【先に用意しておいた出汁に、『人魚の涙』入りの魔石の粉団子を静かに沈めてください】
「おう、わかった。そっと……静かにな……」
今度はどんな爆破が⁉
と思ったけれど何も起きず。
でもなんかブクブクと泡が出ている。
【完全に泡が出切って、魔石の粉団子が溶けるまでしばらくお待ちください】
うーん、けっこう料理に時間かかっているね……。
残り時間4分か。
間に合うのかな……?
【もうすぐで完成です。この後扉の中に入れますから、中に入ったら≪アルミちゃん≫はとにかく急いで≪クロッシーダイク≫さんを見つけてください。ですが中は戦闘中のはずです。乱戦になっている可能性もありますから、十分に注意して行動をお願いします】
「OK! さっき『確率回避ポーション』も飲んだし、きっと大丈夫!」
「もちろん護衛してやるから大船に乗ったつもりでいてくれてかまわないさ」
≪アサダ≫さんはスラッシュアックスを肩に担ぎ直し、ニヤリと笑った。
普通にかっこいいなあ。
見た目、めっちゃ弱そうなのに頼りになる……。
【≪アルミちゃん≫、ダメですよ】
だーかーらー、そういうんじゃないって! 「サブマス尊敬してます」ってだけだから! 勘違いしないでよね!
【≪アサダ≫さん、そろそろ泡が出なくなりましたか?】
「おう。もうほとんど出ていないな。この後どうする?」
プスプスと小さな煙は立っているけれど、概ね魔石の粉団子は出汁の中に溶け切ったみたいだった。
【あとはゆっくりとかき混ぜて均一化できたら完成です】
「ゆっくりとかき混ぜて……よし、完成だ!」
≪アサダ≫さんが、謎の赤い液体の入ったボウルを掲げる。
ちょっと泡がポコポコしているけれど……。
「やったー! 完成だー!……ってこれを何に使うの?」
まだ何にも説明してないよね?
残り2分なんですが!
【それでは完成した液体を、鉄扉の……この辺りにぶちまけてください。広めに扉が濡れるようにバシャッと勢いよくお願いします】
それを爆発させて扉を破壊するってこと⁉
ちょっと待って! 離れるから!
「了解。それ~」
≪アサダ≫さんが謎の赤い液体の入ったボウルを両手に持ち、鉄扉の前に歩いていく。立ち止まってからしっかりと足場を確認。それから一呼吸おいた後、≪サポちゃん≫の指示した位置――巨大な鉄扉の右下辺りに、勢いよく謎の赤い液体をぶちまけた。
やったか⁉
あれ?
えっと……何も起こりませんけど? まさか失敗?
【さあ、いきましょうか】
「行きましょうって何⁉ 扉がちょっと濡れただけだけど⁉」
【今なら通り抜けられます】
……どういうこと?
「そう、なのか……?」
≪アサダ≫さんも困惑した表情を見せている。
通り抜けられるって言われても……扉は閉まったままだし。
【理屈を説明している暇はないのでとにかく私についてきてください】
「あ、ちょっと≪サポちゃん≫!」
と、呼び止めた時だった。
≪サポちゃん≫の体が鉄扉をすり抜けて、向こう側へと消えていったのだ。
「えっ、どういうこと⁉≪サポちゃん≫どこ行ったの⁉」
返事がない。
ホントに消えちゃった?
「通り抜けられる、か。なるほど、≪アルミちゃん≫俺たちも行くぞ。時間がないんだろう?」
「えっ、でも……そうですね。残り1分30秒ですし」
扉……。
≪サポちゃん≫が消えたあたりを触ってみる。
触ってみる?
触れない?
「何これ……。扉が透明になっている?」
どういうことなの? プログラムのバグ的なもの?
「なんだがわからんが、俺たちにも通り抜けられそうだな。行くぞ!」
「ら、ラジャー!」
≪アサダ≫さんに手を引かれ、濡れた鉄扉に体当たり……はせずにするりと通り抜けることができた。
「せ、成功した⁉」
【≪アルミちゃん≫遅いですよ! 残り45秒!】
「は、はい!」
辺りを見渡すと、ひどいありさまだった。
そこかしこに
デーモンは健在。
ってあれ、普通のデーモンじゃなくて、上位種のアークデーモンじゃない⁉
3次職でもレベルが高くないと、けっこうきついって噂の……。
報酬がクソマズなのに大型レイドじゃないと倒すのがきついって聞いていたから、AO時代のわたしは一度も戦ったことがなかった。
【あそこです!≪クロッシーダイク≫さん、健在です。最前線で1人、耐えていらっしゃいます!】
……あそこかぁ!
アークデーモンの真下にいるのが≪クロッシーダイク≫さんだ!
え、あそこに行くの⁉
わたし……かすったら死んじゃうんですけど……?
「≪アルミちゃん≫、行くぞ! ちょっと失礼!」
≪アサダ≫さんにひょいと抱きかかえられる。
「えっ、キャッ⁉ あ、はい!」
お姫様抱っこじゃなくて、肩に担がれる感じの……。あんまりエモくない……。
「俺を信じろ!」
「は、はいっ!」
もう残り20秒! 『
≪アサダ≫さんがわたしを担いだまま、器用にアークデーモンのメテオストームの間をぬって走る。
戦闘の中心部に向けて進むにつれ、チリチリと焼け焦げる臭いが強く鼻を突いてくる。
「≪ダイ≫! 助けにきたぞ~~~~!」