「続いてもう1人のサブマスの紹介ね。非戦闘系のクエストとギルド全体の庶務も取り仕切っている人なんだけど、名前は≪アサダ≫さん――」
「俺がどうかしたか?」
背後から声をかけられた。
「あ、≪アサダ≫さん! おはようございます!」
まるでタイミングを見計らったかのように、サブマスの≪アサダ≫さんが登場だ。
「おはよう、≪アルミちゃん≫。これが例の配信というやつかな?」
≪アサダ≫さんがこっちに向かって歩きながら、手を振ってくる。
≪アサダ≫さんはわたしと同じ人族。名前からしても見た目からしても日本人っぽい。
若そうなんだけど妙に年寄りくさい言動もあったりして、年齢不肖なところがあるんだよね。まあでも、とっても人当たりが良く、誰からも好かれるタイプの陽キャイケメンだ。
「えっ? あ、はい、配信中ですけどー。って、≪サポちゃん≫何してるの?」
≪アサダ≫さんが手を振る先を見れば、≪サポちゃん≫がでっかいビデオカメラを背中に乗せて、わかりやすく撮影をしていた。
【こちらのほうが雰囲気が出ると思いまして、用意してみました】
「普段の見えないカメラよりはたしかにね……。配信を知らない人にも説明はしやすいけれども……」
背中にそんな大きなカメラを背負っていたらめっちゃ重そう。
なんか肩で息をしているし、わたしが無理に持たせているみたいに見えてこない?
【≪アルミちゃん≫の命令で……今日も……一生懸命カメラを回しています。これをしないとご飯のネコ缶がもらえないのです……】
「うわっ、めっちゃウソつきがいまーす。わたしより先に食堂に行って、ネコ缶3つも食べて満腹になって、食堂のテーブルの上に大の字になって二度寝していたぐーたらネコですよー。配信見ている人は絶対騙されないでー」
「あっはっは。お前たちは本当におもしろいな」
突然、≪アサダ≫さんが大笑いし始めた。
「ルーキーはこうでなくちゃな。久しく忘れていたこのフレッシュさがたまらんなあ」
「フレッシュ、ですか……?」
≪サポちゃん≫がネコ缶食べて二度寝しているのにフレッシュさを感じる……? やっぱりちょっと変な人。新人のわたしたちにすごく目をかけてくれるやさしい人でもあるんだけど、ちょっとズレているというかなんというか……。
「新人冒険者ってのはな、ギルドに加入して1年も経つと、大抵小さくまとまるんだわ。自分の役割や伸びしろを理解しました~、みたいな面して、ぜんぜん無茶しなくなっちまう。そういうのはつまらんよな~」
「は、はぁ……そうです……ね?」
おっさんの説教か……。
まだ若そうなのに、部長と同じようなことを……。管理職になると若者に説教したくなるものなのかな?
【若者?】
しっ、黙って!
わたしは≪アルミちゃん≫15歳! お肌ピチピチの新人『
「その点お前たちは良いな。≪ピート≫もなかなか見どころがあるが、俺は断然、お前たちに可能性を感じているぞ」
「ありがとう……ございます?」
可能性かぁ。
まあね、≪アサダ≫さんのその目は間違っていないかもですねー。わたしは唯一無二の存在ですからね! ユニークJOBですし! 世界に1つだけの花! あーどうしよう! わたしのかわいさ、わたしの強さ、わたしという特別な存在をみんなで取り合わないでー♡ 好きになっても良いよ♡ でもわたしは誰のものにもならないの! みんなの≪アルミちゃん≫でいたいから♡
【解毒ポーション飲みますか?】
毒食らってないわ! ぜんぜん正気だわ!
わたしはアイドルなの! みんなに愛されるアイドルになりたいの!
【その前に人気配信者を目指すと良いのではないでしょうか?】
そう……ね……。
高評価とチャンネル登録よろしくー♪
【心の中で騒いでも意味がないですよ。ちゃんと言葉で言わないと、視聴者の方には伝わりません】
そうですねー。知ってますー。
こういうのはタイミングがあるのよ!
【そうですねー。知ってますー】
腹立つ……。
カメラの代わりに、背中に鉄の塊でも乗せてやろうかしら。
「ところでこの配信とやらで、俺のことを紹介してくれていたのかい?」
「あ、そうですそうです! ギルド加入1週間経ったので、ギルド生活を振り返りつつ、ギルドの紹介をしようかなーって」
また脱線しちゃってたー。
視聴者数はどうなっているかな?
【現在の同時接続数は8500を越えました】
おお、≪アサダ≫さんの登場でめっちゃ増えてるー!
さすがサブマス、数字持ってるなー。
「なんかね、≪アサダ≫さん目当てでたくさんの人が配信見てくれているみたいです! せっかくなので挨拶をしてもらっても良いですか⁉」
年齢不詳のさわやかイケメンで視聴者数を稼ごう♪
【自力で数字を作る努力をですね……】
うっさい!
いいの! わたしはこういうスタイルでやっていくの!