4日目の朝
チュンチュン...チュン...
「ふあぁぁ...」
「ん...ん...」
ゼンのあくびと
体を伸ばした時の声が聞こえ
僕も目が覚めた
「おはよう、モネ」
僕も体を伸ばしながら
ゼンに向かって尻尾を一振りし
あいさつを交わす
「こんなに
ぐっすり眠ったのは
久しぶりかもな」
「村の人たちも
みんないい人だし
本当に来てよかった」
「これも
ノンに出会えたお陰だし
改めてノンには
お礼を言わなくっちゃ」
僕は
ノンが部屋にいないことに
気付き
「あれ?
ノンはもう起きたのかな」
続いて
ゼンも気付いた
居間の方から
密かに話し声が聞こえてくる
たぶん
ノンとトメさんの声だ
「昨日は大分遅くまで
話し込んでいたってのに
ノンもトメさんも
随分早起きだなぁ」
きっと
モリの村の人たちは
みんなそれぞれに
独自の生活リズムがあり
各々の生活習慣が
体に染み付いているのだろう
だから
突然の客を迎えるなど
普段とは違った
出来事があっても
自分の軸が
しっかりしているから
行動にブレがないのだ
それは
決して簡単に身に付く
習慣などではない
周りの顔を伺ったり
周りの行動に合わせたり
周りの意見に流されたり
個を持たない生活に
慣れてしまっている人には
きっと
身につかない習慣だろう
そういった
個を持たない生活が
当たり前になっている町にも
以前立ち寄ったことがある
ただ
どちらが正しい
生き方なのかは
いまだ結論は出ない
周りに合わせた
生活を送っている人たちも
その中での幸せがあるのだ
だから
結局はその人が
どういう生活を求めるか
によってくるのだろう
だが
唯一共通して言えることは
どんな考えを持って
どんな生活を送ろうが
その結果
自分にとって
望まない出来事が
起こった場合の責任を
他人に求めてはならず
すべて自分の責任だと
受け入れる覚悟を持たなければ
ならないということだ
それは
自分で行動しなかった
という罪も含めてだ
「ゼン、モネ、
おはようございます」
いつものように
考えに耽っていると
ノンが起こしに来てくれた
「おはよう、ノン」
ゼンの
あいさつと同時に
僕も再びノンに向かって
尻尾を一振りして
あいさつを交わす
「朝食のご用意が
出来ていますので、
支度が整いましたら
居間に来てください」
「お!それは楽しみだ。
すぐに向かうよ」
ゼンは
すっかりノンの料理の
虜になっているみたいだ
そして僕とゼンは
トメさんとノンが
作ってくれた朝食に
舌鼓を打った後
これからのことについて
話をすることにした
「とりあえず、
ノンをモリの村まで
護衛するという
目的は果たせたし」
「ノンは
俺たちをモリの村まで
無事案内してくれた」
「本来なら
ここで当初の目的通り、
俺たちは
生まれ故郷に帰る旅に
戻ろうと思うところだが」
「ノンも、
その遺跡とやらに
向かわなければならない
という目的に
変わりはないのか?」
「はい。
遺跡に向かい
是非この目で確かめたい
ことがあるのです」
「そうか。
だが、昨日渓谷で見かけた
連中のこともあるし」
「遺跡には、
より危険な魔物が
生息している可能性もある」
「そうさねぇ。
近頃あの遺跡周辺で
大型の魔物を見た
っていう噂も聞くよ」
トメさんは
その大型の魔物について
話を続ける
「確か、
すごく大きな
鳥型の魔物で」
「ゲリラホークという
小型の魔物を
従えているって話だよ」
「ただ、
その鳥型の魔物の群れに
人が襲われたっていう
話は聞かないから」
「遺跡を縄張りにしている
って訳では
なさそうだけど」
ノンは
トメさんの話を聞きながら
何やら真剣な表情で
考え込んでいたが
「はい。
その鳥型の魔物に
人が襲われたという話は
私も耳にしていません」
「ただ、
遺跡がある地域の周辺で
異常な現象が起こっている
という話を伺いました」
「異常な現象?」
トメさんは
ノンの話に
心当たりがないみたいだ
「はい。
無用な混乱を避けるため
詳しいことは
お話しできませんが」
「どうやら、
モリの村の周辺には
その被害は
出ていないようですね」
「なるほど。
その鳥型の魔物が
直接的に人を襲っている
という訳ではないが」
「その遺跡に
巣食ったことで、
周囲によくない影響が
出ているのでは、
そう思ってる訳だ」
ゼンは
トメさんとノンの
話のやり取りから
そう解釈し
「そして
その異常な現象の原因が、
その鳥型の魔物に
あるのかを調べたいと」
「はい」
「しかしねぇ、
女の子1人で行かせる訳にも
いかないだろうし」
「村の男どもも、
旅の心得や戦闘経験が
ある訳じゃないからねぇ」
トメさんは
心配だという表情をしながら
そう答える
その一方でゼンは
ノンの目的を知ったことで
なにかを決意した表情になる
「よし、
ならその遺跡とやらに
俺たちも向かうことにするよ」
「えっ!?」
「あらまっ」
「もし仮に
ノンの言う異常な現象と
その魔物が巣食ったことに
因果関係がなかった場合」
「俺たちの故郷でも
同じことが起こる可能性もある」
「だったら、
その原因を知ることは
俺たちの故郷を
守ることにも繋がるはずだ」
「だからまず、
起こっている出来事の
現状を調べて状況を整理し」
「その上で
出来うる対策を考え、
1歩1歩解決に向けて
行動をし続ける」
「それが
問題解決のセオリー
ってね」
ノンとトメさんは
ゼンの考え方に驚いたのか
一瞬反応が遅れたが
ノンはすぐに
ゼンの考え方に共感し
敬意を払いつつ
「ありがとうございます。
それでは異常な現象の調査
という共通の目的の元に、
引き続き行動を共にする
ことにいたしましょう」
そう堅苦しく答えるが
ノンは今まで以上に
満面の笑顔を見せていた
「お世話になりました」
「なんの、
お陰様でわたしらも
楽しい時間を過ごせたよ」
「洞窟の入り口は
渓谷の入り口手前を
東側に少し進むと
見えてくるはずさ」
「わかりました。
ありがとうございます」
僕たちは
異常な現象の
調査の一環として
昨日渓谷で見かけた
軍隊らしき集団が話していた
洞窟についてトメさんに尋ね
遺跡へは
その洞窟を抜けて行く
ルートもあるとのことなので
僕たちはそのルートを
通って行くことにした
「そうだ、ノンちゃん」
トメさんが
ノンを近くに呼んだ
「男心を掴むには、
美味しい料理を与えるのが
一番さね」
「ノンちゃんは
自然に出来てるみたいだし
そのまま頑張りな」
トメさんは
そうノンにアドバイスし、
ガッハッハという笑い声を
上げながら家に戻っていった
ノンは
お決まりのように赤面し
少しの間
俯いたまま動かなくなり
ゼンは
そんなノンを見て
「あれ?
どうしたんだ?」
そう
声を掛けるのだった
そうして僕たちは
異常な現象の
謎を調査するため
今度は遺跡に向かって
再び歩みを進めるのだった