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Episode4 - ルールの整備をしてみよう


「よっし、住人数10人超えたよね?」

『超えましたね。【住人の数を一定数以上にせよ】の達成を確認しました。報酬は?』

「ん、今受け取っちゃおう。周りに五十嵐とかが居る訳でもないし」


 拠点内で自室として使っている部屋の中、ベッドの上で胡坐を掻きながら。

 私は達成を目指していたタスク【住人の数を一定数以上にせよ】の報酬を受け取ろうとしていた。

……これもこれで、抽出装置とかと同じで報酬が不明だったんだよね。

 いつかはクリアできるであろうと考えていたものの、今まで報酬が不明だったり、A.S.Sのアップデートだったりするモノは確実に私の能力に影響を与えてきていた。

 それと同じで、今回もソレを期待していた……のだが。


「えぇーっと……A.S.S。説明頼める?」


 私の目の前に出現したのは、1つのタブレットだった。

 某リンゴのモノではなく、ただ液晶が付いた板の様な形状の簡素なモノ。だが、タスクによって得たモノだ。ただの市販のタブレットという訳ではないだろう。

 というか、ただのタブレットだったら多分探せばポイント交換から手に入れる事が出来るだろうし。


『畏まりました。こちらは『Resident Point Trader』……RPTと呼ばれるもので、住人達が行った行動によってポイントが加算、それを使って物資を交換出来るようになるという装置、システムです』

「ん、んんー……成程?でも私はもうA.S.Sでポイント交換システム使ってるよね?」

『はい。ですからコレは住人達向けの報酬となります』


 A.S.Sのその言葉に、私はついしかめっ面を浮かべてしまう。

 当然だろう。これをそのまま提供してしまえば、私の秘密でもあるA.S.Sの事が間接的に皆へと広まってしまうのだから。

……でも、コレはコレで客寄せにも、元々居た人たちの幸福度上昇にも繋がる……どうにか使えるように考えたいな。

 このRPTというモノは普通の人からすれば確実に便利だ。ポイントを通貨に、かつてのコンビニ等の様に欲しいモノを欲しい時に手に入れる事が出来るのだから。


「A.S.S、これ私には得があんまり無い様に感じるんだけどさ。何か恩恵あったりする?」

『あります。住人が得たポイントが柊様に譲渡された場合、柊様は従来のポイント交換システムにそのポイントを転用する事が可能です』

「あぁー成程……今までデイリータスクとかで細々稼いでたのが、やり方次第である程度の量がまとまって入ってくるようになる、と……」


 魅力的ではあるだろう。

 少なくとも、今まで微々たる量だったポイント回収量がある程度跳ね上がると考えれば……それなりにやる意味はあると思う。

……どうするべきかな。

 A.S.Sが気を利かせたのか、住人がポイントを獲得する方法とそれによって手に入るポイント量の表を出現させる。

 普段からしてくれている農業や、建築作業に加え、ゾンビの討伐でもポイントが獲得出来るようだ。


「……んー、ちょっと頭使おう。A.S.S、相談のって」

『畏まりました』


 【空間収納】からノートとペンを取り出し、A.S.Sを始めとした私の秘密が露見しないようRPTを使う方法を考えていく。

 正直、秘密にしたいのであればこのタブレット自体を見なかった事にすれば良い話ではあるのだが……それはそれで勿体なく感じてしまうからだ。

……ま、住人に良い生活をさせるのも領主の役目ってね。

 システムによって築いた関係ではあるが、彼らを庇護下に置く判断をしたのは私の意思だ。

 故に、その責任は背負うべきものであり……ある程度手を離しているとは言え、生活が良くなるモノは取り入れるべきだろう。



―――――



「よし、こんなもんかな。おかしな所ある?」

『いえ、問題ないかと』

「ならオーケィだねー」


 暫くして。

 A.S.Sに添削、案を出してもらいながらもRPT居住エリア運用の草案が出来上がった。

 問題があるとすれば、私とその内側のシステムによって考えられたモノであるために、多角的な視点で作られたわけではないという点なのだが、


「よし、じゃあ五十嵐に見せてみようかな」


 丁度良く、私の近くにはこの草案を見て意見をくれる後輩が居る。

 時間的には夕方、食事時だからか拠点内の巨大冷蔵庫の中へと入ろうとしていた彼女を捕まえ、色々な詳細を省いた上でこれを見せてみると。

 彼女は少しだけ思案した後、一息。


「良いと思いますよ。この冷蔵庫の中にあるお肉とか、結構冷凍されたままになってるものとかありますし……そもそも私達やわんちゃん達だけで食べきれる量でもないですし」

「結構余ってるしねー。他の物資もポイントによって渡そうと思うんだ」

「うん、問題ないと思います。ポイントの計上も……無人ドローンで出来ますしね。物資はどのように?」

「それもドローンを使って運ぶ感じ。ほら、世界がこうなる前に海外とかだと運送会社がやってるって言われてたドローン運送。アレをやろうかなって」

「……思ってたんですが、ドローン沢山持ってますね?柊先輩」


 じと、とした目をこちらに向ける後輩に苦笑を浮かべてしまう。

 本当は日々貯めたポイントをA.S.Sで交換しているだけなのだが……私の行動範囲を知っている彼女的には、恐らく違う事を考えているのだろう。

……大方、私が家探しとかしたって思ってそうだよねー。まぁ大きく間違っちゃいないんだけどさ。

 答えとしては、家探しもしているが正解だ。

 今も、領地とした住宅地を巡回している監視用のドローンが無人の家の中を漁り、使えそうな物資を持って帰ってきているのだから。


「ふふ、まぁ細かい事は気にしない気にしない。……よし、じゃあとりあえず、明日コレを居住エリアの皆に報せて実際にやってみるかな」

「でもコレ良いんですか?家賃代わりに1ヵ月……20ポイントって。書いてある通りなら、農作業4日やったら稼げる量ですよ?」

「1日5ポイント獲得だしね。……まぁ、そんなに高くしても皆ポイント使いにくいでしょ?私も別に鬼って訳じゃあないからね」


 私は別に、住人の皆から限界まで搾取したいわけではない。

 彼らが自発的に行った行動の結果、余った分を分けてもらえればいいのだ。それに、現状の住人の数は11人。

 これだけでも1ヵ月で220ポイントが私に集まってくるのだ。

……デイリータスクも合わせれば、1ヵ月で1000ポイントは堅いしね。それだけあればドローンを交換するのに使ったポイントも返ってくるし、何なら他の……まだ交換出来てないチート疑惑のあるアイテムも交換の視野に入ってくる。

 それに、今後住人の数が増えないとは限らないのだ。

 先程A.S.Sと草案を練っている時に気が付いたが、RPTを得たタスクと同じ様な……それこそ、単純に達成に必要な住人数を増やしただけの類似タスクもいつの間にか発生していたのだから。


「成程、成程……何にせよ、皆さんの反応次第、ですか」

「そうなるねぇ。皆喜んでくれればいいんだけど」

「喜ぶとは思いますよ。絶対。心配もされそうですけど」

「逆の立場だったら私も物資の心配しそうだしね。特に避難所出身組とかね」


 音鳴を始めとした元避難所組は、ここの物資の豊富さに慣れてきたと言っても、未だ私が様々な物資を配給しに行く度に僅かに驚いているのだ。

 こんなシステムを導入したら……ちょっとだけ、どんな反応を示してくれるのか気になってしまう。


「柊先輩、悪い顔してますよ」

「ふふ、人の驚く顔が見れそうだしね。そりゃこんな顔にもなるさ」


 兎にも角にも、明日。

 起きたら準備をして、すぐにでも居住エリアの皆の元に行くとしよう。

 最近は新しい住人候補を連れていくくらいでしか足を運んでいなかった為に、今どれくらい発展しているのかは五十嵐の報告とA.S.Sのシステムでしか確認出来ていないのだ。

……そこら辺、ちょっと楽しみだよね。

 指示は出している。

 何を作っておいた方がいい、建てた方がいい。それらはあくまでも最低限。

 故に、独自の……居住エリアに住んでいる彼らが豊かに暮らす為に何かを作っている可能性だってあるのだ。

 あわよくば、それが見れる事を祈りながら……私は五十嵐の作る夕飯が出来上がるのを待つ事にした。

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