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Episode3 - 確認してみよう


 大掃除、と言えば聞こえは良いものの……実際にゴミを掃除するわけではない。

 私が拠点にしている山には、度々近くの住宅地から流れてきたゾンビ達が迷い込んでくる。それの討伐の事を『掃除』と呼んでいるのだ。


「アインス、ツヴァイ!右から来てる!フュンフ、ゼクス!困らない!教えたはずだよ!ドライ、アハトはサボらない!後でおやつ抜き!」

「「「「ワン!」」」」

「「くぅーん……」」

「悲しそうな声出してもダメ!」


 私の声に、複数の犬達がゾンビへと向かって攻撃を仕掛けていく。

 1級ゾンビ1体につき、2匹の割合で連携を取って立ち回っていく姿はきちんと訓練されているように見えるものの……まだ甘い。

 人間である私の立ち回りと、犬である彼らの立ち回りを同列に見てはいけないのは分かっているが、それでも1級ゾンビ相手に少し手こずってしまうのは考え物だ。

 だが、恐れず怪我無く……それでいて倒せているのも事実。


「……形にはなったね。タスクどう?」

『確認します……タスク【ペットを増やし、戦力を増強せよ】は現状、約8割が達成状態となっています。残りは、全てのペット達がゾンビを倒す事が出来るようになれば達成です』

「成程ね……まぁ長い目で見よっか。――よーし、倒せたね?まだまだ課題はあるけど今日は終わり!皆拠点に帰ってー!」


 私の号令で、一斉に犬達が拠点の方へと駆けていく。

 流石にそのまま入らせるような真似はせず、きちんと身体を水で洗い流し綺麗になってから入るよう躾けている為、拠点内が汚れる事もない。

……リン達は……うん、無事だね。オーケィオーケィ!

 と、ここで若干離れた位置……とは言え私の視界内で他のゾンビと戦っていたリンと数匹の犬が戻ってくる。


「リンもお疲れ様。引率大変だったでしょう?後でご褒美あげよう!」

「わふわふ!」


 戻ってきたリンを軽く撫でた後。

 私は周囲を見渡してから、


「さて、と……私はちょっと、気になる事があったから行ってこようかな」

「くぅーん……?」

「あはは、大丈夫。タスクで貰ったドローンをメインに偵察?するだけだからさ。リンも拠点戻ってて」


 と、ある程度拠点周囲のゾンビが片付いた所で、私は今日やろうと思っていた事をやるべく行動を開始する。

 【空間収納】内から取り出したのは、ちょっとしたスポーツサングラスと1つのドローン。

 例にも漏れず、タスクの報酬で貰った代物だ。


「えぇーっと……まぁ木の上で操作すればいっか」


 ある程度転生前に戻ってきた身体能力を使い、近くの木の上へと軽く登った後。

 私はサングラスをかけ、ドローンの操作を開始すると同時……私の視界に私の顔が映し出された。

……ホント便利だなぁ、これ。現代兵器って感じ。

 偵察用ドローン、そしてそのドローンに付けられたカメラを通した風景を映し出すスポーツサングラス。稼動範囲の限界を確かめた事は無いが、拠点から山を一周させる事くらいは出来た為……ここら辺も普通のドローンとは違うモノではあるのだろう。

 まぁ普通のドローンがどんな代物かは知らないのだが。


「さて、どうなってるか確認しますか」


 そんな物を使ってまで私が何を確かめたいかと言えば……以前、セーフハウスとして使っていた山小屋の現状だ。

 とはいえ、あの建物の中に物は残してきてはいない。【空間収納】があるのにも関わらず、自身から離れた場所に物を置いておく意味が無い為だ。では、何故か?

……この前、伯父さんっぽい人影を見かけたんだよねぇ……。

 つい先日。それこそドローンを山一周させた時の事。

 山の中に猟銃を持った隆之介伯父さんらしき人物の影を見かけたのだ。

 歩いていく方向的に、私に譲った山小屋へと向かっていた為に当時は無視をしたのだが……どうしても、何をしに来ていたのかが気になって仕方がなかった。


「ま、ゾンビが出たから姪が心配になった、とかだったら良いんだけどさ。良くはないけどね」


 ただの優しい人だったならば問題は無い。これからも彼から隠れるように、痕跡を残さないように山の中の拠点で暮らしていけば良いだけの事。

 しかしながら……彼は、あの母親の兄なのだ。

 普段は私を気に掛けてくれたりしてくれていたのは分かっている。しかしながら、彼も母親と血が繋がっている事を考えれば……警戒して然るべきだろう。

……過剰とは分かってるんだけど、どうしてもあの家族の事を考えると……ね。

 下手をすれば『敵』として接しないといけないな、と何処か諦めにも似た感情を抱きつつ。

 私はドローンを山小屋のある方向へと操作して移動させていく。


「出来れば、伯父さんには記憶のままの優しい伯父さんのままであってほしいんだけどなぁーっと」


 誰に聞かせる訳でもない言葉を漏らしながら、私は目的地近くまでドローンが到着したのを確認した。

 そこに居たのは、


「ぁー……なんか最近多いな、こういうの」


 大勢の武装した人達と、伯父さんの姿だった。


『探せ探せ!』

『大量に物資があるって話だ!小屋ん中に無くても、地下やらに隠してる可能性だってある!』

『沢山の物資を運んでんのを見てんだ!残ってないのはおかしいだろ!』


 そこで行われていたのは、転生前にも見た事がある物資狩りだ。

 力が無く、それでいて物資を大量に抱える者から力尽くで奪い取る……ただの強盗行為と変わらない行動。それが今、私の眼下で行われていた。


「……先導は……伯父さんじゃあなさそうだけど」


 隆之介伯父さんは、5人ほどの武装集団の中心で心配そうな表情を浮かべている。

 だが、それだけだ。彼らの行動を止めようとはせず、かと言ってその行動に加わる事もしていない。

……伯父さんが言ってた、猟師仲間かな。どっかで私と一緒に買い出し行ってたのを見られたか……。

 5対1で逆らう事も出来ず連れて来てしまい、その自分の行動を後悔している……とそんな具合だろう。

 ある意味で終末にいち早く適応した集団とも言える、のだが。


「このままだと拠点の方まで来そうだねこれ。――A.S.S」

『タスク報酬で受け取っている物資ならば、今から配置する事は可能です』

「おっけ、じゃあ……ちょっと痛い目見てもらおっか!」


 人の心は恐ろしい。

 普段……終末以前までならば、今山小屋を荒らしている猟師らしき集団もこんな事はしなかっただろう。

 当然ながら、彼らに限った話ではない。寧ろ、彼らは終末にはよく居た部類の『普通』なのだから。

……だから、今更……怖いって感じる方がおかしいんだろうなぁ。知ってるのに。知ってたのに。

 先日の一件から、私はまだまだ人を見捨てる事が出来ずにいる事は分かっていた。

 だからこそ。故にこそ。……今回の、この出来事は『区切りをつけろ』と誰かにそう言われている様な気がした。


「A.S.S、マップは表示出来る?」

『拠点にあるものならば転写する事が可能です。表示しますか?』

「うん、お願い。それ使って配置していくから」


 言うと同時、私の目の前に新たなウィンドウが出現する。

 そこには拠点に置いてある、この山の詳細な地図が表示されており……山の中でいつ迷っても良い様にとドローンを使って製作した自信作だ。決して暇を持て余した結果作り上げたモノではない。決して。


「よし、じゃあ……ドローン集団展開!」


 【空間収納】内から合計5機のドローンを新たに取り出すと共に、それらにある物資を積んでは地図を参考にして操縦していく。

 ドローンも、そして積んだ物資もタスクによって得た物である為に、ちっとも私の懐が痛んでいないのが良い所だ。


「配置完了。大丈夫そうかな、A.S.S」

『問題ありません。それぞれの特性を考えるに、無難な設置位置であると言えます』

「おっけ、ありがとう。――それでは、踊ってもらいましょう」


 私は再度、彼らを監視しているドローンの操縦を開始した。


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