住人を増やし、仕事を割り振ってから数日。
私は違和感を感じていた。それは、
「うーん……やっぱりおかしいよね」
「わふ?」
「あぁ、リン。いやね?最近、農場の野菜の育ち方がおかしくてねー?」
私が作り上げた、拠点の施設の1つ。農場についてだ。
とはいえ、現状では先日迎え入れた住人達に世話を任せているため、拠点内にA.S.Sのシステムやチート具合を確かめる用途で作った農場とは言い切れない程度の規模のモノ。
現状植えられているのはトマトやキュウリ、カボチャなどの4月に種蒔きなどを行う野菜。そこから芽が出て収穫となれば早くても2ヵ月や3ヵ月は先……になるはずなのだが。
もう既に収穫が出来てしまう程に野菜が育ってしまっているのだ。
……いやまぁ……原因は分かってるんだけどさ。分かっててもおかしいんだよねぇ……?
だが、育つのが早い事自体には理由が付けられる。と言うよりは……住人達のプロフィールから見つけた『掘り出し物』が異常な速度で野菜達が育っている原因なのだから。
「……【植物栽培】、中々チート系の異能かぁ?」
草薙……住人達の交渉役として私と話していた男性が持っていた異能の名称であり、その効果は単純。
周囲に存在している任意の植物の成長促進を行える、スローライフやサバイバルを行う上では必須級の異能だ。
確かに過去でもこれに似た異能を持っている人はどこの避難所でも重宝されていたし、何ならこの手の異能を持っている人を巡っての戦争をしていた場所もあった記憶がある。
故に、掘り出し物と喜んだ……のだが。どうにも記憶にあるそれらと効力が違い過ぎるのだ。
「A.S.S。プロフィール表示させて」
『了解。表示しました』
「ありがと。……うーん、やっぱり別の能力って訳でもないな……A.S.S、どういう事か分かる?」
『野菜の生育速度が速い原因についてですね。これには理由が3つ存在しています』
困った時のA.S.S。
拠点のベッドの上に寝転がりながら、私は頭の中に響く声に耳を傾けた。
「3つ?」
『1つ目は、柊様も認知している通り【植物栽培】の影響によるものです。この異能は植物に対象を限定している為に、他の成長スピードを増減させる汎用異能よりも効力が高いものとなっています』
「うん、大体私の知ってる知識の通りだね。あとは?」
『そちらについてはこちらをご覧ください』
A.S.Sがそう言うと同時、私の目の前には1枚のウィンドウが出現した。
そこに表示されていたのは、
「私のプロフィール?こんなの見なくたって……は?!」
見知った私のプロフィール。
今更見ても仕方ないと思いつつも、スクロールしていくと……そこには思わず身体を跳ね上げてしまう程に驚きの文字が羅列されていた。
「なんで私の持ってる異能の中に【植物栽培】があるわけ!?持ってなかったし、報酬で貰った覚えもないけど!?」
『それが2つ目の原因となります。理由としましては、住人システムの影響に依るものです』
「住人システムの影響……ってまさか……」
『考えられている通りだと思います。――住人が持つ異能は、領主である柊様にもコピーされ効力を発揮するようになるのです』
「こ、このチートシステムめ……!」
その言葉の通り、私のプロフィールの所持異能欄には【廻生】、【空間収納】の他にもう1つ……【植物栽培】が新たに表記されていたのだ。
だが、それではまだ理由が付かない点がある。
「で、でも!だからって流石に育ちすぎじゃない?種蒔きして数日で収穫できるようになるとかちょっと異常だよ?」
『いえ、異常ではありません。こちらをご覧ください』
更に私の目の前に1枚のウィンドウが出現した。元々【植物栽培】を持っていた草薙のプロフィールだ。だが、私が見た時とは違う部分が存在している。それは、
「【植物栽培】……レベル2?さっきまでこんなの無かったよね?!」
『
「あぁー……確かに似たような異能でも全く別物かってくらい効果が違う奴もあったけど……え、まさか」
「お分かりの様ですが、これが3つ目の理由となります」
慌てて自分のプロフィールを改めて確認してみれば、だ。
私の【植物栽培】のレベルは2を大きく越えた7と表記されていた。
「なんで7?!コピーされたなら2じゃないの!?」
『こちらについては、日々のタスクの達成によって徐々にレベルアップしていった結果ですね。これからはレベルアップする度に通知しますか?』
「うん、お願い!こういうのは知っておきたいっていうか、本当は最初っからこの一連の流れの奴知っておきたかったかな!!というか最近、拠点周りの木とか雑草とかが異常に増えてるのってこれの所為か……!!!」
あまりに興奮したからか、荒く肩で呼吸しつつ。
私は額に手を当てながらも、努めて冷静にA.S.Sへと質問する。
「……で、私レベルでどう効力が変わるのか理解出来てないんだけど、レベル7の【植物栽培】ってどれくらい凄いの?」
『任意範囲の植物全ての成長促進及び、品質や収穫数の向上などが主な効果となります。現状、農園で育てている野菜ならば……種蒔きから約5日程度で収穫が可能となるでしょう』
「分かりやすくコレの所為じゃんかぁ……!」
世界にゾンビウイルスが蔓延した結果、植物の生育辺りにも異変が出ているのかと一瞬考えた私が恥ずかしくなってくる。
ここまで全てが全て、自分に起因するモノによって野菜が元気に凄まじい速度で育っているだけなのだから。
「ん……?ちょっと待って?色々衝撃で吹っ飛んでたけど、これ住人が増えれば増える程、私に異能が増えていくって事だよね?」
『新たに住人にした人物が異能を持っている前提ではありますが、そうなります。現状、住人システムによる異能コピーの上限は存在していませんので』
「それって……領地増やして住人増やせば、1人軍隊出来ちゃうじゃん……!」
考えてみれば、このシステムは思った以上に有用なものだ。
今後どのような異能を持った人物を住人に出来るかは分からないものの、攻撃に転用できる異能をコピーする事が出来ればゾンビを狩るのが劇的に楽になる。
それ以外にも、今回の【植物栽培】の様な生活水準を上げられる異能をコピー出来れば……それだけでも生きやすくスローライフをおくる事が可能となるのだから。
……これ、考えてた以上に重要だね。領地と住人システム。
とりあえず近場だけ、と考えていたものの……少しばかり考え直した方が良いかもしれない。
生活に関しては申し分ない程度には物資等を確保出来ているものの、未だに戦闘面では不安が残っている。単に私の肉体的な性能と、持っている異能から来る不安ではあるのだが……それが解決出来る可能性があると知れただけ十分だ。
「よし、出来るだけ準備を万全にしてから早めに近場の土地を領地にしちゃおう。住人に出来そうな人が居たらある程度救う感じで……そうなってくると住居とかが足りなくなっちゃうのかな」
『連れて帰らず、領地内で生活してもらう……というのも可能です。その場合、各地で仕事をしてもらう必要がありますが』
「まぁその辺もこれから考えていこう。最悪、各地で建物壊して畑作ったって良いんだし」
今後の目標は、とりあえず戦闘系異能を手に入れる事。
それに伴って領地を増やし、住人の家や仕事等をどうするか考える事がサブの目標だろうか?
兎にも角にも、
「惰性でスローライフ、って感じにはならなさそうだね」
やる事が多いというのは良い事だ。