していた。


「――とは言え、そろそろやるべき事はやらないと、かな?リン!」

「わん!」

他の子達・・・・は大丈夫そう?」

「わふ!わんわん!」

「そっかそっか。……今後、ポイント交換で犬語が分かる機械とか無いか探しておこうかな」


 だが、ニュアンスは理解できる。伊達に長いこと共に生きてきてはいないのだ。


「じゃあ……一緒に行こうか!集めてきてくれる?」

「わん!」


 リンに指示を出し、拠点内を駆けていく後ろ姿を見ながら自身も【空間収納】内から複数の装備を取り出して身に着けていく。

 暫くすると、私の前にはリン以外に10匹の犬達が整列して座っていた。


「よし、じゃあ今日は君達の訓練の成果をある程度見るよ!」

『ワン!』

「良い返事。上手く出来たらご褒美をあげるから頑張るように!よし、じゃあ行くよー!」


 リンを含めた11匹を率いて拠点から出ていく姿は、ちょっとしたドッグトレーナーのようなモノ。

 多頭飼いをした事は無かったが、これもまた悪くはないかもしれないなと思いつつ……なんでこんな事になっているかを私は思い出していた。



―――――



「ん……リンストップ。何か居る」

「わふ」


 終末世界になった後、と言ってもついこの間インターネットが繋がらなくなり外の情報が一切入ってこなくなった現状。

 私は外の世界がどうなっているのかを確かめる為に、リンと共に近くの住宅地へと訪れていた。

 以前、隆之介伯父さんと共に物資を運ぶ途中に通った時は活気があったと思うのだが……今ではその欠片も見当たらない程に閑散としている。

 そんな中、私はとある民家の前で座っている犬を見つけてしまった。


「あれは……柴犬かな。家の中には……人の気配はなさそうだけど」


 動物はゾンビ化しない。故に襲われたとしても傷を負う程度で済むが……どうにも様子がおかしい。

 まるで何かを待っているような、こちらが見ている事に気が付いていても無視をして。自分の使命だけに忠実に従っているかのような。そんな様子だ。


「あー……その手のが出てきてるわけだ」


 思い当たる節がないわけではない。これでも転生前は何年も終末世界で生活してきたのだ。

……飼い主がもう逃げちゃったか、ゾンビ化して死んじゃったかのどっちかだね。

 私のような物資を大量に確保できているのならば兎も角として、普通の人達にペットの分まで物資を集め、保管しておく事など出来ない。故に、あの柴犬の元飼い主は切る事が出来る筋から切った訳だ。

 そうして出来上がったのが、終末世界の忠犬ハチ公……とでも言えば、感動的かもしれないが、結局は人間のエゴによって生み出された悲しいペットの姿でしかない。


『柊様、タスクが発行されました』

「ん?今のタイミングで?なんて奴?」

『――【ペットを増やし、戦力を増強せよ】です』

「……都合が良いというかなんというか、だねぇ本当!」


 一瞬、見なかった事にしてその場を去ろうかと考えていた頭を切り替える。

 タスクが発行された、という事は今後何かしらに役に立つ可能性があるという事。戦力、という単語が付いている時点で、現状の私だけではゾンビに対する防衛戦力が足りていないという事なのだろう。

……確かにちょっと心許ないというか……どうしても、私だけじゃ対処出来ない場面は出てくるだろうしね。

 戦力を増やす事も、ペットを増やす事も別に問題はない。物資はあるし、飼う為のスペースも存在している。だが、問題があるとすれば、


「忠犬ハチ公様をどうやって誑かすか、だなぁー……」


 こうして、私の柴犬攻略戦が始まった。とは言え、無理に連れていこうとはしない。

 単純に、その柴犬の前へと毎日毎日とある・・・ドッグフード・・・・・・を置いていくだけだ。

 相手は動物。いかに忠犬であろうと、食欲には逆らえず……結果として、毎日その場へと行く度に無くなっているドッグフードを見て、私は笑みを浮かべていた。

 そうこうして、約1週間。


「おーい、今日も来たよー」

「ワン!」


 忠犬ハチ公は――陥落した。

 何てことはない。人間の三大欲求と同じ様に、犬も同じ欲求は存在している。その上で、人間よりも理性的ではない彼らにとって、食事を持ってきてくれる者に懐くのは仕方のない事だろう。

 それに加え、私が与えていたドッグフードは少し普通のモノではない。


『効果は出ているようです』

「良かった良かった。じゃあ、もう?」

『恐らく理解出来るかと』


 私が与えていたのは、A.S.Sのポイント交換システムによって交換した、食べたモノの理解力を向上させるという……ちょっとよく分からない、いつも通りのチート系ドッグフードだ。

 要するに、このドッグフードを食べさせた犬は、こちらの言っている事をある程度理解出来るようになる、という事なのだが……流石にリンで試す事も出来ず、かと言って他に試す相手も居なかった為、見つけたは良いものの交換していなかった物。

……動物実験みたいで申し訳ないけど……まぁ、後遺症はないっぽいしウィンウィンって事で……!

 本題に戻ろう。

 そんなドッグフードを食べた柴犬を相手に、


「君さ、うち来ない?」

「ワン?……くぅーん」

「あぁー……飼い主が戻ってくるかもって?」


 この柴犬は待っている。既にどこにいるかも、生きているのかも分からない飼い主に対して……未だ、忠誠心を残しているのだ。

 それを、私は崩そうとしている。自身の目的の為だけに。

……改めて理解すると……ちょっとクるものがあるね……。

 だが、ここで保護しないわけにはいかない。餌を与え、コミュニケーションを取る過程で少なからず情が湧いてしまっているのも確かなのだから。


「大丈夫、私は居なくならないよ。君が望むならね」

「ワン……?」

「本当本当。自慢じゃないけど、頑丈さだけはピカイチなんだから!死んでも復活したくらいだしね!――だから、おいで」


 柴犬の前へと手を差し伸べて。私は彼の選択を待った。

 少しだけ迷った様に、その場で円を描くように歩いた後に、


「……ワン!」


 その手へと自らの前足を乗せてくれた。

 彼にとってはかなりの決断だったのだろう。少しばかり身体が震えているのが伝わってくる。

……守らないといけない約束が増えちゃったなぁ。

 だが、心地の良い約束だ。ただ、自分らしく……終わらないように生きていけばいいだけなのだから。

 そこに彼が加わっただけの事。


「んー、いつまでも君、って呼ぶのもなぁ……元の名前は分からないし……うん、決めた」

「ワン?」

「君の名前は今日からアインス一匹目だよ!元の名前じゃなくて申し訳ないけど、これからよろしく!」


 ペット軍団の一匹目だから、アインス。単純なネーミングだが、これ以上なく分かりやすいものもない。

 こうして、私達の元に新たな仲間が加わったのだった。



―――――



「そうこうしているうちに、他の子達も見つけちゃって……今じゃこんな大所帯だよ。物資集めておいて良かったよ本当」


 他の犬達との出会いも似たようなモノだ。

 アインスの様に民家の前で飼い主を待ち続けていたり、ゾンビに襲われ死んでしまったのであろう元飼い主の傍から離れようとしない子。他にも、私が拠点にしている山に捨てられていたりと、元々の飼い主から譲り受けた例は1つもない。

……ま、これも人間の業だよねー……家族って言ってても、自分達が苦しくなったらすぐさま切り捨てるっていうか。

 勿論、出会えた全ての犬を仲間に出来たわけではない。

 私達が間に合わず、ゾンビに襲われてしまった子も居れば……既に、どうしようもないくらいに衰弱してしまっていた子も居た。

 他の子達以上に元の飼い主への忠誠心が強く、こちらに着いてこなかった子も居るくらいだ。


「……ま、そんな子達の分も大事にしないとね」


 どうしてもリンと重ねてしまい、今でもそんな子達の夢を見る事がある。

 だからこそ、今。私の周りに居る子には出来る限りの愛情を注ぐ事にしよう。


「よーし、大掃除始めるよー!気合入れていこう!」

『ワン!』

「わふ!」


 私達は拠点の外へと踏み出した。

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