目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第53話 顔は写していないし、露骨なエロ釣りなんてしてないんだからね⁉

【≪アルミちゃん≫、あそこにいるのが≪ニャントリン≫さんではないですか?】


 えっ、どこどこ⁉


 黒っ!

 黒すぎて隣の人の影かと思ってた!


 黒ネコさんってあんなに黒いんだ⁉

 目だけが金色に光っている。

 すごい……神秘的……。


【≪アルミちゃん≫は白ネコよりも黒ネコが好きなんですか?】


 いや別に好みの話をしているのではなくて……。


【ちょっと待っていてください。墨汁で毛を染めてきます】


 待って待って。

 ≪サポちゃん≫の白い毛が嫌だなんて言ってないよ?

 白ネコかわいいなー。わたしの相棒、白くて良かったなー。


【白いままで存在していても良いのですか?】


 もちろんだよ!

 ネコの毛は関係ないけど、わたしの色の好み的には、黒色より白色のほうが好きだし。


【なんでですか?】


 白のほうが清楚な感じ出せるじゃない?

 とりあえず白を着ておけば男の人のウケもいいし。


【同時接続数が2000減りました】


 なんで⁉

 って、わたしの心の声を勝手に配信するのやめてよね⁉


【≪アルミちゃん≫にはがっかりです……】


 なんでよ⁉

 白系のファッションのほうがSNSで『いいね』たくさんつくし。


【≪アルミちゃん≫の裏垢の話ですか?】


 ちょっ!

 裏垢とか人聞きの悪い!

 ちょっとした……ファッションチェックを……たまにしてただけだから!

 顔は写していないし、露骨なエロ釣りなんてしてないんだからね⁉


【でもあのアカウントはインターネットに繋がっていませんよ】


 えっ? 何言ってるの? 普通のアカウントだよ?

 けっこう『いいね』もらえてたし、フォロワーもたくさん……。


【すみません、それは全部私の並行思考による自演でした】


 えっ……ええ……。

 ちょっと待って? 並行思考って何……?


【≪アルミちゃん≫のエロ写真がネットに公開されるのは良くないと思い、私の用意した専用ネットワークにだけ接続されるようにパスを書き換えておきました。私は複数人格を有していますから、それぞれの人格が≪アルミちゃん≫の裏垢のフォロワーとなり、コメントや『いいね』を押していた、ということです】


 んー、何かよくわからないけれど、わたしは≪サポちゃん≫……ていうか、≪オーラム≫さんに対して、数日おきにファッションチェックをお願いしていたことになるのかな……?


【結果的にはそうなりますね。≪アルミちゃん≫のあんな姿やこんな姿がデジタルタトゥーとして残らなくて良かったです】


 めっちゃむなしい……。

 そう言われてみれば、良い感じのコメントはいっぱいつくのに、みんな上品だし、マジの直結お誘いDMは1回も来なかった……。それで気づくべき……気づけるわけなくない?


【メイン垢のほうは普通にインターネットに繋がっています。そちらのほうは写真には適宜修整を入れていますのでご安心ください】


 えっ、あれってSNSの機能じゃなかったの?

 なんか良い感じに美肌にしてくれたりとか、小顔にしてくれたりとか……。


【言うなれば≪アルミちゃん≫専用機能ですね】


 わたしの知らないところでずっとサポートされてた……。

 あ、もしかして、目覚ましかけ忘れたと思ってハッとして起きたら、ちょうど会社に行く時間だったりしたのは……。


【陽の光を当てて、心地良く起きられるように調整しています】


 あれは?

 買い忘れていた乳酸菌飲料がなぜか冷蔵庫に入っているのは――。


【定期購入しておきました】


 あれは?

 徹夜続きで体がバキバキになって、そろそろ整体に行きたいなーって時に、ちょうど50%OFFクーポンが送られてくるのは――。


【私の経営している接骨院です。働いている従業員はすべて私です】


 あれは?

 深夜残業して、眠気覚ましにトイレに行って帰ってくると、デスクの上に缶コーヒーが置かれているのは……あれ、でもいつからか、缶コーヒーじゃなくて、スタバのマキアートとか、ココアとか、バリエーション豊富になったよね。


【缶コーヒーの男は消しました。その後の差し入れは私です。毎日違う飲み物を用意することで、ワクワク感を演出してみました】


 えっ、消したって何⁉

 ワクワクの前にそっちのゾワゾワする話を詳しく!


【≪アルミちゃん≫、大変です。入り口を見てください】


 そんなことよりも消した男の話を――って何これ⁉ どういうこと⁉


 酒場のウエスタン扉を開けて、続々と入ってきたのは、黒い影……じゃなくて、黒ネコの獣人たち⁉


 ≪ニャントリン≫さんそっくりな黒ネコさんたちがいっぱい……。

 まっすぐに≪ニャントリン≫さんのもとへ。


 何か楽しそうに談笑を始めた……もしかして待ち合わせしていた……?


「おまたせしました~。ジャンボフルーツパフェとメロンソーダです。それとネコ缶に魚肉ソーセージトッピング。サービスのミルクもね。ごゆっくり~。いらっしゃいませ~」


 酒場のアイドル店員≪チムチェ≫さんが、≪サポちゃん≫に小さくウィンクしてから、今入ってきた≪ニャントリン≫さんのお仲間たちのところに走っていった。


 黒ネコがいっぱい……。

 えっ、全員同じ顔……。


 誰が≪ニャントリン≫さんなのかわからなくなっちゃった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?