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Episode5 - 掃除してみよう


 まだまだ作り途中のトレーニング場の方へと声を掛け、私は【空間収納】から必要となる装備を取り出していく。

 この世界での初めての遠征だ。出来る限りの準備を行った方が良いだろう。


「あ、そう言えばこの山って私の領地扱いになってるの?」

『いえ、山はその特性上掃除などが行えない事から特殊なエリアとして設定されています。言ってしまえば、以前領域設定した範囲は柊様の領地として認定されていますが、山全体はフリーの土地という形ですね』

「成程ね?じゃあどうにかして領地にする方法はあるわけだ。条件は?」

『オセロと同じく、この山の周囲一帯全てを柊様の領地にする事が出来たら領地化、です』


 中々面倒ではある条件ではあるが……この山の近くにある地域などたかが知れている。

 隆之介伯父さんとの買い出しに行ったちょっと大きめの市街地とは違う、小さめの住宅地などがあったはずだ。

……一旦、行くならそこかな。初っ端から離れた位置にある地域を領地化するのは……私じゃなく、連れてくあの子達の負担になりそうだし。

 幾らゾンビと戦えるようには育てているとは言えど、その訓練内容には長距離遠征用の行軍の仕方なんてものは含まれていない。

 下手に疲れさせたままゾンビと戦えば……致命的な一撃を受けてしまう可能性だってある。


「ここら辺は司令官の匙加減か……よし、がんばろ」


 一度死ぬ前は、物資を得る為に何度もしてきた遠征だ。

 その時の感覚を思い出しながら、しっかりと準備を進めていこう。



―――――



「おっ、こことか丁度良さそうじゃない?」

「わふ!」


 そうして、準備を終えた私はリンと犬達を連れ山近くの小さな住宅地へと訪れていた。

 こうして姿を晒しながら、人目に付く可能性のある場所へと訪れるのは終末世界になる前以来。少しだけ懐かしい気持ちと共に、どうかトラブルだけは起きないでくれと思っていると、


「……やけに静かだね。小さ目だからまだ人が残ってるかと思ってたのに」


 人の生活音は勿論の事、野生動物の声や人々の喧噪も聞こえてこない。

 まるでゴーストタウンのような有様だ。

……ゾンビが出たから人が居そうな市街地の方に逃げ出した?そっちの方が危険っちゃ危険なのに?いや……まだ起きてないとかはあるか。

 現在時刻は早朝7時。人によってはまだ起きていなくてもおかしくはない時間帯だ。

 だからこそ、静かに。但し時折大胆に行動していく必要があるだろう。


「良い?アインスからフュンフ、ゼックスからツェンの2つの部隊に分かれて纏まって行動するの。ゴミを見つけたら私の所まで持ってきて。ゾンビを見つけたら……すぐに戦おうとはせずに、私の所に戻ってきて指示を待つ事」

『ワン!』

「アインスとゼックスはそれぞれ部隊のリーダーね。他の皆は2匹の指示に従う事」

『ワン!』

「よし、行っておいで!」


 私の指示と共に、10匹の犬達が走り出す。

……これである程度の範囲は問題なく掃除出来るはず。

 犬達だけに作業させる訳にはいかない為、私とリンも共に動き出す。とは言え、ある程度の範囲からは離れるつもりはなかった。


「わんこ達が外でちゃんと活動出来るかのテストも含めて、だからね。今回」


 ただ領地を増やすだけならば、A.S.Sの補助がある私が駆け回った方が効率が良い。だが、いつまでも私1人だけの力で回していたら周りが成長しないのだ。

 特に、ゾンビ用の戦力として育てている犬達にはトレーニング場や拠点周りの山の中以外でも経験を積ませておきたかった。

 故に、都合が良かったとも言えるだろう。


「ま、何事も無いのが1番だけど!平和が1番だよ、やっぱりね。終末世界で何言ってんだって感じだけどさ」


 そうして、私は【空間収納】から取り出した掃除用具などを使いながら周辺地域を掃除したり、たまに戻ってくる犬達に指示を出したりとしている事暫し。

 A.S.Sから見ても、領地を増やす条件を満たせる程度には住宅地の一角を清掃し終えた時だった。


「ワンッ!」

「くぅーん……!」

「ん……アインスにゼックスって事は2つの部隊どっちも?どうしたの?」


 それぞれ同じ方向から走ってきた2匹の様子を見て、私とリンは臨戦態勢へと入る。

 ここまで一度も無かった、2匹のどうすれば良いのか焦り、不安に感じている状態。

……ゾンビ……がただ出た訳じゃないな。2級かな?

 兎にも角にも、その2匹が先導する先へと共に向かってみれば、


「うわっ、マジ……?」

『『『――ッ!』』』

「誰かぁー!居ないの!?助けて!死にたくないッ!」

「クソっ、僕が物資を探しに行こうだなんて言わなかったら……!」

「馬鹿野郎!まだ諦めんな!俺達でも倒せるかもしれねぇだろ!!」


 大量のゾンビに囲まれている健常な人達の姿がそこにはあった。


レギオン・・・・じゃん……!」


 レギオン。私が経験した終末世界での、ゾンビの群れの総称だ。

 大体のレギオンはただゾンビが集まっているだけであり、そこまで脅威はない。しかしながら、

……核になってるのが居たらまずいな……!

 3級以上のゾンビが1、2級の統率を取る事で群れとなっている事もある。その場合は討伐どころの話ではなくなってくるのだ。


『柊様、新しいタスクが発行されました』

「今!?何!?」

『【領地を運営する為の住人を集めよ】です』

「ッ!」


 レギオンを確認した瞬間犬達に指示を出し逃げようとしていた身体の動きを、A.S.Sによって伝えられた言葉で止められる。

 このタイミングでタスクが発行されるのは十分あり得た話だ。領地とはただ頭首が居るだけではな領地足りえない。領民が居てこそ、その土地は領地と呼ぶ事が出来るのだ。

 システム的に領地を増やす事が出来たとしても、ドローンでその土地を維持できるとしても、いずれは人の手による整備が必要となってくる。

……分かってたけど……分かってるんだけどさぁ……!

 だが、頭で分かっていても。私にとっては動く為にはまた別の理由が必要だった。

 何せ他人だ。私を裏切る可能性がある他人なのだ。そんな相手を助ける?助けた後に領民にする?

 フラッシュバックする裏切られた記憶に、足が動かなくなり、


「――たすけてぇ!」

「――あぁああもう!仕方ないなァ!」


 レギオンの中、今にも襲われそうになっている人達の中から子供の助けを求める声が聞こえてしまった。

 声に絆された、とは言いたくはないが……気が付けば。足が、腕が勝手に動き、身体を前へと前進させていく。


「A.S.S!」

『内訳は2級が2体、その他5体が1級の計7体です』

「流、石ッ!」


 彼我の距離はそこまで遠くない。精々が50メートルもあるかないか。

 故に、私の行動は単純に。それでいて、ゾンビ達の注目を集める事が出来る事を行った。

……奴らは単純な、音に大きく反応する!

 大きく足を踏み鳴らし、地面を蹴る。それに合わせるように【空間収納】から、何かに使えるかと回収していた鉄くずを適当な高さから脇に落とす事で、甲高い音を住宅地に響かせた。

 すると、だ。

 人々に群がっていたゾンビ達が突如大きな音を立てた私の方へと

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