翌日。
極度の集中と、自身の今出来る限界の肉体稼動をした所為なのか全身が痛む中。私はベッドの上で胡坐を掻きながら、戦闘やここ最近で消費した【空間収納】の内容物を確認、メモしていたのだが。
必要な事をしているにも関わらず、そわそわする気持ちが抑えきれなかった。
というのも、
「気になる、よねぇ」
今回、私が過去の経験から来る恐れを推してまで3級ゾンビに挑む理由となったタスク【3級ゾンビを討伐せよ】。
その場では疲れや、ゾンビ達が寄ってくる可能性もあった為に確認していなかったが……こうして安全地帯に居る今であれば問題無いだろう。
もしも危険なモノだったとしても、最悪死にさえしなければA.S.S産の薬でどうにでもなるだろうとも考えている。
「A.S.S、お願いして良い?」
『畏まりました。――今回のタスク【3級ゾンビを討伐せよ】の報酬はこちらとなります』
A.S.Sの声と共に、私の目の前には1つの機械の様なものが出現した。
過去……それこそ、小学生や中学生などの義務教育課程時代。理科の授業で見た顕微鏡の様な見た目をしたモノが出現した。
……何だろうこれ?見た目だけ見れば顕微鏡なんだけど……そうじゃないんだよね。
顕微鏡の様に、覗き込む為の接眼レンズは無く。勿論の事対物レンズも存在しない。
代わりに存在しているのは、何かを入れられそうな穴の開いている筒と中に入れたモノを受け止める為にあるであろうステージの様なものだ。
「説明ヨロシク」
『承りました。これは小型の『抽出装置』で御座います。今まで手に入れてきた、ゾンビのクリスタル核。それらをこの投入口に入れる事で、装置内部で精製を行い……摂取する事で異能の力を強める事が出来る薬品に変化させる事が出来ます』
「なる……ほど?いや、待って?力を強めるって言った?」
『はい。精製液を飲む事で、素材として使ったクリスタル核と親和性のある異能の力が強まります。但し、精製液は3級以上のゾンビから取れたモノでしか作れず、それ以下のゾンビのクリスタル核では現状精製自体が上手くいきませんのでご注意を』
「……十分過ぎる……!」
A.S.Sの説明と共に、私の目の前に1枚のウィンドウが出現する。
私の手元に存在する抽出装置の図解の様なモノであり、何処にどう投入して何処に出てくるのかが動画で記されていた。
……身体能力が上がる、ってのは魅力的なんだけどさ!それよりも!
異能の力が強まる、という事はだ。
勝手に、A.S.Sのシステムで強化されていた私の異能の能力とは違い。どうやって訓練して強化してやるべきか悩んでいた五十嵐の異能の強化も出来るのではないだろうか?
「とはいえ、だね。一回作ってみない事には分からないか」
そう言って、私は【空間収納】の中から3級ゾンビのクリスタル核……内部に液体が入っているように見えるソレを取り出して。試しに投入口の中へと入れてみれば、
【精製を開始しますか?】
「おっと、流石にちゃんと確認出るのね。オーケーオーケー」
突然目の前に出てきた是否を問う小さなウィンドウに軽く承諾してみれば。
ゲームチックなポップな音楽が流れ始めると共に、少しだけ抽出装置全体が震えると共に。ステージの部分にコルクの栓が付いた試験管に入った水色の精製液が出現した。
薄く輝いているように見えるそれを薄く部屋の中の証明に透かしてみれば、まるでラメの様な何かが入っている事が分かった。
「これを飲めばいいんだよね?」
『そうなります』
「了解っと」
試験管の栓を抜き、その小気味いい音を聴き流しながらまずは一口程度呷ってみる。すると、だ。
身体の内側の何かが蠢くような感覚と共に、
「これは……ちょっと凄いね。今の世界だったら誰もが欲しがるでしょ、これ」
【液体操作】、その能力が向上しているのが感覚的に分かった。
これまで意識しなければ感じる事すら出来なかった空気中の水分から、身体の中の更に奥……内臓部へと行き渡る血液の流れ等を意識せずとも感じる事が出来る。
試しに軽く……以前であれば、コップ一杯分程度の水を発生させるくらいの力加減で異能を行使してみれば。
「うわっ、ちょっとやめやめ!散って!」
なんとバスケットボール大の水球を発生させる事が出来てしまった。
……オーバーパワーって言えばそうだけど、これは戦力の追加増強に使える……!
一口飲んだだけでそれなのだ。少しだけテンションが上がってしまった私はそのまま、一口二口と飲んでいき……残りが大体元の2割程度まで減った所で飲む手を止めた。
同じ異能を持つ私が軽く飲んだだけでこれなのだ。五十嵐に飲ませれば……今の異能の出力が低く、悩んでいる彼女でも制御能力然り出力然りが強くなる事は間違いない。
「水にでも溶かして飲ませてみようかな、とりあえず」
身内が強くなるというのは歓迎するべき事だ。
今回のように、私が独りで3級以上のゾンビと戦う必要もなくなるし……他にもメリットはあるだろう。
……ま、それ以上に……五十嵐が最近悩んでた事が解決しそうだしね。
私が3級ゾンビと戦う前から、それこそ少し前に共に訓練をした時から。彼女は自身の実力不足を悩んでいるように私には見えていた。
それもそうだろう。元々居た避難所ではどうだったかは分からないが、ここでは私は例外にしてもリンを含めた犬達にすら戦闘経験で劣り、制圧力も劣っているのだから。
役に立てると、特別な力があると思っていたであろう彼女にはその現実は辛かった筈だ。だからこそ、似たような異能を持つ私を頼るように訓練に誘ってきたりしたのだろうし……結果として、戦闘に連れていける程ではなかったが、以前よりも良い動きが出来るようにはなっていた。
「お節介みたいであんまりやりたくないけど……ま、後輩の為だからね」
軽く笑みを零しつつ。
痛む身体を強化された【液体操作】を使って強化しつつベッドから立ち上がると。
私の為に何か作業をしているであろう後輩の元へと行くために、部屋を後にした。