「姫に借りを作りたくなかったんだよ……。姫に借りなんて作ったらどうなるか……」
≪アサダ≫さんがカタカタと震え出す。
「えっと……どう、なっちゃうんでしょうか……」
そんなにヤバいんですか?
もしかして、≪ニャンニャン姫≫って怖い人なの?
「それはだな……」
それは……。
「もちろん一生――」
≪アサダ≫さんが≪ニャンニャン姫≫の真実を語り出そうとした、まさにその時だった。
「わらわがどうかしたのかぇ?」
「ひ……め……! 本日もご機嫌麗しゅうございますっ!」
≪アサダ≫さんの体は、まるで電気を流したみたいに硬直して跳ね上がり、一度ちょっとだけ宙に浮いてから地面に降りてくる。そのまま直立不動で≪ニャンニャン姫≫に向かって挨拶をしていた。声が裏返っていて、恐怖しているのが誰の目にも明らかだ。
ここまで怖がらせるって、いったい……。
「≪アルミちゃん≫は配信中かぇ? わらわも混ぜてくれんかのぉ」
こんなにかわいくて……お耳もしっぽももふもふなのに。
「もちろんですよー。今、ギルド加入1週間の記念に、ギルドメンバーの紹介をしていたところなんですよー」
「うれしいのぉ。わらわのことも紹介してくれるのかぇ?」
≪サポちゃん≫の背中にあるカメラに向かって目を細める。
「ギルマスを紹介しないで誰を紹介するんですかー。今も≪ニャンニャン姫≫のお話をしていたところなんですよー。ね、≪アサダ≫さん?」
≪ニャンニャン姫≫に借りを作るとどうなるかのお話、続き聴きたいなー♡
「いや、その……なんだな……まああれだ……」
≪アサダ≫さんはしどろもどろになり、「あー」とか「おー」とかよくわからないことを言いながら、ひたすら額の汗をぬぐっている。それでも間に合わずに汗が頬を伝って地面へとポタポタと垂れていた。
【≪アルミちゃん≫は鬼畜ですか。≪アサダ≫さんはもうダメです。発汗、発熱がひどいです。このまま放っておくと倒れてしまうかもしれませんよ】
そんなにヤバいの?
≪ニャンニャン姫≫ってかわいくてやさしいと思うんだけどなー。もしかしてホントに裏の顔があるのかな?
【サブマスの≪アサダ≫さんにしかわからない何かがあるのかもしれませんね】
めっちゃ気になる!
『ギルドマスターとサブマスターの闇に迫る!』
これって視聴者数稼げそうじゃない?
【どうでしょうね。何もやらないよりはマシかもしれませんが、ホントに怖い人だったらどうするつもりですか?】
その時は≪サポちゃん≫が助けてくれる、よね?
【何も考えていないんですね……。私は知りませんよ。忠告はしましたから】
はーい。忠告感謝しまーす。まあ言うてもそんなに恐ろしいことはないでしょ。こんなにかわいいんだもん♪
よーし、ギルドの闇を暴くぞー!
「じゃあ、≪ニャンニャン姫≫に質問です! お名前と年齢、JOBを教えてください」
「あ、バカッ! 姫に何を――」
と、口を挟もうとした≪アサダ≫さんを「良いのじゃ」と制止し、姫がカメラの前に進み出る。
「わらわは≪ニャンニャンティア≫と申すのじゃ。年齢は……覚えておらんのぉ。人とは違うでなぁ、いちいち数えたりはせんのじゃ。おそらく千は超えておるかの?」
「えー、すごい! 獣人ってそういうものなんですねー。勉強になるー!」
「わらわは獣人とは違うものかもしれんのぉ。妖の類だと思ってもらってかまわぬのじゃ」
妖。
妖怪?
あ、もしかして猫又ってことかな?
「JOBは一応『
「≪ピート≫くんと同じだー! 『
≪ニャンニャン姫≫が同じ『
「わらわが調教するのは、モンスターだけではないがのぉ」
目を細めて……なぜか≪アサダ≫さんのほうを見つめている。
「そうなんですか?」
「のぉ、≪アサダ≫よ?」
「はい! 姫はすべての生き物の頂点に立たれる至高のお方です!」
はっ、もしかしてそういう……大人の調教的な⁉
≪アサダ≫さんってば、≪ニャンニャン姫≫に調教されちゃってるってこと? 奥さんも子どももいるのに、2人はいやらしい関係なの⁉
【≪アルミちゃん≫は心が汚れています……。必ずしも、『調教=いやらしい』とはなりませんよ】
えっ、そうなの⁉
わたし実はそういうマンガはけっこう好きで……。
【≪アルミちゃん≫の清楚なイメージが崩れるのでその話題はちょっと】
あ、ごめんなさい……。
わたし、レディコミなんて読んだことないですよ?
しょ、少女マンガ最高っ! あー、王子様とキスしたーい。
【それはそれで露骨すぎる路線変更なので冷めます】
注文が多い!
わたしの清楚なイメージって何なのさ……。
「あ、そうだ。さっき≪アサダ≫さんが≪ニャンニャン姫≫は超資産家っていう話をしていたんですけど、それはホントですか⁉」
ギルマスの執務室の金銀財宝は、もしかして≪ニャンニャン姫≫の私財だったり?