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第63話 ≪アサダ≫さんが突然失踪したりしないことを願います

 最後の階段を降りた先は最下層の15階。


「ここがボスマップのはずだよね。やっぱりモンスターはぜんぜんいないね」


 どうやら最下層がすべてボス部屋になっているわけではないらしい。

 ここからボス部屋を探して回らないといけないってことらしい。あまり支配力が強くないボスモンスターの場合にはこういうことも稀にある。まあ、支配力だけではなくて、ボスモンスター自体の強さも大したことがないことが多いんだけどね。


「正直肩透かしを食らっちゃったかもしれませんねー。ほかギルドとの合同パーティーなら、速攻片付いちゃっているでしょう」


「そうかもしれないが、油断せずに行こう」


 ≪アサダ≫さんが武器を取り出す。

 スラッシュアックスだ。

 変形する武器で、斧モードと剣モードがあるため、様々な形態のモンスターに対応できることで人気がある。


「わたしも……」


【戦闘状態に移行していないため、まだ『Wish List』がロック状態です】


「残念……。配信を見てくれているみんな! どうかもうちょっとわたしたちに付き合ってね!」


 同時接続数が大事だから。

 ここで離脱されちゃうと、わたし、『他職への変身システムトランスフォーメーション』できなくなっちゃう。


【現在の同時接続数は13000です】


 なんとか10000人は超えているね。

 このままキープしてくれれば最低限の戦闘はできる!


【こっちです。足跡が多く残っています】


 ≪サポちゃん≫の誘導に従って、≪アサダ≫さん、わたしの順に隊列を組んで走って進む。

 ≪アサダ≫さんは有効化したスラッシュアックスを背負って準備万端。わたしも何か武器……ロッドか、せめてモーニングスターでもほしいなあ。ダンジョン内にいて素手なのはさすがに不安だよ……。


 と、≪アサダ≫さんが走りながら肩越しに一瞬こちらを見てくる。


「ボスマップは不安か? 大丈夫だ。俺に任せろ」


 え、やだ、かっこいい……。


「≪アルミちゃん≫は模擬戦闘ではかなり動けていたと聞いているが、実戦では油断するなよ。ここのモンスターとはレベル差が50以上はあるだろう。絶対に無理をするな」


「はい♡」


 ≪アサダ≫さん、わたしを守ってぇ♡


【≪アルミちゃん≫……不倫はいけませんよ】


 わ、わかってるよ!

 なんでもかんでも恋愛に紐づけようとするのはどうかと思うよ⁉


【あなたがそれを言いますか……】


 なによ! なんか文句ある⁉


【≪アサダ≫さんは『猫の眼』ギルドに必要な人材です】


 うん? そうだね? 突然何? それがどうかしたの?


【≪アサダ≫さんが突然失踪したりしないことを願います】


 それってどういう意味……。


【≪アルミちゃん≫に近づく悪い虫はすべて排除しますからご安心を】


 ≪サポちゃん≫の虹彩が怪しく光った。


 怖いんだけど……。




「そうだ。先にこれを飲んでおけ」


 ≪アサダ≫さんが立ち止まり、わたしに紫色の液体が入った小瓶を渡してくる。


「これはなんですか?」


「『確率回避ポーション』だよ。最近試験的に運用を始めたものだ」


「確率回避? そんなのあるんですか!」


 AOにはそんなポーションなかったよね……。


「攻撃を受けた時、確率で完全回避ができるって代物さ。効果時間が30分しか持たないのと、その回避確率が10%と低確率なのが玉に瑕だけどな」


「それでもすごいですよ。完全回避だなんて。ボス戦の在り方が変わっちゃいそうです!」


錬金術師アルケミスト』のスキルで新薬を作りだしたってことなの⁉ ≪アサダ≫ってマジですごい人なんじゃ……。


【≪アサダ≫さんはとても勤勉で有能な方なのは間違いありません。しかし、『錬金術師アルケミスト』というJOB自体の地位がもっと向上すべきなのも間違いありませんね】


 JOB自体が過小評価されているってことなんだ……。

 AOでも火炎瓶とポーションを売る人みたいな扱いだったもんね。人が作ると効果がまちまちだから、効果が安定した店売りのポーションのほうが人気だったし。


「とりあえず飲んでおいてくれ。10%回避だから、おまじないみたいなものだけどな」


「ありがとうございます! すっごく助かります!」


 なんていったってわたしはレベル1だもん。

 もし一撃でも受けたりしたら、たぶん即気絶しちゃう。それが10%の確率でも助かる可能性があるなら、それは大きな安心材料ですよ。


【準備は良いですか? 探索、再開します】


 OK。

 ボスデーモンちゃんはどこですかー⁉


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