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第64話 何これ……料理番組か何かが始まったの?

 わたしたちは、 天井まで届くほど大きな鉄扉の前に立っていた。

 ところどころ錆びついた鉄扉の両脇には、巨大なガーゴイルの形をした石像が1体ずつ座っている。


【どうやらここがボス部屋のようです】


「ああ、間違いないな……」


 さすがにこれはわかりやすすぎるボス部屋。

 ……このガーゴイルの石像って、近づくと動きだしたりするのかな?


 ≪アサダ≫さんが躊躇なく鉄扉に近づき、片手で押し始める。


「扉が閉じたまま開かないということは、中で戦闘中のパーティーがいるということだな」


「なるほど……。≪クロッシーダイク≫さんたちはまだ中にいる、と……」


 扉が閉まって開かないんじゃ、ここで待つしかないのかな。

 戦闘中の感じを配信したかったのになあ。視聴数爆上げのチャンスが……。


「≪ダイ≫たちの心配はいらないだろう。ランクAの冒険者の集まりだからな。≪アルミちゃん≫の目的は戦闘に参加することじゃないだろう? クエストは≪ダイ≫に会うことが目的……そういえば時間は平気か?」


「あ、そうでした! クエストの残り時間は……12分! 間に合いましたね! ありがとうございます!」


 わたしと≪サポちゃん≫だけだったら、そもそもダンジョンの入り口の結界を突破できていなかった。≪アサダ≫さんがいてくれたからここまで来れました!


「お礼を言うのは早くないか? このまま12分間扉が開かなかったらどっちにしてもタイムオーバーなんだぜ?」


「あーそうですね。それは困りました……」


 12分か。

 そう言われるとひどく短い時間に思えてくる。


「何か方法はないかな……」


 ボス部屋の扉は一度閉まると強力な結界で守られるから、基本的には破壊不可能だしなー。

 ガーゴイルが実体化して倒せたら入れるとか、そういうギミックがあれば良いのにな。でも動き出す気配はないし、こいつはただの飾りか……。


【方法はあります】


「そうなのか⁉ 俺は知らないぞ?」


 ≪アサダ≫さんも知らない方法を≪サポちゃん≫が知っている。

 これは裏技的な何かなのかな。


【この手の扉ギミックには、抜け道があるんです】


「抜け道!」


 やっぱり裏技だ!


【≪アサダ≫さん、『混乱ポーション』と『魅惑ポーション』と『解毒ポーション』と『人魚の涙』はお持ちですか?】


「ちょっと待ってくれ……。ああ、全部ある」


【良かったです。あとは……道中拾っておいた魔石を】


「それはわたしが持っているよ。破片が5個しかないけど大丈夫?」


【十分です。念のためでも拾っておいて良かったですね】


 破片なんて大して何の役にも立たなそうだと思ったけれど、≪サポちゃん≫に言われて拾っておいたのでした。もしかして、ここで使う可能性があるってわかっていたの?


【≪アサダ≫さん、この場で私の言う通りに調合をお願いします】


「よしきた。調合は俺の本職だ。何でも言ってくれ!」


 ≪アサダ≫さんが腕まくりを始める。

 とっても生き生きして……やっぱり戦闘よりもそっちのほうが好きなんですね。


【まずは『混乱ポーション』をベースにします。そこに『魅惑ポーション』を大さじ1。『解毒ポーション』を小さじ2。泡立たないようによくかき混ぜます。アクセントとしてお好みで『初級HP回復ポーション』を少々加えるのも良いですね】


 何これ……料理番組か何かが始まったの?

 思っていた調合とぜんぜん違う……。


【しっかり混ざってほんのりピンク色になればベースの出汁は完成です】


 出汁って言っちゃった!

 完全に料理じゃん!


【いったんベースのほうはラップをかけて寝かせておきましょう】


 ラップ? あ、≪アサダ≫さん、ちゃんと持っているのね。ラップって『錬金術師アルケミスト』の常識的なアイテムだったりするのかな。ラップなんてどうやって作っているんだろう。何か不思議な感覚……。


【続いて魔石の欠片を細かく砕いて粉状にしてください】


「おう。臼でやっても良いか?」


【問題ありません。時間もないので手早くお願いします】


 ≪アサダ≫さんは頷くと、小さなすり鉢のようなものを取り出して、魔石の欠片を砕き始めた。


「わたしもお手伝いしましょうか?」


 それくらいならできそうだけど。


「大丈夫だ。手早く均一にやりたいから任せておいてくれ」


「あ、はい」


 お邪魔だったみたい……。

 わたし、役立たず……。


【それくらいで大丈夫です。砕いた魔石の粉に『人魚の涙』を5滴垂らしてください】


「5滴もか? それだと反応がヤバくないか?」


 ≪アサダ≫さんが何かに驚いている様子。


【それは魔石と『人魚の涙』の場合の反応です。魔石を十分に挽いて粉にしていれば、反応は限りなく小さなものになります。ただし1滴垂らすごとに、10秒以上の間隔を空けて、なじませる必要があります】


「そうなのか。粉にするといけるのか。それは知らなかった……」


【この≪サポちゃん≫を信じてください】


「わかった。ではやるぞ」


【お願いします】


 そう言って、≪サポちゃん≫が若干≪アサダ≫さんから距離を取る。


 えっ、やっぱりなんか危ないの?


 ≪アサダ≫さんが、真っ青な液体――『人魚の涙』をすり鉢に垂らした瞬間、「ボンッ」という大きな音とともに真っ赤な煙が天井まで吹きあがった。


「ちょっ⁉ えっ、≪アサダ≫さん、無事ですか⁉」


 とんでもない爆発が起こってますけど⁉


「大丈夫。大したことはない。本当に大したことがなかった……。≪サポちゃん≫の言う通りだ。粉にするとこうなるのか……。学んだぞ」


【はい。≪アルミちゃん≫のクエストをお手伝いいただいたお礼のようなものです。今後の研究に役立ててください】


「大きすぎる報酬だ。感謝するよ。よし、残りの4滴もやってしまうから、2人は離れていてくれ」



 その後、4回の爆発を無事に乗り越え、魔石の粉と『人魚の涙』の調合が完了した。


 なんか魔石の粉が人魚の涙の雫を吸って、赤くて小さなお団子みたいになっていた。


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