「≪ダイ≫! 助けにきたぞ~~~~!」
≪アサダ≫さんがわたしを担いだまま、器用にアークデーモンのメテオストームの間をぬって走る。
「おわっ⁉ ≪アサダ≫か⁉ なんで≪アサダ≫がここにいるんだ⁉」
ワニ顔の戦士≪クロッシーダイク≫さんが≪アサダ≫さんの声に反応する。どうやら元気みたい。
首をひねって状況を確認。≪クロッシーダイク≫さんは重鎧に身を包んで、巨大な盾でアークデーモンの魔法を防いでいる真っ最中だった。
「今はそんなことはどうでもいいっ!≪アルミちゃん≫!」
「は、はい!≪クロッシーダイク≫さん! この書類の確認をお願いしまーす!」
≪アサダ≫さんの肩から飛び降りる。
巨大な盾の下に転がり込みながら、依頼書を広げて≪クロッシーダイク≫さんの顔に叩きつけた。
残り5秒!
とにかく見て!
「これは……姫の特別クエストか⁉ えっ、今⁉ ああ、これはオレだな!」
ここでタイムオーバー。
間に合った……? ダメだった……? どっち?
【どうやらセーフ判定のようです。クエスト達成です。よくがんばりましたね】
「やったー!」
「おめでとう、≪アルミちゃん≫! ヒヤヒヤしたぜ~!」
わたしと≪アサダ≫さんは抱き合いながら感動を分かち合う。
「おい……。盛り上がっているところ悪いが……こっちもだいぶ盛り上がっているんだが⁉」
アークデーモンの咆哮。
戦闘も最終盤の盛り上がりどころだったみたいね?
「悪い悪い。姫の特別クエストの時間が迫っていたんでな。緊急事態ってことで、新人の≪アルミちゃん≫を連れてきたってわけさ」
「『わけさ』と言われてもな……。ああ、特別クエストな。通達が来ていたのは知っているよ。しかし、この状況は≪アサダ≫ですらきついだろう……」
「まあな。ハハ」
≪アサダ≫さんが乾いた笑いを浮かべる。
「かく言うこっちも、追加で2人も抱えたら相当にきついんだが?」
その間にもガンガン盾にメテオストームが当たっていますが、≪クロッシーダイク≫さんはずいぶん余裕そうですね。周りのお仲間は、もうほとんど倒れちゃってますけど……。
「お前たち2人を守りながら戦える状況ではないんだが?」
「それは……すみません!」
突然足手まとい2人が乱入してきてしまって……。
【≪アルミちゃん≫、レイドパーティーも崩壊しそうですし、私たちはそろそろ初の実戦と行きましょうか】
「そうだね、この辺りでそろそろ撤退を……えっ? 実戦?」
聞き間違いかな?
【実戦です。同時接続数も60000を突破しました。現在も接続数が伸び続けていますから、今が戦うチャンスです】
「いやいやいや、アークデーモンとかレベル1だと無理すぎるし……」
【レベル差ブーストを使えますから、十分に戦えるでしょう】
「……ホントにぃ?」
【ただし、一撃死だけは避けてもらって】
「……避けられるならね」
【確率回避ポーションの効果に期待しましょう】
頼みの綱がそれだけって……。90%の確率で死ぬじゃん!
【さあ、覚悟を決めてください。私たちの初陣を始めますよ】
マジでやるのね……。
「おい、まさか戦う気なのか⁉ さすがに死ぬからおとなしくしておけって……。ここは≪ダイ≫に任せよう。な?」
≪アサダ≫さんの声が震えている。
さっきまでのかっこいい≪アサダ≫さんはいったいどこへ……。
めっちゃ主人公感あったのに、今となっては盾の下で震えるだけの非戦闘職の人……。幻滅ー。
「≪サポちゃん≫が行けるって言っているので、わたし戦います! 今配信を見てくれている60000人のためにも!」
そう、わたしには配信を見て応援してくれている人たちがついている!
この人たちがわたしの力になる……んだよね? 今ここで撤退したりしたら、見限られちゃうかもしれない。ビシッとかっこいいところを見てもらって、「≪アルミちゃん≫ってけっこうやるじゃん! これからも配信を見よう!」って思ってもらわないといけないんだもん。
【≪アルミちゃん≫良いですよ~。今の表情、すごくステキでした。サムネイルにして切り抜き動画を広告に使います】
照れる……。
この後も人がたくさん来てくれるといいな。
【それではキャラクター≪アルミちゃん≫戦闘状態に移行します。『Wish List』アンロック。カウント3・2・1――『JOB』選択ロールスタート】
≪サポちゃん≫の口調が、平板なシステムボイス口調へと切り替わる。
ビビっていないって言ったらウソになるけれど、ワクワクだってしているの!
なんて言ったって、≪サポちゃん≫のアシストは最高だからね。
大丈夫、戦えるよ!
行くよ、わたし!