3日目の夜
「じゃあ、そろそろ
私たちは帰ろうかねぇ」
「そうね、
今日は色んな話が聞けて
楽しかったよ」
「私も、
話を聞いてたら
旅がしたくなって
きちゃったわ」
「わしも
若いエネルギーをもらって
なんだが若返った気がするぞ」
「ゼンちゃん、
ノンちゃん、
また近くを訪れたときは
是非また寄ってってね」
僕とゼンとノンは
モリ村のトメさん家に
一晩お世話になることになり
それを聞きつけた村の人々が
トメさんの家に次々と訪れ
夜遅くまで話込んでいた
村の人々は
旅の話で一通り盛り上がった後
それぞれの家に帰っていった
そして
ノンは旅の疲れと相まって、
部屋に戻ってくると
布団の上に横になり
そのまま寝てしまった
ゼンはというと
トメさんの旦那さんと
山菜狩りについて
熱く語っていたが
まだ、その話で
盛り上がってるみたいだ
僕はノンを守るように
ノンの側で休むことにした
しばらく休んでいると
山菜狩りトークが
ひと段落したのか
ゼンが部屋に戻ってきた
「いや〜、
こんなに山菜狩りの話だけで
盛り上がれるとは
思わなかっ...た...」
「おっと、
ノンはもう寝てたか」
ゼンは、
そっと部屋のドアを閉め
ノンを起こさないように
静かに寝る支度を始める
そして支度が終わると
そのまま自分の布団に
寝っ転がった
僕は
ゼンのところに向かい
尻尾でゼンの顔を叩いた
「いてっ!」
「何すんだよ、モネ!」
ゼンは驚いた顔をしながら
小声で僕に問いかけた
僕は
尻尾をノンが寝ている
方向に向けてピンと伸ばす
「ん...?
っと、そういうことか」
どうやら
僕の尻尾の動きから
僕の意図が伝わったようだ
ゼンは
自分の布団から起き上がると
ノンが寝ている
布団の方に向かって行く
そしてゼンは
ノンを起こさないように
静かに抱きかかえて
僕に視線を向ける
僕は布団をめくり
ゼンはそれを確認すると
再びノンを寝かせ
今度は布団を掛ける
どうやら
ノンは余程疲れていたのか
ゼンに抱えられても
目を覚ますことはなかった
ゼンと僕が
それぞれの寝床に
向かおうとした時
「私が...みんなを...」
ノンが寝言を呟いた
僕とゼンは
その寝言から
ノンが余程の事情を
抱えているのだと感じ
「どうやら、
すごく責任感のある子
みたいだな」
「どんな事情を
抱えているのかは
わからないが」
「もし俺たちで
手助けできることなら、
その遺跡に向かう旅にも
同行しようかと思ってる」
「ただ、
行きずりの旅人には
話せない事情が
あるかもしれない」
「だから明日、
遺跡への同行について、
提案してみようと思うが」
「ノンからの返答次第では、
ここで、
お別れになるかもな」
ゼンは
少し寂しそうな表情を
僕に見せた後
ノンが寝ている方向に
視線を向けたその瞬間
ノンが
ゼンがいる方向に
寝返りを打った
「はっ!!」
ゼンが
何かに気がついた
「お、俺、
女の子と一緒の部屋で
寝るなんて初めてだ」
ゼンが
急に落ち着きなく
部屋を歩き回る
ノンが起きるから
少し落ち着け!
という意味を込めて
僕はゼンの顔を尻尾ではたく
ゼンは我に返り
自分の布団の上に座り
ノンの寝顔を見て
目が冴えてしまったのか
しばらくそのまま動かず
部屋の扉の方を見つめていた
僕は
やれやれと言った気持ちで
そんなゼンを横目に
ノンの側でまた丸くなる
確かにノンは
比較的
美しい顔立ちをしている
ジンマ族なのだろう
僕には
ジンマ族の美しさの基準は
わからないが
これまでの旅で
色んな人と接触したことで
ジンマ族が
美しい人を見た時の
言葉や表情、仕草などから
ある程度の区別は
つくようになった
だから
ノンがジンマ族の女性の中で
比較的美しい顔立ちをしている
というのはなんとなくわかる
どうやら
胸が大きい女性が
好きというジンマ族も
いるみたいだが
ノンは
決して小さくはないが
特別大きいという訳でもない
ゼンがどのような女性が
好きなのかはわからないが
僕は外見よりも
中身の方が大事だと思ってる
自分の都合で
相手を振り回すようなのは
論外だが
相手の話を
なんでも聞いて従ってしまう
ただ優しいだけの人もダメだ
相手を尊重しつつ
常に自分の意思で
協力する姿勢を示せる
そんなジンマ族がいい
そういう意味では
ノンは
相手を尊重する気持ちを持ち
自分のできる範囲で協力
しようとする姿勢が見える
そして
それを感じられたからこそ
ゼンもノンの護衛として
同行しようと思えたのだろうし
僕も
こうしてノンを守るような
行動を取れているのだろう
僕もゼンもノンも
自分が抱えている事情を
明らかにしている訳ではない
ただ少なくとも
行動を共にできるくらいの
信頼関係は築けているみたいだ
いつもながら
色んな思考が
頭を巡った結果
僕は、なんだか
これからもノンと一緒に
旅ができるのではないか
という結論で締めくくり
その期待を込めて
ゼンの方をチラッと見た後
明日に向けて
眠りにつくのだった
一方のゼンは
慣れない状況に
ドキドキしてしまい
しばらく眠れずにいたようだ