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Episode7 - 少女と邂逅してみよう


「えっ、あっ……はいっ!大丈夫、です」

「うん、それなら良かった。……ちなみに何でこんな所に?私が言うのもアレだけど、普通に君みたいな子が来るには危険だと思うけど?」

「それは……ちょっと、物資を探しに」


 1人、それも見た所では居住エリアに居る音鳴よりも幼そうな……中学生くらいにしか見えない少女が物資を探しに来ている。

 その事実に少しだけ違和感を覚えつつ、私は一度その場では流す事にした。

……どう考えたって私が首突っ込むべき問題じゃあないね。避難所か、それとも……家族かによってはちょっと変わってくるけど。

 事情を聞く事はせず、このまま店の隅にいても仕方がないという事で店内の方へと少女を連れて戻っていくと、


「柊先輩!大丈夫ですか!?」

「お、五十嵐。私は問題ないよ。ただ……」

「生存者ですね。私が居た避難所では見た事ない子です」

「そっかそっか。傷がないか確認してもらっていい?」


 戦闘音を聞きつけた五十嵐がアインス達を連れてこちらへと駆けてきていた。

 彼女は私の言葉に頷くと共に、すぐさま少女の身体全体を確認し始める。一応、パッと見た所では擦り傷もないように見えるものの、油断は禁物だ。

 もし僅かな傷があれば、そこからウイルスが侵入し……やがてゾンビになってしまう可能性があるのだから。

……しっかし、五十嵐が居た避難所じゃ見た事ない子か……こりゃ本当に厄ネタかぁ?

 少しだけ関わるのが嫌になってきた所で、五十嵐のチェックが終わったのか少女がこちらへと寄ってくる。

 先程襲われていた時とは違い、その表情は明るい。


「綺麗なお姉さん、本当にありがとうございましたっ」

「へっ?あぁ……うん、どういたしまして。大した事はしてないけどね」


 そのままの勢いでこちらに腕を絡め、にっこりと笑い掛けてきた姿に少しだけ呆然としてしまったものの。

 すぐさま気を取り直し事実を告げる。私の今のスペック的にゾンビの2体も4体も本当にそこまで大した問題ではないのだから。

 だが、少女はその回答がお気に召したのか、にこにこと笑いつつも腕を離そうとはしない。

……懐かれちゃったかな……なんで?

 中学生くらいの年齢の子にありがちな、夢見がちな子なのだろうか。

 そういうのは出来れば同性ではなく異性相手に発揮してほしいものだが。


「……柊先輩、物資の回収はある程度終わりました?」

「ん?あぁ、終わってるよ?って言っても……ほら、こっちのコーナーは缶詰とか少なかったから雑貨類が中心だけど」

「……それなら良かったですっ!」

「急に不機嫌になっちゃって、どうしたの五十嵐……」


 何やら、私と少女の様子を見て不機嫌になったらしい五十嵐がむくれているが……それはそれで、同性同士でやるものでもないだろうに。

 そういうのはどこぞのハーレム主人公にでも任せるべきだ。

 とは言え、懐かれているのは悪い気はしない。


「まぁいいや。君、なんて名前?この後何処かに送ってくにしても……名前とか聞いとかないと流石に面倒でしょ?」

「はい!私、白星しらほし蓮華れんかと言います。よろしくお願いしますね、お姉様!」

「お姉様ぁ?……いや、待って、その名前……」

「?どうしましたぁ?」

「あっ、いや、大丈夫」


 何が琴線に触れたのかは分からないが、この少女が名乗った名前には聞き覚えがあった。

 そう、それは確か……今世ではなく、前世。私が一度死ぬ前に聞いた事がある名前。

……そうだ。思い出した。白星蓮華って三峰と同じランキングに居た人だ!それも、変な噂と一緒に。

 私が知っている白星蓮華についての噂はただ1つだけ。それも、強さに関係しているものではない。

 曰く、彼女は幾ら怪我を負ったとしても、ゾンビウイルスには感染しない……らしい。

 それが異能に依るものかは分からないものの、当時は彼女を複数の研究者達が追いかけ回していたのを覚えている。そして、程なくして三峰と同じ様にランキングからひっそりと名前が消えた事も。


『柊様、対象『白星蓮華』を住人にする事が出来た場合、可能性ではありますが柊様がゾンビウイルスに対する抗体を得る事が出来るかもしれません』

「……それ本当?」

『体質なのか異能なのかは分からない為、異能であった場合に限りますが』

「なぁーるほどねぇ……」


 A.S.Sの言葉によって、一気に目の前の彼女に対する視線の質が変わる。

 ゾンビウイルスに対する抗体、耐性なんてものは幾らあっても困らない。どんなに怪我をしても問題無くなるという事であり、争いが絶えないこの世界の中でゾンビ化に怯えなくて済むというのは魅力的でしかない。

 問題はここから安全に白星を連れ帰り、尚且つ住人になるまで餌付けが出来るかどうかになってくるが、


「白星ちゃん、君が居た避難所って此処から遠い?それなら一度、私達の拠点の方に来てもらった方が安全ではあると思うんだけど。ほら、そろそろ夕方ではあるからね」

「あ、じゃあお言葉に甘えても大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。……よし、五十嵐。時間も丁度良いから一旦帰るよ」

「了解です。でも柊先輩……」

「分かってる」


 白星から了承を得て動こうとしたものの。

 強化されていた聴覚に、何かが近付いてくる音が聞こえていた。業務スーパーの外、恐らくは数体のゾンビではあるだろうが……流石に白星を庇いつつ戦うのは難しい。

 その考えが伝わったのか、五十嵐は軽く頷きながらも白星に対して此処から動かない様に言いつけている。

 そのやり取りを背に、私は軽くその場から店内を駆け抜けていく。


「しっかし、ウイルスへの耐性……あったら色々考えられる事はあるよね。本当に」


 程なくして辿り着いた外。そこには、何かを感じ取ったのか5体程度の1級と、1体の2級ゾンビがこちらへと歩いて近寄ってきていた。

 店内から近づいてくる私の音を聴きつけたのか、こちらへと向かって走りだそうとするものの。

……うん、これくらいならすぐに終わる。

 勢い良く店外に駆け出た私が放ったドロップキックによって、中心に居た2級ゾンビがが弾き飛ばされる。それと共に【液体操作】によって水の槍を作り出す事でしっかりとトドメを刺す。

 それが戦闘開始の合図となったのか、一斉に周りのゾンビが私へと向かってきたものの。


「無茶しないでくださいよ、柊先輩!」

「いやぁ、正直これくらいだったら楽だしさぁ。もう」


 店内から声と共に、複数の水球が勢いよくゾンビ達の頭へと向かって飛んでくる。

 五十嵐の【液体操作】はこの間手に入れた抽出液の残りで強化されており、今では1級程度ならば異能だけでも充分相手出来るようになっていた。

 今も、彼女が放った水球は命中すると同時に形を変え、ゾンビ達の体内へと侵入。

 そのまま、体内に残っているゾンビの血液等と混ざり合いながら暴れ回り、


「確かにそうなんですけどね。私でもこれだけ楽に倒せますし」


 最終的に、内側から破裂するように液体が噴出した。

 私が教えた戦い方ではあるものの、対生物型にここまで有効な異能の使い方をすぐに出来るのは五十嵐の才能だろう。


「よし、核回収して戻ろうか。リン達は……一応、こっちに来たのか」

「アインスちゃんだけは残ってるはずです。何かあった時に私達を呼べますし、リーダー格なので」


 と、私達がゾンビの残骸からコアを漁ろうとした瞬間。

 背後から物音が聞こえ、私と五十嵐が一斉に振り向いた。

 そこには何やら物資を両手いっぱいに持っている白星が立っており、


「あれ、白星ちゃん出てきちゃったの?待っててって――」

「――くふふ」


 妖艶な笑みを浮かべていた。その足元には困った様にしているアインスが、こちらへと視線を向けつつ指示を待っている。

……んー……これやっぱり厄ネタ?

 困惑している五十嵐を脇に、私は困った表情をしながら問い掛ける。


「……どうしたの?」

「綺麗なお姉さん達、ダメですよぉ。こういう世界で、物資がある場所に仲間でもない子を置いていって……こうなっちゃうんですから」

「なっ……!?」


 白星が視線を両手の中の物資に向けた瞬間、その全てが元からなかったかのように消える。

 五十嵐がその光景に驚いているが、私も彼女とは違う意味の驚きで目を見開いた。

……収納系の異能……!そりゃ強いって言われるよ……!

 【空間収納】とはまた別の収納系の異能だろうが、それを持っている以上……並のゾンビに後れを取るのはあり得ない。収納内にあるモノの数だけ択が広がっていくのがその異能の最大の特徴なのだから。

 私達が驚いているのを確認したからか、それとも物資を確保出来て満足したからか。白星は業務スーパーから出て、私達が来た方向とは別の方向へと身体を向ける。

 その行動に対し、正気を取り戻したのか五十嵐が動こうとしたのを手で制止して、


「どこに行くの?」

「くふ、何処にだって良いじゃないですか。あぁでも……貴女達とはまた会うかもしれないですね?こうして行動範囲も被ってましたし……その時は、こうやって出会えるかは謎ですけど?」


 彼女はそう言って私達の前から去っていく。

 その背中が見えなくなるのを待ってから、私は息を吐いた。


「柊先輩!良いんですか?!行かせちゃって……」

「良いも何も、下手に動いたら何が出てくるか分からないからね。向こうに攻撃の意志があったら私達2人とも怪我してた可能性だってある」


 そう言いながら、業務スーパー内へと視線を向けてみると。

 そこそこまだ残っていた物資類がほぼ全て無くなっている事に気が付いた。恐らくは、元々私達と同じように此処に物資を確保しに来たのだろう。

 使えるモノが少なかったのも、既に彼女が収納していたと考えれば自然だ。


「かぁー……欲しいなぁ……」


 業務スーパー内の様子に五十嵐が嘆くのを聞きながら。

 私は独り小さく零す。物資の事ではない。出来るだけ目についた使える物資は持ち帰るようにしている為に、持っていかれたのは少し痛いが……それはまた探せばいい。

 欲しいのは、白星が持っていた収納系の異能だ。

……次会えたら……どうやっても良いから、住人にしたいなぁ……!あの子。

 少なくなった物資を回収し、私と五十嵐はわんこ達を連れて帰路につく。

 次、あの少女に出会う事が出来たなら。その時は……出来れば、手段を選ばずに。

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