3級ゾンビと戦い、その戦果を確かめてから数日。
拠点が置かれている山を中心に、周囲の住宅地の領地化及び整備が完了した。
と言っても、整備に関してはそこまで過剰に再開発!なんて事はしていない。ゴミ掃除や、ゾンビの影響で壊れた建築物の瓦礫などを片づける程度の整備だ。
……でも、それだけでも十分なんだよね。
現状、山以外の領地化した住宅地には他の人の姿はパッと見では見当たらず。時折入ってくるゾンビに関しても、巡回用にとA.S.Sのシステムで交換した警備ドローンによって報告、その都度討伐するという流れが出来ている。
「ま、実際にきちんと確認した訳じゃないから……隠れてたりはしそうだよねぇ……」
この辺りの確認作業は、流石に私1人では手に負えないタスク量である為にドローンを使って簡単に行っている。
その為、どうしても細かい所……家の中などを確認する事までは出来てないのだ。
……住人を増やしたい所だし、ここらでそろそろ私も出ますかねー。拠点内で私がやる事も……もうほぼ無いし、
拠点周りの施設は、もう私の手を離れても動くようにはなっている。
元より無限資源となっているエネルギー系統を除く、食糧生産の要である農場。こちらは既に住人であり異能【植物栽培】のオリジナルを持つ草薙だけでも十分な量の収穫が見込める規模にまで拡大させる事が出来た。
私の方はと言えば、拠点内の【植物栽培】調査用の個人農場にて様々な野菜や果物を育てる事で色々とエンジョイする事が出来ている。やはり、人生ストレス無く生きるには衣食住のどれかが欠けてはいけないという事なのだろう。
「よし、五十嵐ー!ちょっとリンとわんこ達と一緒に近くの散策行くから!」
「はーい!私は大丈夫ですか?」
「大丈夫ー!私が居ない間、拠点の事よろしくねー!」
「畏まりましたー!」
これで良し。
この前の3級ゾンビとの戦闘以降、私が無言で何処かへと行こうとすると五十嵐は着いてこようとするか、無理にでも何処へ行くのか聞き出そうとしてくるようになってしまった。
正直、あの時は私が自身の服装などを気にせずに戻ったのが悪かったのだが……子供の様な扱いをされてしまうのは予想外だった。
「さて……願わくば、新規住人。それか……3級ゾンビの発見かな!」
「わん?」
「ん、見つけておくだけでも、後で……それこそ、皆が寝静まった後とかに戦いに行けるからね。何処に何が居るって理解しておく事も重要なんだよ」
簡単に、戦闘を目的としていない為かなりの軽装だけで拠点から出て山を下りていく。
目指すのは……とりあえず、最初に住人とした5人の居た住宅地。最初に訪れた場所であり、今まで色々な事があった中、ずっとドローンによって巡回はしていたものの。やはり、長い事自分の目で現地を確かめていないため、何かカメラ越しでは分からない変化が起きていてもおかしくは無い場所だ。
……ま、最悪……リン達抱えて全力で逃げれば良いからね。
今回連れていくのはリンに加え、アインス、ゼックスの2頭。
私の指示を良く聞けると共に、頭の良さもわんこ達の中では良い方である為、不足の事態に陥った時でも行動出来るだろうという人選……否、犬選だ。
最悪は考えているものの。全く何もない可能性があるのだから、気楽に探索しに行こう。
―――――
「うーん、これじゃ本当にただの散歩になっちゃうな」
住宅地に着き、適当に散策する事暫し。
正直、成果は芳しくは無かった。というのも、普段からドローンで巡回している影響もあってか道端にゴミ等が落ちている事もなく。
ゾンビもゾンビで、以前遭遇したようなレギオンを発見する事も出来なかった。
……安全なのは何よりなんだけど……こう、ちょっと物足りなさは感じちゃうよね。
最近、色々と濃い出来事が連続していた為か。最初に今世で出会った時は慄いてしまっていたゾンビに出会った所で、ちょっと虫が出たくらいのリアクションしか取れなくなってしまっている。
「わんわん!」
「どしたのリン?何かあった?」
「わふ!」
と、半ば散歩の様な気持ちでリン達を自由に住宅地の中で走らせていると。
何かを発見したのか、リンが慌てたように駆けて戻ってきた。
……1、2級ゾンビ程度ならリン達が慌てる必要もない。それ以上?でもその割に他の2匹が戻ってきてないって事は……?
リン達では解決できないものの、その場から離れる事も出来ない何かしらの事件か事態が発生した。
そう考えるべきだろう。
リンに促されるまま、駆けていく方向へと向かってみると、
「……あぁー……成程。確かにこりゃリン達じゃあどうしようも出来ないわ」
そこには、一軒家の庭に植えられた茂みに隠れるようにして眠る1人の女の子が眠っていた。
何処かの高校らしき制服と、その上に羽織ったグレー色のパーカー。そして何故持っているのかは分からないが、ギターケースらしきものを持っているその子は、私が近付いてきた音で目が覚めたのか、すぐさま飛び上がるようにして身体を起こす。
「なっ、なんだ!?また変な奴らか!?」
「えっと、落ち着いてもらっていいかな?」
「は、はぁ?!落ち着けるかよっての!そう言ってた奴が突然周りの人達襲い始めたんだぞ!」
「……あぁー……」
どうやら、すぐ近くで人がゾンビに変わるのを見たようで。素早くギターケースから金属バットを取り出し、警戒した様にこちらへと向け始めた。
……んー、怪しくないかそうじゃないかって言われると……まぁ、怪しい寄りか、私。
ちょっとそこらに散歩でも行ってくる、とでも言いそうなラフな格好に、3頭の犬を連れた成人女性。
普通の、それこそ終末世界になる前であったならば休日にたまーに見る近所の人、くらいで通せただろうが……今、そんな余裕に満ち溢れた状態の女性なんて警戒してもおかしくはないだろう。
「……とりあえず。君?こっちは武器も持ってないし、健康そのもの。というか、周りの人を襲うような人が犬3頭も連れてないでしょ、今」
「……それは、そうだけど……」
「ただ君と話がしたいっていうか……多分、そのままだと色々危険でしょう?だから、少しでも安全な所に行こ――」
う、と続けようとした所で。
静かな住宅地の中に、空腹を報せる腹の音が響き渡った。当然、食糧なんて腐る程ある私の腹から鳴ったモノではない。
目の前でぷるぷると震えながら、みるみるうちに顔が赤くなっていく女子高生のモノだ。
「君もお腹空いてるっぽいからさ。……えぇーっと、ほら、あったあった。ビスケット。食べる?」
私はポケットの中に手を突っ込み探すフリをして、【空間収納】から個包装のビスケットを1枚取り出し彼女に差し出した。
彼女は少しだけ身じろいだものの、空腹には勝てなかったのかそれを勢いよく取り食べ始める。
その姿に、何処か拾ってきたわんこ達の当時の姿を思い出しつつ。
「ほら、着いてきてくれたら他にも食糧渡せるから。少しだけお話聞かせてもらっても良いかな?」
「……少しだけだからな」
「うん、それでいいよ。じゃあ行こうか」
空腹に負けた自分が恥ずかしいのか、パーカーのフード部分で顔を隠しながらも私の後ろに着いてくる姿に笑みが零れてしまいながらも。
私は一度、彼女を廃村……今では、先に住人になった人達の居住エリアとなっている場所へと連れていく事にした。
彼女がどういう選択をするにしても、似たような境遇の人達が近くに居た方が色々と安心出来るだろうと考えたからだ。
……さて、ちょっと五十嵐に聞かないといけない事が増えたな。
正直、拠点や山の外の事情に関して言えば、私よりも五十嵐の方が絶対的に詳しいだろう。
今まで特に興味は無かったが……そろそろ、知識として知っておくべきなのかもしれない。今の外がどのような状況なのか。私が知る