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第3章 新たな視点を

Episode1 - 学習してみよう


 領地の拡大や、それに伴った住民の加入。

 そして、前世今世共に部下として共に働いていた五十嵐との再会を経て、今。

 私はと言えば、


「ぁ゛あ゛ー……やっぱり仕事なんてしないに限る……」


 ベッドの上で全力で寛いでいた。

 いや、言い訳をさせてもらおう。勿論、領地を運営するにあたっての業務……資材を円滑に増産し消費するラインを整えたり、住民達の業務割り振りについて五十嵐やA.S.Sと話し合ったり等は行っていたのだ。

 だが、その上で私しか出来ない仕事……例えば、A.S.Sのシステム的な機能が必要となる領地の拡大や、未だ誰にも明かしてはいない【植物栽培】の使い道の模索等を行っていると……自分個人で使える時間というものがほぼ無い事に気が付いてしまったのだ。


「だから、休んでいる、と」

「そうそう。五十嵐にも会社員時代に教えたでしょう?休める時に休んで、気力を補えって」

「確かに教えてもらいましたけど……まぁ、休む事は本当に大事ではあるので、何も言いませんが」

「む、何か言いたそうな言い方。……もしかして本当に何かあった?」


 私は周囲にA.S.Sのシステムによる領地内の情報をウィンドウで表示させながら、ベッドから起き上がり五十嵐の方へと向き直る。

 以前、無理矢理に着せたメイド服が気に入ったのか、ほぼ私服の様に着回している彼女は今日も今日とてメイド姿だった。


「いえ、暇なら私の異能の訓練を手伝ってくれないかな、と思いまして。可愛い後輩のお願いってヤツです」

「似合ってないよ。……訓練の意味は分かるけど……もう十分強いでしょ?前に私が見せた戦い方だけでもそこらのゾンビぐらいなら1発じゃん」

「力を付けておく事は悪い事じゃありませんから」

「向上心あるねぇー……」

「か弱い系女子はこの世の中じゃ生きられないので」


 何やらちょくちょくとチョケてきているものの。彼女の言う事も分からなくはない。

 この終末世界では、力こそが全て。弱肉強食の世界であり、私よりも遥かに強い存在も世の中には居る……はずなのだ。

……それに、まだ私も3級以上には勝てるとは言い難いしね。……丁度良いかな。

 1、2級までの、今まで遭遇したゾンビはまだ良い。あれらは身体能力こそ厄介ではあるが、それだけなのだから。

 しかしながら、3級以上ともなれば話は変わる。単純な身体能力はそうだが……それだけではない、不確定要素が加わってくるのだから。


「そう言えば、避難所にいた時に変なゾンビの話とか聞いた覚えある?」

「変なゾンビですか?……いえ、特には無いですね。群れなんかは度々目撃報告を受けては三峰さんが討伐していたので」

「成程ね……よし、やろっか、訓練」

「えっ……良いんですか!?」


 私と訓練出来るのが嬉しいのか、すぐに動きやすい格好へと着替える為に走り出す彼女の背中を視線で追いながら、3級以上のゾンビについての思考を巡らせていく。

……今の私なら……いや、慢心はしない方が良いよね。

 今世の私は、A.S.Sのサポートもあり複数の異能や物資から、戦力的には高い筈。だが、その私をもってしても……現状3級に真正面から挑んだら勝率は五分あるかどうかと言ったところだ。

 無論、この知識は前世準拠であって今世でも通用するかと言われると……考慮程度にしておいた方が良いかもしれないが。


「よし、私も向かおうかな」


 兎に角。

 鍛える事自体は悪い事ではない。領地の拡大を狙うにも、防衛を行うにも自力は必要となるし、今後もし3級以上と戦う場面があったとして。鍛えた身体能力や異能の使い方は無駄にはならないのだから。



―――――



「ほら、そこ甘い!」

「くッ……!」


 私の水を纏った回し蹴りに、対応出来ず五十嵐が防御姿勢をとりながら吹き飛ばされていく。

 それを見た私は、一度力を抜き訓練終了を告げた。


「終わり終わり。ちょっと整理しよっか。五十嵐も、それに私も確認したい事があるし」

「先輩もですか?」


 訓練終了後こちらへと寄ってきた五十嵐に対し、私は一度息を吐き、


「とりあえず、貴女は自分の異能の使い方を分かってるかどうかを確認しないといけないかもね」

「自分の異能の使い方、ですか……」

「そうそう、とは言っても私もそこまで出来るわけじゃないけどさ」


 軽くその場で飛び跳ねて見せる。

 それだけでも、かなりの高さまで自身の身体が持ち上げられている事が分かる。

 理由は単純だ。五十嵐に言った通り、異能の使い方にある。


「人間の身体の、半分以上を占めるのは何か知ってる?」

「……水分です」

「それじゃあ、貴女の異能は何を操るの?」

「……水を…….ってまさか?」

「そのまさかさ」


 異能【液体操作】。

 これの真価は、ただただ空気中から水を得る事ではない。操れる水分量が少なかろうが、それが水分であるならば……自身の身体の中の水分すら操れるのだから。


「こうして、同じ様な異能で身体の中の水分を異能で操って……所謂、ブースターみたいな役割をさせてやれば。私達は、普通の人より効率的に身体を使えるんだけど……無理かな」

「難、しいですね……!」


 五十嵐は、私の動き、そして異能の働き方を見て自身の身体で再現しようと試みているものの。

 上手くはいっていないようで、逆に同じ様に【液体操作】を使う私に良い様にされてしまっている。

 これに関しては、異能に関する知識が特殊な事情によって彼女よりも深いが故である為ではあるが……それにしたとしても、ただ子供を痛ぶっているようにしか見えないのが問題だった。


「うーん!やめやめ!一旦座学しよう!身体で覚えるとかちょっと前時代的すぎた!」

「は、はい……!」


 近くに彼女を呼んで軽く感覚などを教えていく。

 何なら、一度目を瞑らせて。彼女の身体に手を置く事で彼女の体内の水を操り、疑似的にどういう感覚なのかを体感させていけば、


「こ、こう……ですかね?」

「ん、良い感じ良い感じ。じゃあ一回その場で跳んでみ?」

「はい……きゃぁ?!」

「おぉー跳んだねぇー……いいね、それが身体強化の基本だよ。今はちょっとやり過ぎで思ったよりも跳んだかもだけど、訓練次第で調整出来るから」

「いつも言ってますけど!こういうのは早く言ってください!本当に!」


 軽くその場で跳びはねただけで、訓練場の天井に頭をぶつけてしまっている。

 教えたのは私だが、制御はまだ覚束ないものの……すぐに感覚を掴み、応用的な使い方が出来るようになっているだけでも五十嵐が優秀である事は分かるだろう。

 その出来に、私は満足し軽く頷くと。


「流石に慣れてない状態で組手とかやるとどっちも怪我しそうだから、今日は一旦ここまでね。個人練習はしても良いけど、私かリン辺りが近くに居る時だけにする事」

「柊先輩は兎も角……リンちゃんもですか?」

「うん。あの子普通に頭良いからね。ここで他のわんこ達の訓練を見てる事もあって、割と止め時とか見極めるの上手いんだ。それに私を呼ぶ事も出来る」

「な、成程……」


 近くに居たリンがドヤ顔の様な表情を浮かべているのを見て、軽く頭を撫でつつも。

 私は今後の計画を頭の中で立てていく。と言っても、だ。

 結局やる事は今までと大きく変わる事は無い。それこそ、A.S.Sには新しいタスクは出現していない為に、暫くは領地の拡大を目標に動く事になりそうだし……他にも。

 今まではあまり手を付けていなかった、サブ的に発生しているタスクなんかを片づけていく期間となるだろう。


「よし、じゃあ私はとりあえず今日はもう休むから、五十嵐も休むように。ちゃんと身体を休めて……訓練に関しては、また明日やろう。身体強化以外だったら、自分の部屋で軽く使ってみてもいいからさ」

「あっ、はい!お疲れ様です!」

「ふふ、お疲れ様。ほら、いくよリン」

「わふ!」


 さて、とりあえず明日から……何を最初に片づけていこうか。

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