最後のトラプトニアンの浮遊艦が地球の大気圏を抜けていく。その光景を見上げる人々の目には、ただ一つの神秘が映っていた。
空を裂くように、翼を持つ女性が光に包まれながらゆっくりと降りてきたのだ。
「演出は大切だな。」
広場の端に佇む瓢六が、微笑を浮かべながら呟いた。
「水の惑星の神が誕生した瞬間だ。」
彼の言葉を裏付けるかのように、翼を広げた女性は、黄金の光を浴びながら静かに地上へ降り立つ。その神々しい姿を見上げた群衆の中から、誰かが震える声で言った。
「神が舞い降りた……」
その呟きは瞬く間に広場を越え、世界中へと伝播していった。それは新たな時代の幕開けを告げる鐘の音のように、人々の心を打った。
悪魔が地球を救ったことを知る者は、ほとんどいない。だが、天から舞い降りた翼を持つ私は、この星を救った神として崇められる運命にあった。
そして今、私のお腹には悪魔との子が宿っている。その子はもはや「悪魔の子」ではなく、神の子として新たな運命を背負う存在になっていた。
「私は神の母となり、この地球の支配者となる。」
静かにそう呟いた。
すべては私の計画通りだ。私の子供はやがて「真理の神」として、この世界を導く存在になるだろう。そして今、私はその基盤を築く時を迎えた。私はこの星を浄化し、理想の世界を創るための第一歩を踏み出した。
広場に集まった数万人の人々を見下ろし、澄んだ声で語りかける。
「暴力を捨てなさい。力を合わせ、わらわと共に未来を創るのです。」
「『わらわ』はちょっとやりすぎだよ。」
広場の端で、瓢六が微笑を浮かべて茶化す。
しかし、平和は犠牲なくして得られるものではなかった。私はその現実をよく知っていた。
「滅びるべきは争いを引き起こす者、害を与える者、欺く者だ。」
私は静かに告げた。
浄化のための罪人を集めるのは「神の代理人」として瓢六に託した。私は『魂の分配』で罪人の浄化を行う。
同時にレイナもまた、自身の目的を果たしていた。この大地を荒らし、魔女を蔑視してきた者たちへの復讐を果たすという形で。
我々の手によって、悪人は滅ぼされ、あらゆる暴力が一掃される。
私たちのそれぞれの目標は異なるように見えて、その奥深いところでは一致していた。それは、愚かな人類の浄化だった。
トラプトニアンの技術を用いて、事故の起きないインフラが構築され、病気を予防するための遺伝子操作が進められた。そのすべてが、理想的な未来のための基盤となる。
「人類が平和を手にするのは、最終戦争の後だ。」
瓢六のかつての言葉が頭をよぎる。
瓢六のかつての言葉が頭をよぎる。最終戦争――それは、人類が自らの愚かさを超えるために避けては通れなかった過程だった。
浄化の結果、人類の人口は最盛期の28%にまで減少していた。それは平和のために払った代償だった。しかし、その犠牲の先にある新たな秩序は、今確立されつつある。
私は遠くを見据え、地球と私の子供の未来を静かに思い描く。この世界は、新たな神の手によって導かれる。それが、私がこの星に与えた贈り物なのだから。