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Episode11 - 再会してみよう


 村に巨大なテントを設営し、その中に回復薬を染み込ませた包帯を幾つかと、痛み止め、清潔なベッドなどを用意した状態で待っていると。

 ドローンと共に、五十嵐達が村へと辿り着いた。

 彼らは先に村で待っていた私の事を警戒し、一瞬武装へと手を伸ばしたものの。五十嵐が何かを言ったのか、表面上は警戒していない様に振るまい始めた。

……とは言え、無理矢理襲われたらどうしようもない数ではあるんだよねー……。

 私が直接姿を見せるのは迂闊だったか、とは思いつつも。私は口を開き、


「五十嵐、久しぶりだね。元気してた?」

「お久しぶりです、柊先輩。……色々と話すよりも先に、三峰さんを」

「そうだね。早めに処置した方が良さそうだ。……こっちのテントに運んでもらえる?一応、新しめなベッドと簡易的だけど痛み止めとか用意したから」


 私の声に、一瞬だけ五十嵐は嬉しそうな表情を浮かべたものの。

 すぐに真剣な顔へと切り替え、最初に怪我をしている三峰の怪我の処置へと動き出した。

 ベッドの上に三峰を横たわらせ、着いてきた他メンバー達をテントの外に出し服を脱がせて患部を曝け出す。

……うわ、思ってたよりも酷いなコレは。

 ゾンビにでも噛まれたのだろうか。無理矢理包帯で止血されてはいるものの、腕の肉は抉れ今も少しずつ血が滲んできている状態。それ以外にも、所々痛々しい生傷から血が流れている始末。

 幸いにしてゾンビウイルスには疾患していないのか、ゾンビになる様子はないが……このまま放置していれば他の病気などに罹ってしまい、結果として死んでしまうだろう。


「改めて聴くよ?治療を開始して、もしも治らなかったとしても五十嵐は私の元に来る。これが条件……良いね?」

「はい、問題ありません」

「……素直だねぇ」

「良いんです。この人、見殺しにする程悪い人ではありませんしね」

「私が聞きたいのはそういうのじゃないんだけども……」


 薄く笑う彼女の顔を見て、軽く息を吐く。

 本性を知っている私と、あまり長い時を過ごしてこなかった彼女達では五十嵐の見え方は違うのだろうな……とは思いつつ。


「ま、良いか。……治療開始って言っても、まずはっと」


 無理矢理口元に痛み止めを持っていき、水の入ったペットボトルで飲み込ませていく。

 途中少しばかり咽せ込んでしまったものの。しっかりと痛み止めを飲んだことを確認してから、一度腕に巻かれている包帯を外し、


「五十嵐、腕の圧迫止血。清潔なタオルはそっちにあるから」

「了解しました」


 五十嵐がタオルを使って患部を押さえ、血が出るのを出来る限り抑えている間に回復薬の染み込んだ包帯を上から巻き直していく。

……うわ、なにこれすっご。絶対危ない薬品か何かじゃん。

 その包帯が触れた瞬間、目に見える速度で身体中の生傷が塞がっていく様子が目にとれた。

 それを見た五十嵐が目を見開いているものの、私はそのまま処置を続行していく。

 変に私まで驚いている事が悟られてしまうと、流石に色々と説明し辛い状況になってしまうからだ。


「……よし、患部全体に包帯は巻けたね……後は……造血剤か」


 ポイントを交換して手に入れた全体が赤色の丸く小さな錠剤2つ。

 通常の造血剤と呼ばれる薬品とどう違うのかは分からないが、説明には『失った血液を生成する力を増幅させる』と書かれていた為、恐らくは問題ないだろう。多分。

 先程痛み止めを飲ませた時のように、窒息しないよう無理矢理飲ませた後、私は大きく息を吐いた。


「ふぅー……とりあえず処置はこれで終わりっと。おぉーい、ちょっと良いかな?」


 外に居るメンバーに声をかけると、中に居るのが女性だけだからなのか1人の女性メンバーだけがこちらへと訝し気な表情を浮かべながら顔を覗かせた。


「治療は終わったよ。とりあえず包帯と薬はまだまだあるから、目が覚めて動けるようになるまでは絶対安静にしてもらって。それまでここに滞在してもらって構わないから。他の人達にも伝えてきてもらってもいい?」

「……分かりました」


 私のその言葉に、女性は渋々と言った表情を浮かべつつも外の他のメンバーへと伝える為に再度外へと向き直った。

 中に三峰を含め、取り残された私と五十嵐の間に少しだけ気まずい空気が、


「柊先輩!柊先輩!柊先ぱぁい!どこ行ってたんですか!?私もう心配で心配で!携帯にも繋がらないし、家行っても家具すらないし!柊先輩の御家族はいつも通りに知らないとか逃げたとか言ってて超ムカつくしで本当に心配だったんですからね!?」

「あ、あぁー……うん、そうだね。ごめんごめん。ほら、一応怪我人の前だから静かにね」


 流れなかった。

 これが五十嵐雨音の本性であり、先程までのクールぶった性格は周りに他の人が居る時限定の仮面のようなもの。本来の彼女はほぼ人懐っこい大型犬とそう変わらない。

……行動力がある分、犬よりも厄介ではあるんだけど……そう、行動力があるからなぁー……。

 激しく揺れる犬の尻尾が幻視出来るものの、一度ゆっくりと深呼吸をさせ落ち着かせた上で。


「で、ちょっと色々聞きたい事があるから、この後私の拠点に着いてきてもらっていい?」

「了解です!問題ないです!」

「うん、元気だね本当に……」


 意識のない三峰の様子を見ながら、外へと行った女性が戻ってくるのを待っていると。

 ある程度話終わったのか、こちらへと顔を出して外へと手招きしてきた。

 五十嵐と顔を見合わせた後、少しだけ警戒しながらテントの外へと出てみると……そこには何故か一列に整列している他のメンバーが私へと向かって頭を一斉に下げ、


「三峰さんに処置をして下さりありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」

「いや、礼を言われる程の事はしてないよ。……それに、別に無償って訳じゃなかったしね」

「分かっています。ので、これ以上施しを受けるつもりはありません」

「……と、言うと?」


 流れが変わったな、と思いつつ。私は彼らが何を言おうとしているのか、大体予測がついていた。

 この状況で、力を持っていると思っている人が言う事はある程度決まっている。それは、


「三峰さんが目を覚ますまで、ここで生活をさせて頂きますが……その間、貴女の用意したテントは三峰さん以外使いません。もしも食糧等の物資の提供を予定されていたとしても、そちらもお断りさせて頂きたい」

「理由は?」

「単純に、我々は貴女を信用し切れない。五十嵐さんは貴女と知り合いだから信用出来るかもしれないが、それは我々には関係が無いし……これ以上、何かを受け取ってしまい、後から何かを要求されても我々にはそれを支払える程の物資を持っていないからです」

「……うん、妥当だね」


 リーダーらしき三峰が絶対安静、動けない状況下で下した判断としては十分すぎるくらい真っ当だ。

 とはいえ、私も私で無償でこの村の土地を貸し出す事は出来ない。

 元よりこの村の土地を使って、農地の拡大や家畜小屋を新たに建築しようと考えていたのだから。

 故に、


「じゃあこうしよう。場所代として、私がここでやろうと思ってた事を君達にやってもらう。期間は三峰さん?が動けるようになるまで。どうだい?」

「場所代、ですか」

「うん。何も無償で場所を貸してもらえるとは思っていなかったでしょう?五十嵐の件は彼女を治療する所までで終わってるんだ。それ以降はまた別の案件、って訳だね」

「……そうですね。確かにそう言われてしまったら道理だ、としか言いようがない」


 彼らの内の1人が前へと進み出て、こちらへと手を差し出してくる。

 その姿に一瞬だけ警戒を強めたものの、視界の隅で五十嵐が軽く頷いたのが見え……息を吐く。


「うん、それじゃあ明日から色々やってもらうからよろしくね。……本当に食糧とかは要らない?」

「はい。遠出用の圧縮ビスケット等が残っているので」

「そう。それならこれ以上はとやかく言わないよ。ただ、もしも他の食糧が食べたくなったら言ってくれて構わないから」


 そう言って、私は手を握り返す。

 こうして、期間限定の労働力と……少しだけ困った本性を持つかつての後輩を手に入れる事が出来た。

 ある程度は私の考えた通りに物事が進んでくれているものの、今後どうなるかはまだ分からない為に出来る限り警戒や監視はしておくべきだろ

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