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剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?
剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?
水色の山葵
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年01月22日
公開日
43.4万字
連載中
才能はない。力を求める理由もない。けれど時間は無限にある。だから剣を振る。だから魔術を振るう。 生涯を繰り返し世界最強を目指すのだ。 全ては己の満足のためだけに。 月・金曜日18時更新。

プロローグ「死亡」


「――終奥・龍太刀」


 呟きと共に放たれたその技を目に焼き付ける。

 その所作の全てを、その所作の詳細を、その所作に込められた魔力を。

 記憶に、瞳に、脳髄に、魂にすら刻み付ける。


 それほどまでの圧倒的な剣であり、それほどまでに魅了させる技だった。


 しかし、その技を放った剣豪は敵と背を合わせて倒れる。


 それだけの相手だった。

 それは魔獣の中でも特に強力な存在。

 東洋では鬼王とも呼ばれ、一般的には『オーガロード』と呼ばれる亜人型魔獣の中で最上位に位置する相手。


「何故だ……」


 剣技を放った老人が血反吐を吐きながら俺を見て問う。


「来るなと、逃げろと言ったであろう。其方如きが来たところで何もできはせぬ。今すぐ逃げよ、弟子よ……」


 タガレ・ゲンサイ。齢七十八。

 この世界に七人しかいない剣聖の一人。

 そして俺が門下に入った道場の師範代でもある。

 彼は道場が存在する村にオーガロードが接近しているという知らせを聞いて一人で相対すべくここへ来た。

 村人と俺たち門下を全員逃がして。


 凄い人だ。尊敬に値する。


「ご心配なく師匠。俺の剣術がまだまだで、こんな化物相手に通用しないってことは分かってますから」


 オーガロードへ持って来た木刀を投げつける。

 オーガロードは骨で造られた大剣を振り上げて、木刀を簡単に弾いた。


 その巨漢が露わになるが胸には大きな傷が入っていて、そこから大量に血が流れている。

 師匠が最後の剣技によって付けた傷だ。


「剣を教えていただいてありがとうございました。これは俺なりの恩返しです」

「其方は一体……」


 足に風を纏う。身体が地面から離れ浮遊を開始する。

 物理法則を捻じ曲げる術理。一般に『魔術』と呼ばれるその技術を、俺はそれなりに修めている。


 高度を上げながら指先に炎を灯す。

 両手の五本の指全てにだ。

 それを投げるように飛ばし、弧を描くような軌道で全方位から炸裂させる。


「グォォォォ……」


 全然効いてないな。

 やっぱり俺の攻撃力じゃ無理か。

 あの胸を狙うしかない。

 それも結構な至近距離で最大火力をぶつけてギリギリって感じだな。


 火球をぶつけながらそんなことを考えているとオーガロードと目が合った。

 大剣を振りかぶり、俺に向かって振り下ろす。

 全く射程は届いていないが、風圧で死ねるな。


 魔力障壁を前面展開。

 浮遊で右に移動して直撃を避けながら、掠った風圧を魔力障壁で止める。

 それでも服の袖がちょっと裂けた。


 なんつー怪力だよ。


「ふぅ……」


 ちらりとくたばりかけの師匠が見える。

 いや、あれはもう死んでる。

 最後の言葉くらい聞いとけばよかった。


 でも、師匠が死んだってことはこの魔獣は師匠の仇ってことだ。


 なら弟子の俺が殺さない訳にはいかないよな。

 それに師匠が命を懸けて守ろうとした村も背負ってる。

 俺が生まれて、師匠と出会って、兄弟弟子たちと切磋琢磨した場所だ。

 それが蹂躙されるってのは寝覚めが悪い。


「死にたくねぇなぁ……」


 魔力障壁を球体状に展開。

 全方位を守りつつ、浮遊魔術を最高速度にして突っ込む。

 両手に灯した炎を拍手の要領で合成。

 炎の色が青へと転化する。

 低空飛行に切り替えて、回避率を上げながら師匠の横を抜けて剣を拾う。


「グォォォ!」


 放ってくる風圧を左右移動と障壁で受けながら懐を目指す。

 魔力障壁に亀裂が入る。幾つも。

 でも辿り着けた。目前に血を噴き出す胸部がある。


 魔獣の特性かオーガの性質か、どうでもいいがこいつは逃げなかった。


 目前に迫る俺に大剣を振り上げる。

 ボロボロの魔力障壁じゃこの一撃は受けきれない。

 だが、俺の魔術もほぼ同時に命中する。


「術式合成【蒼炎】。付与」


 青い炎と温度に比例した衝撃力を生み出すこの魔術を、拾った師匠の剣に付与する。

 師匠が最後に放った技には全く及ばないが、お前のその傷の上からなら十分致命傷になるだろう。


 青い炎の灯った『カタナ』と呼ばれるその剣をオーガロードの胸へと突き刺す。

 同時に振り下ろされた大剣の一撃によって、俺の肩から腰までが完全にぶった切られた。


 双方即死。

 相打ちで引き分けだ。

 しかし俺は目的を達成した。

 師匠の仇は取ったし、村は守れた。

 何より、今まで五年、一度も見られなかった師匠の奥義をこの目で見られた。


 ならば、この生涯には意味がある。



 ――この四度目の生涯には。



 俺は転生者だ。

 転生前、最初の人生では転生の魔術を開発した。

 二度目、最初の転生人生では世界を旅して魔術を集めた。

 三度目、集めた魔術の修練と魔術師としての能力向上に努めた。

 そして今世では、剣術を修めようと思った。


 しかしまさか二十歳で死ぬことになるとはな。

 四度の人生で最短の生涯だった。


 けど次の人生でやることも決まった。

 【終奥・龍太刀】を修める。

 それが五度目の人生の目標だ。


 人生を繰り返す意味があるのかは分からない。

 目的もなく、力を極めるだけの生涯に価値があるのかは分からない。


 死ねば終わり。俺の場合は転生の魔術を使うのをやめれば終わりだ。

 やめれば全て終わって楽になる。

 しかし、もう何百年も前にそう願ってしまったのだ。


 世界最強――そんな陳腐な言葉に惹かれた。


 それこそが俺の生きる理由。

 俺が転生する理由だ。



 ――転生術式【ネクストゲーム】。



 行こうか。次の生涯の始まりだ。


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