RPTを運用開始し、それなりに色々あった数日後。
話を聞く限り、住人達の間で評判も悪くなく問題も起きていない様だった為、私はここ数日で貯まっていた仕事……と言うよりは。やろうやろうと考えていたタスクを進める事にした。
それは、物資の回収系。拠点を作り上げる前に達成していたモノと似た系統のタスクではあるが、それらを達成する事はイコールで【空間収納】のスペックを引き上げる事が可能だと言う事。やらない理由がないのだ。
「よし、準備出来た?五十嵐」
「問題ないです。戦闘用も探索用もしっかりと。……柊先輩は本当にそれでいいんですか?」
「良いんだよ、コレくらいで。攻撃喰らったら出力的な問題で終わりだし、そもそも喰らうようなヘマしてる時点で状況的にはほぼ終わってるからね。それよりも、回収出来る物資量を増やした方が良い」
「それは……確かにそう言われるとそうなんですけどね……?」
五十嵐は以前、3級と出会った時と似たようなガチガチの重装備。避難所で物資調達などを行っていた彼女すれば、当然とも言える程度の装備なのだろう。
対して、私はいつも通りの普段着に物資回収用のリュック、腰のベルトから近接戦闘用の刀を一本下げただけのラフなもの。
……ま、ここら辺は経験の差かなぁ。私は前世分もある訳だし。
リュックもリュックで、五十嵐に直接【空間収納】へと物を仕舞っている場面を見せない為のカモフラージュ用なのだが……まぁそれは良いだろう。
「で、先輩。今日はどこへ?リンちゃん達も準備させてましたよね?」
「うん、今回はこの前探索した住宅地に業務用スーパーがあったからさ。そこの探索兼物資回収だね」
「成程……中に何が居るか分からないから最大戦力、って訳ですか」
「まぁそんなとこ」
正直な所を言えば、使える物資が残っている可能性はそこまで高くは無いだろう。
業務用スーパーなど、物資の宝庫。ゾンビになっておらず、ある程度余裕を持って考えられる人間ならば真っ先に向かってもおかしくはない場所。
そんな場所にもしも大量に物資が残っていたら……十中八九、ゾンビが居ると考えていいだろう。
だが、基本的にゾンビに対応出来る私達であればそこまで問題はない。建物内の暗闇から襲われない様に気を付ける……くらいの緩い難度に落ち着くはずだ。
「リン達も……うん、準備出来たっぽいから早速向かおうか」
「了解です!」
「わふ!」
今回も前回の3級遭遇時と同じ様にわんこ達を総動員している。
普段は領地の山の中を哨戒、ゾンビが出現していた場合は各個撃破に回ってもらっているが……最近はその数も少なく。何かあったとしても、居住エリア付近を巡回しているドローン経由で分かる為、全員連れて行ってもいいと判断したのだ。
……そろそろ居住エリアの皆にも、自衛能力付けてもらうべきかな。
今後について考えつつ、私達は目的地のある住宅地へと向かって進み始めた。
―――――
未だ、3級との戦闘痕が残る住宅地。
復旧どころか、住む人間が居ないのだから当然ではあるのだが……後で巨大な瓦礫くらいは片付けておいたほうが、今後訪れた時に楽だろう。
五十嵐に内緒で、今度夜にでもやっておこうかと考えつつも、私達は軽い足取りで住宅地の中を進んでいく。
「お、あったあった。あれだよ、業務スーパー」
「……何というか、ゾンビパニックものの映画で生存者達が立て篭もりそうな……」
「確かに言われてみればその通りだね。内側からバリケードが作られてるっぽいし?」
予想通りというか、何というか。
私達が辿り着いた業務スーパーの入り口は、商品棚をバリケード代わりにする事で普通には入れない様に塞がれている。
しかしながら、無事なのはそこだけ。通常であれば店内の様子が分かる硝子壁はその殆どが破壊されており、中に居たであろう生存者の安否は想像に難くなかった。
「物資はありそうだけど、生存者は……まぁ居なさそうだね。仕方ないか」
「この辺りなら、三峰さん達の探索範囲でもありますしそちらに保護されてる事を祈りましょう」
少しだけ足取りが重くなった五十嵐に苦笑しつつ、私が先頭に立って業務スーパーのバリケードの前まで行くと、
「じゃ、お邪魔しますっとォ!」
【液体操作】によって強化した身体能力にものを言わせ、無理矢理商品棚を退かしつつ正面の入り口を通れるようにした。
別に壊れた硝子壁の方から入っても良かったのだが、それではもしも私が対処出来ない量のゾンビが中に居た時に退路に困ってしまう。それならば多少音が響こうとも、入り口を使えるようにした方が良いという判断だ。
……人の形跡はやっぱり無し。居たとしても……ウイルスが蔓延してからすぐくらいかな。
警戒しつつ中へと足を踏み入れる。
電気の配給が止まっている為、薄暗く。誰の手も入っていない為か埃っぽいものの……ある程度の物資は残っている様に見えた。
だが、入り口すぐ近くにあるのは食料品以外の雑貨類のみ。食料品類は残っていても消費期限を超過していたり、腐っていたりとそのままでは使えそうに無かった。
「五十嵐、二手に分かれて物資を集めようか。そこまで広くもないし……何かあったら叫ぶ事。聴覚だけの身体強化は出来るよね?」
「出来ます。最優先は食べられそうな食品ですね?」
「そうだね。缶詰とか、非常食系があったらそれらを回収。それ以外にも、使えそうな物資があったら回収で」
「了解しました」
そうして私と五十嵐は、わんこ達5匹ずつを連れて店内を物色し始めた。
入り口付近で見た通り、見つける事が出来た食糧品類はその殆どが腐っており食べれそうにない。嫌な臭いもしている為、堆肥にしようにも既に育てている野菜等に悪影響を与えそうだ。
……んー……一応は回収しておこうかな。もしかしたらポイント交換の方に活用出来るチート系マシンがあるかもしれないし。
畑関係は早々に【植物栽培】を手に入れてしまったが故にそこまできちんと確認していない。
もしかしたら私が見落としているだけで、便利なものがある可能性だってある。故に、【空間収納】内へと適当に腐った食品を放り込んでいると、
「――!」
「……ん?」
何かが聴こえた。
【液体操作】によって強化された聴覚によって、辛うじて拾う事が出来た微かな声の様な音。
近くに居たリン達も聴こえているのか、私の方へと視線を向け指示を待っていた。
「……ゾンビの可能性もあるけど……行ってみようか」
「わふ」
私は周囲の警戒をリンを含めたわんこ達に任せ、聴覚へと全意識を向けて集中した。
ゾンビならば討伐すれば良い。しかしながら、もし生存者が居たなら?
それか、私達と同じ様に物資を求め外から入った者が、中に居たゾンビに襲われていたならば?……音のした方向へ向かわない理由は私には無かった。
―――――
辿り着いた先、そこは店の隅。
普段ならば、店員達が使う用具などが置かれているスペースに4体程のゾンビが集まっていた。
ゾンビが居る事自体には驚かない。元々居る前提でこの業務スーパーへと侵入しているのだ。今更数体発見した所で取り乱したりはしない。
「ひっ……た、助け……っ」
だが、そこにはゾンビ以外も存在した。
ゾンビが寄っていくのに合わせ、反応するかのように小さく身を震わせながらも助けの声を漏らす少女。
中々可愛らしく、今が終末でなかったならばモデルか何かをやっていてもおかしくはない程に整った顔立ちをしていた。
とは言え、今はそんな容姿は関係ない。
「助けにきたよッ、と!」
「へっ……?!」
私はすぐに少女に群がっていたゾンビの内、1体を刀で、もう1体を【液体操作】によって作り出した水球で無力化する。
助ける理由は同じ人間だから、というわけでも。その少女が可愛らしいからでもない。もっと単純で、私らしい理由――住人にしたいからだ。
言っては悪いが、こんな場所に1人で入り込み探索している時点で普通の少女ではないのは確実。
良くて身体能力が高いか、更に良くて異能持ち。悪くて避難所から追われ逃げ込んだ先がここだった、とかだろう。
「はい、終わり」
「ワンッ!」
「ワォーン!!」
残りの2体のゾンビも、私の後から着いてきていたわんこ達がすぐさま無力化、動かない様にトドメを刺している。状況終了だ。
私は周囲の警戒を再びリン達へと任せると、刀に着いた血潮を振り払いながら、
「で、お嬢ちゃん。怪我はなかったかな?」
出来る限り柔らかい笑顔を浮かべながら、少女へと問い掛けた。