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Episode2 - 達成してみよう


 A.S.Sには、サブタスクという概念が存在している。

 と言っても、ここに関しては私があまり触れてきていなかった為にしっかりとした概要を理解しているとは言い難いのだが。

 デイリータスクのように、毎日決まったタスクが追加され微量のポイントを稼げる訳ではなく。

 例えば、『領地を拡大せよ』のような私の生活などに直接関わってくるようなタスクにくっつく形で出現、報酬も特殊なモノが(見ている限りは)多い。


「……って事で!今日は定期的にやってるゾンビの討伐、大規模編!」

「わぁー、ぱちぱち!」

「わふ!」


 そんなサブタスクを達成しようと考えたものの、狙って出来るタスクは少ない。……と言うよりは、難しいものが多いのだ。

 例えば、【【空間収納】内に新たに20キロの物資を収納する】というサブタスクが実際に出現しているのだが……これがまた曲者だ。

 単純に物資となるのならば何でもいいかと思えばそうではない。タスクの説明を読んでみると、そこにはちゃんと『食糧品、娯楽品に限る』なんて文言が書かれていたりするのだ。憤慨モノだろう。

 だが、これに関しては正直、水をペットボトルに詰めて収納していれば達成値が上昇していくのを確認出来た為、時間を掛ければクリア出来るのが分かっているだけ良い。問題は他だ。


「今回の目標は、2級ゾンビ。私達が拠点にしてるこの山でも結構見る頻度が増えてきてる奴だね」

「1級なら私も簡単に倒せますけど、2級ですか……」

「一応うちのわんこ達は2級1体なら大体3匹チームで挑めば無傷で倒せるから、余りの1匹と五十嵐が組んで戦う感じにはなるかな。とは言え、流石に不安だから私も付くけどね」


 今回達成を目指すのは、デイリータスクを何度も達成していたからか出現したサブタスク【ゾンビを討伐せよ】。こちらも収納タスクと同様に前々から出現していたのだが……中々達成出来ていなかった。

 理由は簡単。このサブタスクは討伐するゾンビを2級以上と定めているのだ。

 それを10体も私が倒さねば達成判定にならないのだから……中々に面倒臭い。

……でも、だからこそなのかな。報酬自体は破格なんだよねぇ。

 このタスクをクリアするだけで10000ポイントもの交換可能ポイントが手に入るのだから、やらない手はない。

 それに加え、何やら『ポイント交換システムの簡易アップデート』なんて文言もあるのだ。これまで放置していたのが恥ずかしくなるくらいには得しかないのだ。


「じゃあ捜索開始!基本はいつも通りに、危険だと思ったら全力で逃げる事!」

『ワン!』

「はい!」


 そう言うと同時、わんこ達はそれぞれ組んだ子達と一緒になって山の中を駆けていく。

 それを見送ってから、私達も動き出す。今回私と五十嵐についてくるのはアインス。経験値はわんこ達の中で1番多く、何より普段は指揮を担当している事から状況判断も上手い。

 あまりわんことの連携をした事が無い五十嵐と組むとなれば、この子以上の子はいないだろう。


「さて、と。アインス誘導頼めるかな?」

「ワン!」

「よし、じゃあ基本私は見てるから、アインスと協力してゾンビを倒してみて。危なかったら普通に助けに入るから」


 その言葉に、五十嵐は何やら神妙な表情で頷くものの。

 そんな真剣になる事もないのだ。アインスは本当に危ない相手に誘導しないだろうし、多少危なければ私が多少本気で狩りに行けば、2級までならば十分余裕をもって倒す事が出来るのだから。

……身体強化を使いこなせれば、普通に五十嵐1人でも2級ゾンビは倒せるはずだしね。

 私と五十嵐の元々の身体能力に大きく差は無い。というのも、彼女も彼女で私に着いてくる為にある程度は鍛えているのだから。

 そこに異能による強化が加われば……結果は言わずもがな。恐らくは廃村で避難所の隊員達に見せた事の繰り返しにはなるはずだ。


「ワンワンッ」

「お、あれかな。……うん、2級。ほら、五十嵐頑張ってみて」

「は、はいっ!」


 暫く山の中を進んでいくと、少し離れた前方に2級ゾンビが居るのを発見出来た。

 向こう側も既にこちらに気が付いているらしく、襲い掛かってくる為に動き出しているのが見えている。

 その動きを止める為だろう。私達を先導していたアインスがゾンビの気を引くように吠えながら、大きく円を描くようにして背中側へと回り込む。

 その姿に自分が何をすべきなのかを悟ったのか、五十嵐がハッとした表情を浮かべながらも動き出す。

……うん、出力は安定してないみたいだけど……ちゃんと身体強化が使えてるね。

 その動きは普通の大人よりも速く。そして力強いものだ。

 アインスを追う様にして振り向いたゾンビの背中へと一瞬で近づき、勢いをそのままに五十嵐は回し蹴りを放つ。だが、それで終わりではない。

 頭部に足が命中すると同時、その勢いを殺さないよう足に体重を掛ける事でゾンビの身体を横へと倒していき……完全に倒れかけた所で、コップ1杯分の水を生み出して相手の呼吸器を塞いでいく。


「うわ、えげつな」


 ゾンビに効くかは置いておいて。

 普通の人間はコップ1杯の水があれば溺死出来る程に脆弱だ。それを意図的に引き起こす事が出来る【液体操作】という能力はそれなりに殺意が高く、応用次第では如何様にも扱える事を目の前の戦闘で示している。

……この辺りかな。流石にタスクの達成数は稼ぎたいし。

 五十嵐とアインスの戦い方を見ているのは良いが、それでは私のサブタスクは進行しない。

 故に、私はこの辺りで五十嵐が呼吸器を塞ぐのに使っている水に【液体操作】で軽く干渉し。

 そのまま鼻の穴から脳へと微量の水を侵入させ……内部を滅茶苦茶に破壊する。その所為だろう。五十嵐に抵抗しようと身体を暴れさせようとしていたゾンビは、一度不自然に身体を震わせた後に動かなくなる。


【2級ゾンビを討伐しました:100ポイント獲得】


 A.S.Sのポイント獲得ログが表示された為に、これで本当に戦闘終了だろう。

 とは言え、戦いが終わったかどうかなんて分からない五十嵐はまだ追撃をしようとしている為、一度手を止めさせる。


「よし、終わったねぇ。お疲れ、五十嵐」

「えっ、終わった……んですか?まだまともな攻撃なんてしてませんよ……?」

「いや、十分まともな一撃入ってたよ。普通の人だったらあの蹴りだけで首の骨折れてるんだから」

「それは……確かにそうですけど……」

「身体強化も普通に出来てたし、言う事があるとしたら……そうだね。まだ身体強化の強化率にムラがあるから、そこを均等に出来るように意識しようか。その後の戦い方に関しては言う事なし」


 私の言葉に少しばかり違和感を覚えているようだったが、褒められた事が嬉しかったのだろう。

 素直に喜び、笑みを見せた彼女に頷きつつ。

 こちらへと近寄ってきたアインスの事も軽く撫で、ポケットの中から出す様にしながら【空間収納】内から1つ犬用のお菓子を取り出し食べさせてやる。


「よし、この調子で沢山倒していこうか。五十嵐の目標は……出来れば今日で、身体強化がムラなく発動できるようになる事ね」

「は、はい!」

「アインスは先導して気を惹いた後に油断しない事。今の戦闘とか、ちょっと任せて見てたでしょ。駄目だよ」

「ワン!」


 こうして、私達はまだまだ山の中へと進んでいく。

 表向きは訓練として、裏向きには……私個人の欲求を満たす為に。

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